14.栄えある第二位はこの方!
「あら?そこにいらっしゃるのはエミリアーヌ様ではございませんこと?」
「・・・ごきげんよう、ナタリア様」
出会ったら舌打ちしたい人、堂々の第二位!おめでとうございます!
「んまぁ、本当にお顔にお怪我をなさったのね。おいたわしいお姿に涙を禁じ得ませんわ~。わたくしでしたら顔に傷などあっては王太子妃なんてとても目指せませんもの。ああ、それでご辞退なさったのね。ご賢明な判断ですわ。でもエミリアーヌ様のような美しかった方が王太子妃になれないだなんて、本当に残念ですこと」
全然残念そうじゃないわ、むしろ嬉しそう。
それはそうよね。ナタリア様にとって一番の邪魔者であったわたくしが、同じ王太子殿下の婚約者候補から消えたのですもの。
今現在、わたくしの目の前で顎を上げ、勝ち誇ったかのようににやけているこのご令嬢は、わたくしが王太子妃を目指す上でのライバルのひとりだったサミュール伯爵家のナタリア様。
その見事なドリル装備といい、勝気な顔立ちといい、わたくしよりよっぽども悪役令嬢っぽいわ。
立場をタダで譲って差し上げてもよろしくてよ。
ここは王城の中にある、中庭に面した回廊。
指定場所への移動中に、めんどくさい人に呼び止められてしまったところ。
はい、お察しの通り、わたくし本日只今とうとう謝罪のために登城しております。
「わたくし、エミリアーヌ様が参加できなかったこの間の王太子殿下とのお茶会で、殿下からの王太子妃になったら何をしたいかという問いに、完璧なお答えをしましたのよ。他の方はありきたりなお答えの中、わたくしだけが!素晴らしすぎて、殿下もわたくしに向かって微笑んでいらしたわ。もうわたくしが婚約者に選ばれるのは確実ですわよ。え?なんて答えたかですって?あら、もうまったく、これっぽっちも関係のないエミリアーヌ様にお教えする必要はないかしら~」
わたくしが言い返せないと思ったのか、聞いてもいないのにナタリア様がひとり捲し立てていた。
あら、ナタリア様の従者がわたくしが連れていた従者を捕まえて少し離れ、なにやら話を始めたわ。
情報収集かしら?単にナタリア様の話は聞き飽きたから他の話をしたいって線もあるわね。
わたくしの従者がこちらを気にしているので、いいのよ、話をきいておあげなさいという顔をしてうなずく。
めんどくさいお嬢様に付き合うのも大変ね。うん、うん。
「ちょっと!わたくしの話を聞いていますの?ちなみに、あなただったら王太子妃になったら何をしたいかという問いになんと答えるのかしら?どうせありきたりなことでしょうけれど聞いて差し上げてもよろしくてよ」
視線を従者達に向けていて、全然話に反応しないわたくしに苛立ったのか、ナタリア様がそんなことを言い出した。
わたくしが王太子妃になれたら?
そうね、レオ・・・「殿下とお花畑でデートがしたいわ。あとはそうね、お忍びで城下へ行っていろいろなお店を巡って、カフェにも入って、」ゲームでヒロインがやっていたことをしてみたい。
せっかくこの世界に転生をして本物の殿下に会えたのに、わたくしにその役は絶対に回ってこない。
ちょっぴり悲しくなって、少し涙が浮かんできたのをごまかすために空を見上げる。
そのまま目についた城の塔にあるバルコニーを見据えわたくしは更につぶやく。
「そして夕刻にはあそこで一緒に夕日が落ちるのを眺めるのも素敵よねぇ。少し寒いわと思うと、殿下がわたくしの肩を抱いて温めて下さるのよ。そして寄り添って降る星を数えるの。わたくしが殿下へ愛を告げると、殿下が『エミリアーヌ、我が最愛の光よ。いつまでも君と共に』とおっしゃって口づけをくださるのよ。はぁ~、そうしたらもう即、死んでもいいわ~」
もう二度と見ることのできない、王太子ルートのエンディングを重ねて妄想する。
「たった一日、たった一日でいいのに。ねぇ?」
つい、ナタリア様に同意を求めてしまった。
ゲームでもなれなかった妻という立場。一日でもいいからなってみたい。
「はぁ?なにをおっしゃっているの!?王太子妃のなすべきことを答えるのが正解でしょ!」
そんなことはわたくしだってわかっているわ。
でもわたくしはそんな綺麗事より、今までライバルとして張り合ってきたあなたには本音を言っているのよ。
わたくしはもう婚約者にすらなることはないけれど、あなたは頑張って婚約者を目指すといいわ。
きっと一時でも幸せよね。
でも、どんなに素晴らしいことを言おうとも、どんなに頑張って婚約者になれても、どうせヒロインが現れてわたくし達は王太子妃にはなれないのよ。
ああ、あなたもかわいそうに。
わたくしは憐憫の情を込めてナタリア様に微笑む。
「な、なによ、その薄ら笑いは。あなた魔獣に襲われて頭もおかしくなったの?王太子妃がそんなくだらないことをする暇があると思う?社交で忙しいに決まっているわ!わたくしは王太子妃として敬われ、傅かれるために努力しているのよ。あなたがそんなつまらないことを目的にしているだなんて思わなかったわ。きっと顔に怪我をしたのも、あなたは王太子妃にふさわしくないという神の思し召しよ!だいたいなんですの?今日のその地味な恰好は。王城にはわたくしのように美しく着飾ってくるのが礼儀でしょ?」
そう言ってナタリア様が、自身のフリフリドレスのスカートを摘まんだ。
そうねぇ、ピンク色がかわいいけれど、あなたには似合っていないわよと思うのは、元ライバルとしての対抗心かしら。
わたくしだって殿下に会うのだもの、本当は着飾りたいわ。
今日は深いグリーンの、どちらかと言えばシックな装い。
しかも装飾もほぼ無いのだから確かに地味。
まだ頭から顔にかけて包帯を巻いているので、リディアンヌ様から頂いたリボンも付けられなかった。
ああ、そうだわ。包帯に刺繍でも施そうかしら。
白地にピンクの糸ならかわいいわ。水色なら爽やかね。
などとくだらないことを考えていたら、返事をしないわたくしに更に苛立ったのか、ナタリア様の声が大きく強くなった。
「だいたいもう王太子殿下の婚約者候補から降りたあなたが王城をうろついているだなんて、殿下の同情を引きたいだけなのでしょう?未練がましいですわ!」
そう言ってナタリア様が、わたくしに向けて派手な扇を突き付けてきた。
ええー?わたくしの方が爵位は上なんですけれど。
ああ、もう王太子殿下の婚約者になった気でいるのね。
ますます悪役令嬢っぽいわ。
さて、わたくしがここにいる訳を説明する必要はあるかしら?ないわね。
とりあえず、この失礼な扇は叩き落としていいかしら?
そう思いながら両目を細め、狙いを定めたその時だった。
「そこで何をしているっ!」
突然、ゲームの中でヒロインがいじめられている時に掛けられるセリフが聞こえてきてドキリとする。
わ、わたくしまだ、なにもしておりませんわよー。




