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16.罰として階段上りの刑に処せられました

「はぁ、はぁ」


ちょっと!そこのあなた!勘違いしないでくださる?

わたくしは今、レオ・・・殿下のお住まいに興奮しすぎて息が上がっているわけではないのよ。

決して、殿下の残り香がするかもと匂いを嗅ぎ過ぎて肺が苦しいというわけでもないわ。


「大丈夫ですか?少し休みましょうか」


案内人として先導してくれているお爺様が、そう優し気に言って踊り場で足を止めてくれた。

たぶんこの方、衣裳からして執事長とかではないかしら。


「ええ・・・少し・・・ほんの少しだけ、待って、下さる?・・・はぁ」


「はい。もうあと一階分でございますよ。ゆっくり行きましょう」


わたくしは今、案内する場所は最上階だというのでひたすら階段を上がっているところ。

王太子殿下専用の居住棟の入口ホールに入った時には、奥の巨大な2本の柱の間から一部が見えた階段がこんなことになっているとは思いもしなかった。

柱の間を抜けた途端、目の前には驚くほど先まで階段が続いていたのよ。

なにこの階段のためだけの無駄な空間は。


この建物はたぶん五階建てだと思うのだけれど、これはどういうつもりよ?と設計者の胸倉を掴んで問い質したいほど、階段がぐるりと複雑且つ優雅に弧を描いている。

わぁすごいって思うのは最初のたった一回よ。まったく実用的じゃないわ!

ここ!このまま真っすぐ上がればいいじゃない!なぜいちいち平坦な通路を設けてまで斜め横に廻るの?

結局この角度に戻るのになにこの無駄!このせいで歩く距離が長くなっているのよ。

侯爵家の階段だって曲がるのは一階につき1回よ。

階段なんて、恵美の家の玄関開けたらまっすぐドーンの角度キツキツ幅セマセマでもちゃんと上がれるものなのに!


たぶん使用人は別の階段を使っているわよね。非効率すぎるもの。

この階段だと絶対に倍以上無駄に歩くし、それを五階分って。

え、待って、帰りにはここを降りるってことよね?もうこの踊り場までで勘弁してください。


謝罪のために行くのだからドレスは地味にしなくてはならないけれど、あまり見えない靴はいいわよねと、婚約者候補のお茶会のために用意した新しいハイヒールを履いたのが間違いだった。

靴擦れはしていなけれど、もう足の裏が痛い。

でも貴族令嬢として、足が痛い素振りは見せられないから精一杯澄まして歩いているのよ。

それでも、普段こんなに歩くことはないし、さすがにここまで階段だと息があがるのは隠し切れないわ。

でも、ご老体も後ろからついてきているふたりのメイドも息は上がっていないのよね。


「ここを、殿下は、毎日、上がって、いらっしゃるの?」


「いいえ、最近は風と火の複合魔術で吹き抜けを一気に上がられていますね」


「なる、ほど」


お願いです。もう来ることはないけれど、わたくしの帰路のために吹き抜けにエレベーターを設置してください。今すぐに。


「本当は入り口に一番近いサロンにご案内する予定だったのですが、先ほど一度戻られた殿下が急に最上階のサロンに変更するとおっしゃったもので、途中に椅子などのご用意もできず申し訳ございません。でもそちらのサロンの方が窓からの眺めはいいのですよ。殿下の寝室から一番近いので、殿下もよくそこで朝食を召し上がっていて、あ、これは内緒ですよ」


なんですとっ!?レオ・・・殿下のし、寝室!?


「ですが、めったにお客様をお招きする場所ではないのに・・・本当に大丈夫ですか?一度この階の部屋で休憩いたしましょう」


バッ!と、鼻と口を押さえたわたくしを見て案内人が心配してくれる。


「いいえ、早く行きましょう!これは謝罪のために登城しているはずのわたくしが、くだらぬおしゃべりに興じていたことへの罰で、そして(鼻血とよだれを垂らさないという)試練なのですわっ!」


鼻と口から手を離し、それを拳に変えて力説する。


「はあ、ではまいりましょうか」


足の痛みもなんのその。あと一階分は張り切って上がった。

危うく案内人を追い抜くところだったわ。

さあ、最上階到着よ!どこっ?レオ・・・殿下の寝室はどこっ!?


ワクドキしながら案内人について歩く。

サロンは一番奥にあった。

今通ってきた中のどれが寝室のドアだったのかしら?

まさか聞くわけにはいかないけれど、帰りにもう一度見ておきましょう。


サロンは角部屋なので窓が2面にあり、今日はお天気がいいので視界良好。

窓のガラスも大きく天井近くまであり、部屋の中だというのにものすごい解放感がある。

白い色味のインテリアに、爽やかな青い絨毯が敷かれているので、窓から広がる青空と相まって空に浮いているかのよう。

朝食を召し上がるのは向こうの重厚なテーブルかしら?

窓の向こうにもテーブルがあるわ。テラスも広そうね。


窓際にかわいらしくセッティングされたテーブル席に案内され、お茶とお菓子が出されたけれど、わたくしは謝罪に来ている身。

殿下の許可がなければ口を付けるわけにはいかない。

でもここまで歩いてきているので、喉が渇いてしかたがない。

察してくれた城の優秀なメイドが、コップに水を注いでくれた。

ありがたくいただきます―――すみませんもう一杯ください。と目線でやりとりをする。


ここまで来るのにだいぶ時間を要してしまったけれど、まだ殿下は現れない。

時間を確認することはどれだけ待たせるのと言っているようなものだし、暇だからといってキョロキョロ部屋を見渡すこともできず、ただひたすら見える範囲を目に焼き付けていた。


ああ、このお菓子は最近王都で流行っているお店の物よね。

隣のお菓子は見たことがないけれど新作?

もうダイエットの必要もないから帰りに買ってかえろうかしらとテーブルの上を眺めながら、そろそろ疲れからもぼんやりとしてきた時に「殿下の御成りです」との知らせがあったので、急いで立ち上がる。


「待たせたな」


「あと10分です」


「わかっている」


颯爽と入ってこられた殿下に、後ろから付いてきた従者が時間を告げたけれど、たぶん今のはわたくしに時間を教えてくれたのだと思う。

先ほどもわざわざ待たせますと先に謝罪してくれた人だわ。

お礼を込めてにっこりとほほ笑んでおく。


すると、殿下が従者を睨みつけた。

これから謝罪をさせる相手に、あと10分で解放されるなどと思わせるなということですね。


では、断罪される前に謝罪を始めるといたしましょう。





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