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18.お菓子はこのあとスタッフが美味しくいただきました

「そういえば、先日の茶会でバーンズ伯爵令嬢が、エスペル語はマルセルム侯爵家で学んでいると言っていたが、どのような人物だと思う?」


殿下の耳の形も覚えようと必死に殿下を見つめていると、咳払いをひとつしてからようやくこちらに向いて下さった殿下にそう問われる。


え?恋人の前で婚約者候補の話を?

目だけをさっと周りに走らせたけれど、もうお茶を淹れ終わった彼女はわたくしの見える範囲にはいないので、表情をうかがい知ることはできない。

ああ、きっと彼女は婚約者候補のお茶会にもメイドとしていなくちゃいけなかったのよね。

さぞ辛かったことでしょうね。


もしわたくしがその立場だったら、候補者達にはとびきり苦いお茶を淹れてやるわ。

でも、今彼女が淹れてくれたお茶はとてもおいしい。

さすが殿下が選んだだけあって、できた人ね。

この本物の恋人を見てしまったから、もう誰が婚約者になろうとも動じずに済むわ。きっと。


それにしても、わたくしを呼び出してまで尋ねたかったこととは他の候補者のこと?

特定の個人を探るだなんて、カトレア様が最有力候補なのかしら。

婚約者に選ばれるのは確実だと豪語していたナタリア様は?

あ、そういえば先ほど解決したと殿下はおっしゃっていたわよね。

もしかして、カトレア様とナタリア様で迷っていたけれど、さっきのナタリア様の馴れ馴れしい態度に怒ったから、カトレア様に決めたとか?

うーん、それは困ったわ。


「カトレア様はとても勉強熱心でお人柄も良い方ですわ・・・はい」


つい浮かない顔をしてしまった。

あ、ナタリア様が選ばれなかったから浮かない顔をしているわけではないわよ。決してね。


カトレア様はバーンズ伯爵家の三女で、わたくしとは同い年。

わたくしのお母様の母国であるエスペル国の言葉を勉強したいと、もう半年も我が家に通ってお母様の侍女たちから習っている。

努力家で、他の国の言葉も勉強しているというのに、とてもきれいなエスペル語の発音ができるようになってきた。

勉強の後はわたくしとエスペル語以外禁止のお茶会をするのだけれど、講師をしている侍女にバシバシ訂正されながらも、いつもとても好感が持てる内容の話をしてくれる。

性格の悪いわたくしが、カトレア様には意地悪なことを言わないほど仲良くしているのよ。


たしかに、婚約者候補の中では一番聡明で王太子妃にふさわしいと思う。

でもわたくしとしては婚約者に押したくない。

なぜなら、本当は殿下と同じ年齢のお姉様が婚約者候補にあがるところを、直前のご病気によりカトレア様が候補にあがってしまい、あまり口には出さないけれど、ガッカリしていたのを知っているのだから。


カトレア様は官僚になって外交政策に関わりたいという夢があって勉強していたのよ。

王太子妃ではせいぜい外国の来賓と挨拶程度に話すことくらいにしか生かせなくなってしまう。

その時は『わたくしが婚約者になるから大丈夫よ!』と自信満々に言ってあげたのだけれど。

どうせヒロインが現れれば婚約は解消されるのだから、無駄に婚約者として過ごさせることなく、カトレア様には官僚を目指させてあげて欲しい。


「婚約者に薦めるのは嫌か?」


なぜか殿下が嬉しそうに問うてきた。


でも、カトレア様のことだからもう気持ちを切り替えて王太子妃を目指すかもしれないのに、勝手に官僚の方がいいなどと言ってしまうわけにはいかない。

答えに詰まり、浮かない顔のまま殿下のお顔を見つめてしまった。すると


「彼女は王太子妃より官僚の方が向いていると思うのだが、どうだろう?」


なんと殿下の方からそうおっしゃっていただけた。

さすが殿下、人の活かし方をよくわかっていらっしゃる!


「はい、わたくしもそう思いますわ」


うれしくなってとびきりの笑顔でそう答えたのだけれど、また顔を背けられてしまった。


いくらお好みではないとはいえ、さすがにそうあからさまにわたくしの顔を嫌がられると傷つくわ。

誰にでも平等な殿下でも、悪役令嬢には辛辣ね。

王太子ルートではないのにこの扱い。

ゲームの中で婚約者であった時のエミリアーヌはどれだけ悲しい思いをしたのだろう。

攻略対象者の中で唯一、エミリアーヌが本気で好きだったのは殿下だけだったのに。

ああ、もう今のわたくしも辛い。

時間はあと2分残っているかどうか。

もうお暇の挨拶を始めましょう。


しかし、わたくしの顔から視線を外した殿下が、飲み物以外に手を付けていないテーブルの上を見ながら驚くべきことをおっしゃった。


「甘いものは嫌いか?何が好みだ?次回用意させるぞ。今日はもう時間がないが、次回はそちらのテラスに出よう」


「次回?ここでまた?・・・ですか?」


つい素で言葉が出てしまった。

謝罪も質問も終わっているのになにをしに来いと?


「ん?ここでは不服か?」


驚きが顔にも出てしまっているのか、殿下にそう問われる。


「恐れながら申し上げます」


先ほどの案内人が、控えている人達の間から一歩出てきた。


「なんだ」


「ここまでの階段を上がられるのは深窓のご令嬢にはお辛いことなのではないでしょうか。今日も足を痛められたようですので」


あ、あれだけ見栄を張ったのにやっぱりばれていたのね。

でも一瞬にして、次回は別の靴を履こうとか疑問とは別思考で考えたからそこは大丈夫なのだけれど。


「また怪我をしたのか?医者を呼べ!」


「え、あ、いいえ、足に問題はございません!あの、次回はなんのために呼ばれるのかと思っただけです」


慌ててそう言ってしまってから、結構不敬だということに気がついた。

王太子殿下のお考えなのだから、呼び出しには黙って従うべきだったわ。


「む、そうか理由がないと来られないか・・・よし!」


そう言って殿下は椅子から立ち上がると、つかつかとわたくしの前まで歩み寄り「立てるか?」とおっしゃる。

慌てて立ち上がったけれど、足が尋常じゃないほど痛んだので、つい顔をしかめてテーブルに手を着いてしまった。



―――きっとその瞬間、痛みのせいでまた気を失ったのだわ。

だって、レオ・・・殿下がわたくしのことをお姫様抱っこしてくれた夢を見たのですもの。





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