21.Happy Halloween
うっふんふーん♪ほっめられた~♪
ハーイ!みなさま、ごっきげんよ~う。
さあ、お口を開けてちょうだい!
わたくしが作ったおいしいお菓子を差し上げるわ~。
Trick or Treat なんて言わなくてもいいのよ~。
うふふ~。わたくし、只今とてもご機嫌で家じゅう回っているところ~。
なぜなら、先ほど作ったお菓子が大好評なの~。
だから見境なく、その場に居る使用人たちの口に入れて歩いているのよ。
仕事中なのに表面にまぶした和三盆が手に着くと面倒でしょうから、わたくし自らお口へ入れてあげているの。
あら嫌だ。お嬢様命令で無理やり食べさせているなんてことはないわよ。
だって、みんなおいしいと褒めてくれるもの~!
わたくしが作ったのは一口サイズのスノーボール。
くるみボタンみたいな形状の、ほろほろ食感のクッキーよ。
超簡単で時間もかからないのにおいしいのよね。
普通のクッキーはド素人のわたくしより料理人が作ったものの方がおいしいでしょうけれど、この食感のクッキーはこの世界では食べたことがないから、試食させた料理人たちもびっくりしていたわ。
そして真っ先にアルフ兄様とロイス兄様のところへ持って行ったら、ものすごく褒められたの。
お父様とお母様はお留守だからあとになるけれど。
あ、メアリ、あなたしれっと口を開けているけれど三個目でしょ?
3階に先回りしたわね。
だめよ、そこまで和三盆の量がなかったから使用人は一個ずつよ。まあ、いいわ。
寛大なわたくしは、ちゃんとラウルの口にも押し込んであげたわよ!
危うく指まで食べられるところだったけれどもねっ。
またニヤニヤしていて、ほんと、失礼しちゃうわ。
さて、家の中は終わったわね。
次は庭を回りましょう。
足が痛いのも忘れてスキップしながら外へ出ようとしていたら、ちょうどお母様の馬車が入ってくるのが見えた。
「おっかあさま~、おっかえりなっさいまし~。わたくしお菓子を作りましたの~!あとでお持ちしますわね~」
超ご機嫌でお出迎えをする。
「・・・エミリアーヌ!なんですか、はしたない!お菓子を作ったですって?あなた、何をしているの?すぐにわたくしのお部屋へいらっしゃい!」
ぴゃ!まずい、怒られる。
はぁ、そうね、侯爵令嬢としてはありえないわよね。
めったに褒められることがないからはしゃいでしまったわ。
庭にいる使用人に配るのは、また側をうろついていたメアリに託した。
配り終えて、あまったら食べていいからと言い含めて。
―――お母様用に取り分けておいた分を持ち、重い足取りでお部屋へと向かう。
うーん、いつみてもフリフリピンクなお部屋ね。
お着替えをしているお母様を待つ間に、持参したスノーボールをお皿へ出してもらった。
美しい花柄のお皿に置くとかわいさ倍増ね!とまた浮かれそうになるのを神妙な面持ちで控えていると「大丈夫でございますよ。とてもおいしゅうございましたからね」とメイドに励まされた。
「それで?あなたは何をしていたというの?」
お母様が椅子に座るなり問うてきたので、エスペル王国のお砂糖でこのお菓子を作りましたと報告してお皿を示す。
訝し気なお母様に代わって、侍女のリリアが一つ食べてくれた。お毒見ですか?
「んん?ホロリと崩れる変わった食感ですが、とてもおいしゅうございます」
続いて侍女のメリルも食べてベタ褒めしてくれ、そしてお母様に勧めてくれた。
ようやくお母様も一つ小皿に取らせてじっくりと眺めてから口にしてくれる。
お姫様はさすがに慎重ね。あ、単に娘が作ったものなど信用ならないからかしら。
それでも黙って二つ目を取らせたので、お口には合ったもよう。
思わずにやけそうになるのを紅茶を飲むことでごまかした。
「これをあの三盆糖で?」
二つ目を召し上がったお母様がつぶやく。
呼び名は三盆糖なのね。
「エミリアーヌ」
「は、はい、お母様」
「これをあなたが作ったとはどういうことなのかしら?なぜあなたが厨房に入ったの?」
はい、言い訳は考えてありますし、口裏合わせもすんでおりますわ。
先ほど、たまたま厨房の前を通ったところ、料理人たちが『奥様からいただいたこの有難いお砂糖を、どう生かして使うべきか』と、真剣に話し合いをしているのが見えた。
そこで、たまたま以前本で知ったお菓子のレシピを教えたのだけれど、うまく伝えられなかったのでわたくしが作ってみることにした。
もちろん、焼くなどの危ない工程は、クッキーと同じなので料理人に任せた。と説明する。
ええ。ほとんど事実よ。
レシピを教えずに『わたくしがやるのー!』とだだはこねたけれど。
まあ、そうは言っても、材料を混ぜて丸めただけなのよね。
さすがにオーブンの使い方はわからなかったので、お願いしたわ。
そうしたら、火の魔力を使っていたのよ。あれはわたくしには無理。
ということで、わたくしのチートスキルに料理という項目はないことが判明したので、これで終了。
「本でレシピを?いったいどの部屋にあった本かしら?」
さすがにお母様はお兄様たちのように手放しで褒めてはくださらないわね。
「王城の図書館でたまたま手に取った本だったので、もうわかりませんわ」
ああ、だめだわ。お母様が完全に疑っている表情だわ。
「・・・まあ、いいわ。そういうことにしましょう。エミリアーヌ、そのレシピを書いてちょうだい。説明がむずかしいようなら絵付きで」
「はい?まさかお母様がお作りになるのですか?」
「そんなわけないでしょう。お兄様に送るのよ。もともとエスペル王国の小さな村で作られている献上品のお砂糖で、なにか特色を生かせるいい使い道はないかと渡されたものなの。このクッキーならきっと喜んでいただけるわ」
なるほど了解ですわ。
はぁ、でもこれ以上疑われるのは避けたいわね。
違うお菓子に手を出すのはやめましょう。
・・・お母様が三つ目を口に入れたわ。
「でも、やはりあなたが厨房に入るというのはね」
「お母様、これ、お母様のお好きなココアの味にもできますのよ」
「・・・・・・」
ふふふ、お母様が黙ったわ。
またこのお菓子を作ることだけは許可していただけそうね。