20.ちーとばかしチートスキルをください
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あのあと殿下にまた塔へ駆け上がられてしまい、次の公務も遅刻したと従者のアランがぼやいておりましたが、さて、ルーチェに転生したと言っていたエミリアーヌの方はどうしておりますかね。
筆者が遅筆で申し訳ございません。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
皆さま、ごきげんよう。
わたくしはエミリアーヌ。ええ、エミリアーヌ・マルセルムですわ。
昨日、ヒロインに転生できたと喜んだのは勘違いからで、残念ながらわたくしは未だ悪役令嬢のままでした。
やはり、殿下にヒロインのようにお姫様抱っこされたのは夢だったようですわね。
それにしても、いったいどうやってわたくしは下に降りたのでしょうか?
そこのあなた、ご存じないかしら?
え、そんなことよりあのあとどうなったのか、ですって?
ああ、わたくしがヒロインを自称したせいで、詐欺罪にするべきか精神鑑定をするためでしょうね、王城のお医者様を呼ばれてしまいましたわ。
お医者様を待つ間に、ロイス兄様に両肩を掴まれながら『お前はエミリアーヌ・マルセルムだ!』と、いつものツンもない真面目な顔で言い聞かされましたの。
それはもう、お前は悪役令嬢だ!と攻略対象者から暗に言われるという恐ろしい体験でしたのよ。
なんとか三度目までは完全否定したものの、六度目となればあきらめがつき、わたくしはエミリアーヌですと自白いたしました。
まあ、おかげでお医者様が到着される頃にはすっかり夢から現実に戻り、寝ぼけていたせいだと言い張りまして、罪に問われることからは免れましたわ。
あと良かったことといえば、王太子殿下専用の居住棟からほど近い、王族や来賓用と思われる馬車回しにうちの馬車を呼んでもらえたので、足の痛みをこらえながらあの長い回廊を歩かなくて済んだことくらいですわね。
とても近かったので、次回もあちらから入りたいくらい・・・
次回?・・・次回。
ああ、そういえば殿下からまた謝罪に来るようにと仰せつかりましたわよね?
きっと殿下の恋人様が淹れてくださったすばらしいお紅茶を、全部飲み切らなかったから謝罪せよということなのですわ。
また地味なドレスを用意させなければ。あと、歩きやすい靴も。
ちなみに、なぜロイス兄様が王太子殿下専用の居住棟入口ホールにいたかというと、アルフ兄様の指示でお迎えに来て下さっていたからだそう。
なんでも、またアンドリューが我が家へ突撃して来たらしくて。
おかしいですわね。お礼と謝罪は不要とのお手紙を出しましたのに。
ああ、殿下にも意味のわからない謝罪文と言われてしまいましたものね。
わたくしの遠回しな文章が拙くて、きっと伝わらなかったのですわ。
またお手紙を出し直さないといけませんわね。
はぁ、それにしても結局何をしに行ったのかわからないのに怒涛の一日でしたわよ。
以上で報告は終わりますわ。ではまた。ごきげんよう。
―――そして一夜明けて今現在、わたくし・・・ではなく、うちのメイド達が花瓶が足らないと途方に暮れているところ。
なぜなら、王城から花が大量に届いたのだから。
しかもすべて薔薇。色とりどりの薔薇。
これはきっと、あの時殿下が恋人様に見ておいでとやさしく囁いていた、見頃だという南庭園の薔薇なのでしょうね。
ということは、見に行ってこれらを贈って下さったのは恋人様?
殿下からお詫びとお見舞いです。という言伝があっただけでカードもなかったことですし。
また勝手に気絶したわたくしになんぞにお見舞いを下さるなんて、きっと他にもいろいろと恋人である殿下のフォローをなさっているのね。
それに比べてわたくしはあんな不埒な夢を見ていただなんて。
やはりわたくしでは敵わないすばらしい方ね。
次回お会いできたらお礼とお詫びを申し上げましょう。
さて、これで殿下への恋心もすっぱりと終わりにできたことですし、そしてすべての攻略対象者との婚約からはもう逃げられたと言っても過言ではないわよね。
ああ、もう不確かな執事の件も忘れることにしましょう!
わたくしはわたくしだけでちょっぴりヒロインに逆ハーレムルートへのお手伝いをして、そして将来はお父様が決めてくださった方とそれなりに幸せになれればいいわ。
はぁ、とりあえず、ヒロインが現れるまで悪役令嬢の出番もないし、王太子妃になるべく努力していた勉強時間もなくなったことで暇ね。
何か始めたいわ。
・・・そういえば、転生ものといえば、チートスキルがつきものよね?
いまのところ、なにか突出した能力はわたくしには無いけれど、王道といえばなにがあったかしら?
戦闘能力、魔術、医術、農業・・・料理?
恵美は平凡な女子高生だったから、たいした前世の知識も持っていないのよねー。
強いていえば少しお菓子が作れたくらい?
ふぅ、悪役令嬢にはスライムより特典がないのね。
まあ、とりあえず厨房を覗きにいきましょう!いろいろ試してみないとね。
まだあちらこちらの扉を開けて、花瓶になりそうな物を探しているメイド達を尻目に、筋肉痛の足を動かしながら厨房へ向かうと、料理人達が一塊になって何かを摘まんでいた。
「料理長、ごきげんよう。お願いがあるのだけれど、わたくしに厨房の隅を貸して欲しいの。あと食材も少し分けて下さらない?」
「は?え、お、お嬢様!?なぜこんなところへ?誰かに言いつけてくださればおやつをお作りしましたのに」
前世の記憶が戻ってから実施した対人関係改善運動が功を奏して、今では使用人達ともだいぶ良好なやりとりをしている。
まあ、お嬢様が厨房に入るのは歓迎されないだろうなとは思っていたけれど。
「いいえ、自分でやりたいの・・・あら?それはなんですの?」
一斉に頭を下げている料理人たちが囲んでいる台には、なにやら淡い黄色の粉が少量置いてあった。
「お嬢様が料理を?・・・はっ、ああ、これは奥様がエスペル王国からお持ち帰りになったお砂糖?でございます」
聞けば、お母様がお土産として持ち帰ったけれど、どう使うかの指示もなかったのだそう。
普通の砂糖として使うのもつまらないので、皆で考えていたところだという。
「ふーん、わたくしにも見せてちょうだい・・・あ、これ、もしかして和三盆?」
はしたなくもちょろっと舐めてみたら、まさしく和三盆だった。
ようは落雁よね、懐かしいわ。恵美はあまり食べる機会はなかったけれど。
「お嬢様、これがなにかおわかりで?ワサンボンというのですか?」
あ、いけない、和三盆は日本語ね。こちらではなんというのかしら。
「ええ・・・そんなような名前、だったような気がするわ。手間のかかった高級なお砂糖よ。たぶん。あまり詳しくはないけれど。ああ、でもひとつだけこれを使ったお菓子のレシピを知っているわ」
和三盆のプリンとかあった気がするけれど、ただ砂糖と置き換えればいいのかはわからない。
でも、唯一作ったことのある物のレシピは覚えているわ。
「お嬢様が菓子のレシピをご存じで?へぇー」
あ、信じてないわね。
「これ、どの位あるの?・・・え?それだけ?では全部わたくしが頂くわ。ああ、お母様にはわたくしからお話をしておくから大丈夫よ。ところで、アーモンドプードル、いえ、アーモンドの粉って(この世界に)あるかしら?」
高級だというお砂糖を、わがままお嬢様に無駄にされることを渋る料理長に、助手という名の監視をつけられてしまったけれど、さっそくお菓子作りを始めることにした。




