02.婚約者は自分で選ぶ
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どうしましょう。
答えを待たれても、前世を思い出した勢いで飛び込んできているので良い言い訳が思いつかないわ。
王太子殿下と婚約するとわたくしが破滅するので
―――根拠は?
前世を思い出しました
―――寝ぼけてんのか!
そう言われてしまうわね。
ずっと憧れていた王太子の婚約者候補になれたのに、辞退したいと言い出した娘をまだお父様はじっと見ている。
たぶん言い訳を考えていることはお見通しでしょうね。
「まあいい。考えよう。そうなると、お前の結婚相手は宰相の息子か、」
「ひっ!そちらもお断りですわ!!」
宰相の息子も攻略対象者なのよ。
この乙女ゲームは、最初に選んだルートによって悪役令嬢の婚約者も変わる。
つまり、どのルートでも悪役はわたくしということ。
逆に言えば、わたしくしが選んで婚約した相手が攻略ルートになるということではないかしら。
ならば選ばせてもらいましょう!
悪役令嬢が破滅しないルートを!!
「そうは言っても、あと釣り合いが取れるのは、」
「そちらも嫌です!」
「まだ誰とも言っておらん。それと、ひとりまだ考え中の者がいるのだが・・・」
「と、とにかく、今お父様が考えつく上位3人だけは勘弁してくださいませ」
この乙女ゲームで唯一、結末がどうであれ、悪役令嬢が完全に無事なルートがある。
それはいわゆる逆ハーレムルート。
攻略対象者すべてを、バッドエンド以外で一度クリアすると選択できるようになるので、わりと簡単に挑戦できる。
そのルートでは攻略者同士の駆け引きが忙しいからか、あまり悪役令嬢の出番はない、らしい。
したがって断罪イベントもない、らしい。
その時の悪役令嬢の婚約者は侯爵家の執事、らしい。
侯爵令嬢なのになぜ執事と?という疑問は、恵美が持っていたゲームのファンブック1では特に明かされていなかった。
悪役令嬢の事情なんてどうでもいいのか。
ヒロインが逆ハーレムを築くためには、攻略対象者全員の好感度を釣り合いの取れるように上げないといけない、らしい。
そこでの悪役令嬢は、かえって盛り上がるような適度な妨害しかしない、らしい。
そして悪役令嬢の婚約者である執事は、男性目線からのアドバイスをくれるような存在、らしい。
・・・らしいとしか言えないのよ。実は恵美はこのルートをやっていない。
大勢を侍らせてウハウハする趣味は、恵美にはない。
実際に恵美のクラスにいたのよ、誰にでも甘いことを言う男が。
高校に入学したてでうっかりひっかかるところだった。いや、実際ちょっとひっかかった。
やさしいことを言われてうれしくて舞い上がったのに、同じことを他の女子に言っているのを聞いた時のショックときたら・・・乙女のときめきを返せ!
だからよけいに、ヒロインに一途な乙女ゲームのヒーローにのめりこんだのかもしれない。
そんな一途に愛をささやいてくれるヒーローたちに対して、全員と同時に✖✖するだなんて、そんな不誠実な恋愛は非現実の世界でも嫌だった。
途中はゲームに必要な好感度上げだからしかたがないけど、最後はひとりに絞れよ!
王様でもないのにハーレムを築けるとはどういうことだ、ヒロインを浮気者にするのかよ!
と、まったくやる気が起きなかった。
でも、実際に当事者になってしまった以上、そんなことは言っていられないのよ!
悪役令嬢の処刑回避のため、ヒロインは誑しでも、ビッチでもいいから、ハーレムを築いてもらうわ!
仮にも侯爵令嬢なのだから、婚姻が家のためにならなければいけないのはわかっているけれど、とりあえず攻略対象者だけは回避をしておきたい。
なにか理由をひねり出さなければ。
「お父様。こんな顔に傷のあるような者は、高位な方々の婚約者にふさわしくありませんわ」
そっと顔に巻かれた包帯を押さえながらうつむく。
「そんな浅い傷はすぐにきれいに消えると医者が言っておったぞ」
「え?ほんとうですか?よかったーじゃない、それではええと・・・」
「まさかお前、誰かに懸想しておるのではあるまいな?」
「はっ!そうですわ!私は執事のラウルをお慕いしております!」
あ、考えもなしに言ってしまった。
でもこれが通れば逆ハーレムルートだわ!
お父様がひゅっと息を飲み、そしてなにやら考え込み始める。
相手は執事。即答で却下されそうなものなのに、やはりなにか裏事情がありそう。
「それは本当か?ジェラルドではなく?お前、ラウルのことを邪険にしておったではないか」
「そ、それは・・・そう、照れ隠しですわ!」
お父様はまだ疑わしい目を向けていたが、少し考えさせてくれと言って黙ってしまった。
そうだ、ジェラルドもいたわ。なぜラウルと言ってしまったのかしら。
我が家の執事は4人いる。
お父様の執事は、お父様と同じ年だからちょっとありえない。
長兄の執事は厳しい人なので、わたくしは小さな頃から苦手だった。
ひたすらお小言を言ってくるので、なるべく避けているのよ。
結婚なんてしたら破滅とかわらない嫌な生活になると思うし、絶対にヒロインにアドバイスするような人ではない。
ジェラルドは長兄の従僕から執事になったばかりで、まだ補佐的立場。
年は少し上になるけれど、控えめでやさしくて・・・ああ、やっぱりジェラルドにしておけばよかったわ。
そして2か月前に我が家へやってきたラウルは、次兄と年齢が同じで、現在一緒に学院へ通っている。
家の中ではなぜか執事という扱い。なにか訳ありっぽいのよね。
あ、そういえば昨日の朝食以来、ご飯を食べていないわ。
空腹ではろくでもないことを言い出しかねないわね。
ちょうどお父様の執事が朝食の準備ができたと伝えに来たので、わたくしは自分の部屋へと戻ることにした。