13.リボンを包帯代わりにするのはあり?なし?
「今日は私が応対して帰ってもらったがな。エミリア、当分不要な外出はするなよ。それとあまり門から見える範囲にも居ないように」
アルフ兄様ったら、なにをそんなに警戒しているのかしら?
まあ、わたくしも攻略対象者であるアンドリューに会わずに済むならそれに越したことはないけれど。
それにしてもよかった。うちに来られるほどアンドリューの怪我も回復したのね。
「わかりました。わたくしもこちらが助けていただいたお礼はしても、謝罪を受ける必要はないと存じます。ああ、でもまたご足労いただかなくて済むように、わたくしがお礼と謝罪は不要とのお手紙を書いてお送りしましょうか?」
「そうだな。書状なら大丈夫か。なにより母上がエミリアと会うことをよしとしないのでな」
「ひっ!お、お母様が!?え、ええ、もちろんお母様のお考えに従いますわ。で、でも、なるべく穏便にいたしましょう?一応恩人なのですから」
アンドリュー、処分されちゃうわよ!逃げてー!
「おかえりなさいませ。ご無事で何よりです」
ラウルが玄関ホールの大階段を早足で下りて寄ってきた。
今日はクロードに出会ってしまったから、若干精神が無事じゃありませんけどね。
わたくしはラウルに答えもせずにツーンとそっぽを向く。
ラウルに対しては、先日からまたつれない態度に戻したの。
だって、レオ・・・殿下からのカードを取り返しに行ったら、もう燃やしたって言うのよ!信じられないっ!
「ふっ、また嫌われたか」
アルフ兄様がニヤリとしてラウルを見下ろす。
「ええ。そのようですね。まあ、その前にもどなたかに邪魔をされていたようですが」
「当然だろう。かわいい妹にわざわざ苦労をさせるものか」
あら、また睨み合い?我が家はあまり平穏ではないわね。
「アルフレット様、いつまでも玄関先にいるのも危険かと」
ジェラルドが外を気にしながら告げてきた。
皆してなんなのかしら?アンドリューは全然危ないキャラじゃないのに。
あ、これはヒロイン目線ね。
悪役令嬢側からすれば、たしかに危険だわ。
―――部屋へと戻り、着替えを終えてから人払いをし、引き出しの奥に隠してある日本語で書いているノートを取り出す。
アンドリュー・サラメント
代々騎士の家に生まれたけれど、母親に似てやさしげな風貌なのが悩み。
アンドリュー本人もやさしくて少々頼りなく、母性をくすぐるタイプ。
現在はたぶん20歳。
学院を優秀な成績で卒業して騎士になった。
アンドリュールートでは悪役令嬢を助けたことがきっかけで婚約者になったという設定だった。
たぶん先日の魔獣襲撃の件だったのだわ。
功績を上げられるはずが、わたくしが前世を思い出してぼーっとしていたために怪我を負ったことで、アンドリューの立場はかえって悪くなってしまったのだろう。
だから必死に謝罪に来たのね。
アンドリューへのお手紙に、なんと書いたらわたくしとの面会をあきらめてくれるかしら。
あまりこちらが下手に出るとアンドリュールートが発生してしまうかもしれないし。
婚約はしないけれど、侯爵家からのお礼状だけでも少しは功績になるのではないかしら。
ちなみにゲームではどの攻略ルートを選ぼうとも、一番最初にヒロインに声を掛けるのはアンドリューだった。
ヒロインが学院の入り口で本当に入っていいのか戸惑っていると、警備責任者のアンドリューが親切に案内してくれる。
アンドリュールートの場合、もうそこからヒロインは悪役令嬢に睨まれることになるのよ。
学院の裏庭でこっそりとひとりぼっちでお昼を食べているヒロインを気にしているうちに、それでも健気に頑張るヒロインに惹かれて、ヒロインを守れるように強くなろうと努力する真面目ながんばりやさん枠。
悪役令嬢に対する断罪は街の広場。
普通そんなところで断罪するー?って感じよね。
そこで逆上した悪役令嬢はなんと、な・ん・と!闇の魔力で魔獣を召喚するのよー!
すごいわね、悪役令嬢!一番派手なイベントだったわー!
下手すると王都中に被害が及びそうな騒動を、アンドリューを中心に攻略対象者が力を合わせて収拾するのよ。
アンドリュールートも一度しかやっていないけれど、努力が実ってアンドリューが大活躍!なエンドだったわ。
え?悪役令嬢は処刑されたのかって?
聞いてくださる?ひどいのよ!その場でアンドリューに切られて絶命するのよ!!
あああ、やっぱり危険ね。アンドリューに近寄るのはやめましょう。
そういえば、わたくしが持つことになる闇の属性はアンドリュールートでしか発揮しないのよね。
そうだ!いいことを思い付いたわ!どうせ光の魔力はあってもないに等しいのだから、闇を極めて・・・
うふふ。楽しみができたわ。
え?悪役令嬢が何を企んでいるんだ?ですって?
おほほほほ、まだ内緒ですわ!
将来に思いを馳せてニマニマしていると、ドアをノックされたので慌ててノートを引き出しにしまう。
顔を出したのはアルフ兄様だった。
「エミリア、その、リディアンヌが来たのだが、一緒にお茶でもどうだ?お前に渡してくれと見舞いの品を預かっているぞ」
んー、リディアンヌ様ねぇ。
リディアンヌ様はアルフ兄様の婚約者。
ふたりは学院で出会ったそうで、半年後に結婚式を予定している。
今までのわたくしは、彼女が格下の子爵令嬢だということと、大好きなお兄様を取られるのが嫌で、嫌悪感丸出しで接していた。
お兄様はリディアンヌ様が我が家へ来たときには、わたくしに一応声を掛けて様子見をしている。
いいですわよ!きっと今回も断られるのだろうと思っていらっしゃるでしょうけれど、只今絶賛対人関係改善運動実施中なのでご一緒させていただきますわ。
ちなみに、アルフ兄様の執事(今更だけれどバルトというのよ)との関係はだいぶ改善されたわ。
お小言をおとなしく聞くようにしたら、なんとお小言が減ったのよ。
あ、もしかして、逆ハーレムルートで婚約者になる執事候補が増えた?まさかね。
行きますと言ったら、驚いた顔をしたお兄様と一緒にサロンへと向かう。
「リディアンヌ様、ごきげんよう」
「まあ!エミリアーヌ様、お加減はいかがですの?」
リディアンヌ様が慌てた様子で椅子から立ち上がった。
ある意味ボスキャラの登場ですものねぇ。
「もう傷も塞がりましたわ。お見舞いをいただいたそうで、ありがとう存じます」
「ほら、これだ。開けてみるといい」
席に着くと兄様が花柄の箱を渡してきた。
「はい―――まあ、かわいい!」
箱には凝った刺繍が施されたリボンが入っていた。
「アルフ兄様、ほら、わたくしの髪色と合いますわよね?編み込んだらきっと素敵だわ」
髪に絡めてみると、とても上品な感じでいい。
アンに・・・ああ、アンはいないわね。メアリは編み込みできるのかしら?
「そうだな、いい色合いだ。エミリアによく似合う」
「喜んでいただけてよかったわ」
リディアンヌ様がものすごくホッとしたように微笑む。
ボスは怖いですか。そうですか。
「リディアンヌ様ありがとう存じます。今はこの有様なので、包帯が取れたら使わせていただきますわ」
今付けると頭が紐だらけになってしまうもの。
「ああ、わたくしったら、すぐに使えないものを選ぶだなんて・・・」
リディアンヌ様がしょんぼりと視線を手元に落とした。
この方、こんな小娘に気を遣うような気の弱さで、この先あのお母様と渡り合っていかれるのかしら?
「いいえ、とても素敵でうれしいですわ。早く怪我を治して3日後の登城に着けて行きたいくらい。ああ、でも謝罪の場に使うにはもったいないですわね」
「謝罪に行かれるのですか?王城に?」
「ええ、わたくし王太子殿下の前で粗相をいたしまして、呼び出しを受けてしまいましたの」
ほら、このボスはまぬけで弱いですよ!もう少し強気に接していただいて結構ですわよ。
「ははは、王太子殿下に対して失礼だなんて、今更だな」
「・・・アルフ兄様、それはどういうことですの?」
「エミリア、覚えていないのか?初めて殿下を見た時に、自分がなんと言ったのか」
レオ・・・殿下を最初にお見掛けしたのはゲーム売り場の、あ、違う、王城の中庭。
たぶん4歳の時だったと思う。
噴水の水がキラキラと日差しを受けて輝く中、やわらかく纏う風の音を聴くようなしぐさをしながら、ふと空を見上げた姿に、天使様がいる!と思ったのよ。
「わたくしがなにか失礼なことを言ってしまったと?」
「ああ、お前が城の噴水の前にいる殿下を見て『兄様、あそこに天使様がいるわ』と言うから、あの方は王子様だよと教えたら『なぁんだ、王子様なの』とつまらなそうに言ったのだぞ」
「はいっ!?え、いや、それは、きっと天使様ではないんだという意味で、ええー、どうしましょう?」
「ははは。だいぶ距離があったし、噴水の音で殿下には聞こえてなかったと思うから大丈夫だ」
うわー、子供の頃のわたくし、ラウルより不敬じゃない?
さすが悪役令嬢、子供の頃から断罪される運命にあるのだわ。
ううう、わたくし本当に処刑ルートから逃げられるのかしら?




