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17.地味なドレスは可憐なメイド服に勝てない

 まずは挨拶からね。


改めて礼を執りながら殿下が完全に足を止められるまで待っていると、殿下が「今日は暑いな」とおっしゃった。

今日はよい陽気で、わたくしにはちょうどよい気温なのだけれど、とりあえずそのお言葉に同意をせねばと顔を上げる。


たしかに殿下のお顔が少し赤い気がするわ。

ここまでの移動で暑くなってしまわれたのかしら。

魔術で一気に上がると聞いたけれど、まさかあの階段を普通に上がってこられたとか?


わたくしはいざお返事をしようとしたものの、言葉に詰まった。

今のは誰に向かって掛けられたお言葉だったのかわからなかったのだから。

その麗しきお顔はわたくしにではなく、天候を伺うように窓の外、にでもなく、壁際に控えて並んでいる者達に向けられていた。


そして殿下は、返答を躊躇しているわたくしの様子を見ることもなく

「そうだ薔薇は好きか?ちょうど南庭園の薔薇が見頃だぞ。今日は一緒に行ってやれないが、帰りに見て行くといい」と、ようやくテーブルの側まで来て足を止めておっしゃる。


殿下が見ている先には、お茶を淹れるためにポットを持ってテーブルに近寄ってきていたメイドがいた。

先ほどわたくしにお水を出してくれた、背の低い可憐な容姿のメイドが。


今日は一緒に行ってやれない?・・・いつもは一緒に行っているということ?

メイドが戸惑っているわ。ばれてはいけない関係なのに何を言い出すの?と、言いたいのね。

周りも澄ましているけれど、なんとなく動揺している気がする。

殿下の従者だけがあきれたような顔をしているのは、やはり関係を知っているからかしら。


ああ、そうね。レオ・・・殿下はそういう人だった。

王族なのに、高位の貴族である悪役令嬢より平民であるヒロインを選んだのですもの。

今の時点で下級貴族である城のメイドと恋仲であっても不思議ではないわ。


・・・この方が殿下の恋人なのね。もしかして初恋の人だとか?

殿下よりは年上だけれど、殿下はこういう守ってあげたい系が好みなのかしら。

そういえばヒロインもそういう感じだわ。

悪役らしく気の強そうな顔をしているわたくしとは正反対。

やはりどうあがいてもわたくしが選ばれることはないのね。

ゲームの中には出てこない人だから、きっと王命の婚約者ができた時点でこの恋人とはお別れするのだわ。


でも薔薇より美しい殿下と、恋人としてデートができるだけでもうらやましい。

時折こっそり手を繋いでもらえたりするのかしら。

そういえば、ゲーム内のお花畑デートのイベントでは、ヒロインが足元の悪いところで少しつまずくと、さっと殿下にお姫様抱っこしてもらえるのよね。

・・・それはあまりうらやましくはないかも。また体重が重いと思われるのは嫌だもの。


それにしても、立っていることで階段上りで痛めた足がまた痛くなってきたし、恋人に向けられる殿下の顔を近くで見ているのも辛い。

上げた顔をまた下げて、殿下がわたくしに声を掛けて下さるまで待つことにする。


ややあって「また具合が悪いのか?」と、殿下にいきなり顔を覗き込まれた。

心の痛みにも耐えつつ、浮かんだ涙を乾かすために自分の靴先を見ながら瞬きを繰り返していたので、殿下がさらに近くまで来たことに気が付かなかった。

びっくりして顔を上げると、思ったより至近距離で目が合う。


「!」


黄色い悲鳴を喉で殺した自分を褒めたい。

一瞬にして顔が赤くなったと思うけれど、殿下の恋人の前でそれはないでしょうと思う自分もいて、なんとか取り繕う。

殿下にもすぐに顔をそらされてしまっていた。


とりあえず、ようやくご挨拶ができるわ。

わたくしに対してはまだご機嫌の悪い殿下に、ご機嫌麗しくという挨拶は変かしら。


「いいえ、なんともございません。本日はわたくしめにお時間をいただきありがとう存じます」


すっかり出鼻をくじかれてしまったけれど、もうさっさと謝罪を終えて帰りたい。

好きな人が恋人といるところを見せられるのは辛すぎる重罰だわ。

もう帰って甘いものが食べたい。

帰ったらまだ少し残っているロイス兄様から頂いたチョコレートも全部食べてしまおう。


殿下を立たせたまま謝罪をはじめる訳にもいかず、座られるのを待っていると

「傷の具合はどうだ?」

と、ようやく顔を確認のためにまともに見られながら問われた。


「おかげさまで後は傷跡が消えるのを待つだけですわ」


「そうか、よかった。まあ座れ」


「ええと、わたくしはまだ謝罪をしておりませんので、その、」


「謝罪?ああ、あの意味のわからない謝罪文か」


意味がわからない!?そんなにひどい文章だった?

また座れと言われてしまったので従う。


「わたくしは先日の失態の謝罪のために呼ばれたのではないのでしょうか」


「いや、尋ねたいことがあったので呼び出したのだが、先ほど解決したのでもうよい」


そうおっしゃった殿下にまた顔をそらされてしまった。


まだ婚約者候補辞退の理由を問いたかったのかしら?

やはりこちらから辞退するだなんて、王太子としてプライドが許さなかったのね。

でも解決済みなら本当にもう終わり。

もうあと6分くらいだろうけれど、なんにせよ殿下とふたりでお茶をできるだけでも幸せだわ。

殿下の恋人さん、どうかあと6分だけ許してください。


想定外だけれど恋人をちゃんと見たのですもの。

一晩くらい泣いてしまうかもしれないけれど、もうこの恋心を終わらせることができるわ。


わたくしは思い出として脳内アルバムに殿下のお姿を残そうと、懸命に殿下を見つめた。





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