22.おっかいもの おっかいもの
揉めた。
何を?ですって?
それはわたくしが作ったあの大好評のお菓子の名前よ。
元の名前がスノーボールなのだから、スノーボールだと言っているのに、白くないのに雪というのはおかしだけにおかしいとか言い出したヤツがいるのよ。
・・・雪の話だけに滑ったわね。
たしかに、本来の粉砂糖ではなく三盆糖を使ったから黄色みが強いのだけれど。
そしてこれからも厨房へ入るために、お母様にお目こぼししていただく用のココア味を作ったところ、黒いからやはり雪ではないと言われたの。
誰に?ですって?
誰よりも数を食べたメイドのメアリによ。
そしてなんとヤツは勝手に名前を付けてくれやがりましたのよ。
『エミリアーヌお嬢様がお作りになったボールのようなお菓子だからエミールですね』と。
わたくしが考えたレシピではないのだから、勝手にわたくしの名前を入れるんじゃないわよ!と言ったのに、すぐに使用人の間ではエミールで定着してしまったの。
そうしたら、いつの間にかお兄様たちまでそう呼んでいるし。
まったく、はずかしいったらないわ。
わたくしは絶対にそうは呼ばないんですからねっ!
―――さて、気を取り直して今日はお買い物を楽しむことにするわ!
今日は我がマルセルム侯爵家に商人がきて、客間3部屋を使ってお店が開かれている。
客間といってもこのために用意されている部屋なので、ここには普段からベッドやタンスなどの家具はない。
たくさんのテーブルを配置して、服飾雑貨からインテリア、果てはお菓子までと、セレクトショップのような状態よ。
普段は品物を指定したりオーダーして商人に持って来させるので、お店で選ぶなんてことはめったにしないけれど、我が家では年に数回、こうして国で作られた新商品などの買い物をしているの。
隣国のお姫様だったお母様は、あまりこのライニッシュ王国の商品に興味はないらしく見に来られることはないけれど、一応侍女たちがチェックにきているわ。
さて、今回はどんなものがあるかしら~。
最初の部屋ではアルフ兄様と婚約者のリディアンヌ様が仲良く商品をみていた。
もうすぐ我が家のいちゃいちゃ人口が増えるのね。
この部屋にはアルフ兄様の結婚のために用意されたと思われる品が多いので、欲しい物はないわね。
ラブラブなふたりを邪魔しないように、わたくしはロイス兄様と隣の客間へ移動した。
わたくしたちのお買い物が終われば使用人も見ていいので、朝からメアリがそわそわしていた。
なんでもお兄さんのお誕生日が近いのでプレゼントを探したいらしい。
もうひとつの部屋には使用人たちの買い物を見越して、お手頃価格の物がたくさん用意されているはず。
あ、そういえばロイス兄様ももうすぐお誕生日だわ。
わたくしもなにか探しましょう。
別にわたくしはお小遣いを持っているわけではないので、正確にはわたくしからのプレゼントにはならないのだけれど。
以前は少しでも気に入ったらポンポン購入していたけれど、今は恵美としてお小遣いをやりくりしていた時のくせで散財し辛い。
吟味しようと小物コーナーに居座る。
美しい細工物をじっくり眺めながら、ゆっくりと位置を移動していると、ある一角で固まることになった。
こ、これ、もしかしてゲームの中に出てきたのと同じ物!?
なんと属性の魔力を上げる魔石のついたアクセサリーコーナーに、ゲーム『光の君に口づけを』の公式グッズが並んでいたのよ!
危うく叫ぶところだったわ。
これ!これよ!ゲームの中で婚約者であるエミリアーヌからプレゼントされた物だと、そのルートでの攻略対象者が腰に付けていた物とまったく同じ!
複雑に編み上げられた細い鎖の中心に魔石がはめ込まれた物なのだけれど、この地属性の黄色い石はロイスが大切にしていた物だわ。石の模様が同じだもの!
こっちの火属性の赤いのはアンドリュー、そしてこの水属性の青いのはシャルルの!
同じ種類の物があっても見分けがついた。
少しお高かったこの公式グッズを買うべきか悩んで、散々カタログを見ていたから間違いないわ。
なんてことなの!今なら全種類コンプリートできるわ!
え?待って、わたくしが13歳の現在、ゲームの中のエミリアーヌもまだ誰とも婚約していないはずよね?
今ここに出ていても買うわけがないわ。
商人はよその家にも行くはずなのに、攻略対象者と婚約するまでこれらは売れ残っているものなの?
「エ、エミリア、なんだ、そんなものが気に入ったのか?まだ自分の魔力属性もわからないのに」
3つを並べて考えていたところに、ロイス兄様から声を掛けられた。
「え、ええと、これをロイス兄様のお誕生日プレゼントにしようと思ったのですが、いかがですか?」
ロイス兄様に黄色の石の物を差し示す。
そう、誰よりも、そしてルーチェと恋に落ちても尚、このアクセサリーをロイスルートのロイスは本当に大切に扱っていた。
悪役令嬢がもういないエンディングにでさえ、身に着けていた物だ。
もうわたくしは婚約者にはならないけれど、喜んでもらえる気がする。
「こ、これを?誕生日に?」
そう言うとロイス兄様がアクセサリーを手に取り、石を見つめながらうれしそうに笑った。
そう、まるでロイスルートのエンディングのように、本当にうれしそうに。
びっくりしてロイス兄様を見つめていると、背後、それもとても近いところから声を掛けられた。
「へぇ、いいですね。私にも選んでくださいませんか?」と。




