SIDE 王太子 レオンハルト・ピッド・ライニッシュ 1
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今まで撒き散らかしてきたことをこの辺りで少しご納得いただければと思い、今回はレオ・・・殿下視点で2話お送りします。
「はぁ、はぁ」
この塔を駆け上がるのは久しぶりとはいえ、ここで息が切れるとは。
すっかり体が鈍ってしまっているようだな。
最近は王太子としての公務が立て込んでいて、なかなかまとまった鍛錬の時間が取れない。
忙しいと高低差のある場所などへは風と火の複合魔術を使って一気に移動していることが多く、あまり体を動かしていないのも要因か。
ここは、王城にある6つの塔のうちのひとつ。
私は普段、王族として沈着冷静な態度を取っているが、それでも私もまだ15歳の若輩者だ、時々どうしようもない衝動に囚われることがある。
そういう時には人払いしたこの塔に上がることで、いろいろ発散するのだ。
塔内は螺旋階段になっていて、狭いわけではないのだが早く上るとさすがに目が回る。
しかし、今は全速力で走っていたところだ。
「ふう」
やっと塔の最上階にあるバルコニーに着いた。
先ほどマルセルム侯爵令嬢は、たぶんここを見上げてあんなことを言ったのだと思うが、私がここで星を見ることがあるのを知っているのか?いや、まさかな。
今日はとても過ごしやすいよい陽気だ。
ここから見える城下の教会の鐘が鳴りだし、その音に驚いたのか鳥が舞っている。
私はバルコニーに置いてある大きなソファーに、行儀悪くも身を投げ出して青い空を眺めた。
それにしても、先ほどの会話はいったいなんだったのだ。
どう捉えていいのかわからない。
そして自分のこのよくわからない感情もなんなのだ。
さっきも冷静さを失ってしまい、おかげで落ち着く為にもここまで来てしまった。
そうだ、本当に落ち着かないと、このあともどうしてよいのかわからない。
そもそもは、朝一番の公務を終え城の回廊に出たところで、反対側の通路にこれから会う予定のマルセルム侯爵令嬢のエミリアーヌと、婚約者候補のひとりであるサミュール伯爵令嬢のナタリアが、立ち話をしているのに気付いたことだ。
私の婚約者候補は10人。いや、辞退者が出たので9人。
婚約者候補を集めた茶会の、三回目までには半分ほどに絞るよう言われているが、容姿は選び抜かれた令嬢ばかりで皆それぞれ美しいし、性格も表面上は貴族らしく取り繕っているのでよくわからない。
どう判断しようかと思っていたが、いざ茶会を催してみれば早速ひとり落とすことが決まった。
その落選が決定したナタリア・サミュールが、すでに候補を辞退したエミリアーヌ・マルセルムに対してなにか一方的に捲し立てているようだった。
私は常人より風の魔力が強く、意識すれば遠くの音を聴くことができる。
普段はなかなかやらぬことだが、エミリアーヌ・マルセルムはこれから合う相手。
少し気になったのでふたりの会話を聞いてみることにした。
私の従者のアランが、私が足を止めて急に何を始めたのか、周りを見渡してから気が付いたらしく「殿下それはいくらなんでも」と咎めてきたが無視した。
アランもなかなかに強い風と火の魔力の持ち主で、私の移動スピードに着いてこられるから従者としては便利だが、いかんせん口うるさい。
さて、私の耳元へふたりのまわりにあった風を集めてみれば、どうやら茶会の時の話をしてたようだ。
フン、ナタリア・サミュールめ、どこが『完璧なお答え』だったというのだ。
ナタリア・サミュールは先日の茶会で、王太子妃になったら何をしたいのかという私の問いに、孤児院の救済を始めるなどと、堂々と王族の治世の批判を始めた。
孤児院や貧困層への救済は、すでに私のおばあ様が何十年も前から手がけており、媚びを売りたい貴族がこぞって寄付をするので、我が国ではひどい状況にはないというのに。
大方、自国の状況を知らないくせに、隣国が最近になってようやく救済にのりだしたことを聞きかじり、さも自分が思いついたかのように言い出したに違いない。
他の者達が私の浮かべている笑顔を窺いながら、我が国の対応は充分足りていると取り成そうとしているのに
『わたくしはもう王太子妃となるべく行動を起こしておりますのよ。先日も孤児院を訪問いたしまして、わたくしが手ずから作ったお菓子を孤児らに与えましたの。皆とても嬉しいと、わたくしに感謝しておりましたわ。でも皆さま、わたくしの国民は素晴らしいですわよ。自分も飢えてひもじいはずなのに、全員がそこにいた犬にお菓子を与えるやさしさがありますの。わたくし、思わず涙いたしましたわー。ああ、皆さまは孤児など目にする機会はございませんわね。わたくしは国民に寄り添える王太子妃になりますわー』
と得意げに言い、後ろに控えた己が従者だけではなく、普段は我関せずの給仕メイド達の顔までもひきつらせていた。
あれを妃にしたら、諸外国はおろか自国民にさえ笑いものにされるだろう。私が。
ナタリア・サミュールの隣に座っていたファドリック侯爵令嬢のクラウディアが、事前調査では幼いころから教会に奉仕しているとあったので、教会に併設された孤児院のこともよく知っているのだろう、少し不安げに話を聞いていた。
まあ、安心するがいい。
婚約者候補から外せば、もうナタリア・サミュールが孤児院へ行くことなどないだろうから。
ちなみに、私の問いに対する答えが一番よかったのはバーンズ伯爵令嬢のカトレアだ。
外交政策の一助となるべく外国語の勉強をしているというので、試しに隣接国のエバルリラ語で話しかけてみたが、とても好感の持てる流暢な話し方をしていた。
貴重な人材だ。
私の妃などではなく、最近増えてきた女性官僚にした方がよいのではないだろうか。
だいたい妃などに有能さは求めていない。
側において不愉快な者でなければいい。
私が事前調査表を読みながらよくわからんと言ったら、会ってみて愛情を感じられる方をお選びになってはいかがでしょうとアランが言っていたが、どうせ皆、王太子の妃、そしてその先の王の妃という立場を狙っているだけなのだ。
私だけが愛情を持ってどうする。
9人、いや8人のうち、王太子という私の立場ではなく、私自体に興味がある者は何人いることやら。
まあ、こちらも特に惹かれる者はいないな。
そうその場で思いながらも、先日エミリアーヌ・マルセルムが無意識で言ったと思われる、あの言葉が心に引っかかっていた。
ナタリアのセリフを書いていると、顎が上がるのはなぜなのでしょうかね




