12.愛想は添加物
しくじったわ。
攻略対象者であるクロードと出会うのは、わたくしが15歳になってからだろうと思って油断していた。
クロード・ファドリック。
現時点では19歳のはず。
ファドリック侯爵家の次男で、敬虔なエレオット教の信者。
今は何をしているのか知らないけれど、ゲームスタート時のクロードは講師として学院に在籍している。
たしかに顔はいいわよ、顔だけはね。 ふんっ!
わたくしはこの男に関わる気はさらさらなかった。
わたくしの魔力の属性さえ知られなければ、クロードルートから逃げられると思っていたのだから。
まあ、同じ侯爵位である以上、どこかで挨拶くらいはしなければならないかもとは思ったけれど、まさかこんな他に誰もいないところで出会うとは。
エミリアーヌに生まれかわってからは一度もしたことがないけれど、舌打ちしたい気分でクロードを見上げる。
もちろん淑女教育で培ってきた愛想笑いを添えて。
そもそも、なぜ恵美がクロードというキャラクターが嫌いなのかというと、まずクロードがプレイボーイだからというのが第一。
しかも単なる女好きではない。
女性達を通して情報を収集したり、女性を唆して利用したりしている。
それはこの教会においても同じで、敬虔な信者を装い、王族とは別権力の教会と繋がりを持っている。
つまりは腹黒枠なの。
貴族においては裏表があるのは当たり前だけれど、クロードはその顔面の良さを利用して女性に言い寄るところが気に食わないのよ!
恵美も『イケメンだからってなんでも許されると思うなよ!』と言いながら、クロードルートを一応一度だけやってみた。
しかしながら、いつも女性を侍らせている相手に寛容な言葉ばかり選んでやれるものかと、たまに嫌味なセリフを選択したせいでノーマルエンド。
ノーマルエンドは聖女となったヒロインを支えていくことになるだけで、クロードとヒロインが結ばれることはなかったのに、それでも悪役令嬢は国外追放だった。
今思い出しても断罪場面はむかつくわー!
クロードルートを語るには、この世界の魔力についての説明が必要になるわね。
あら?わたくし、誰と話しているのかしら? まあいいわ。
魔力は六つの属性に分かれているのよ。
主要属性の『火』『水』『風』『地』 そして稀に『光』『闇』を持つ者があらわれるの。
ひとりで二つの属性を持つことも珍しくはないけれど、王族である王太子は四つの主要属性すべてを有するというわ。
さすが、素敵です、レオ・・・殿下。
魔力が発現するのは15歳。
魔力を発現させるには性行為が未経験であることが必須なので、貴族の婚姻は男女共に16歳からと定められている。
そうそう、属性が決定してから婚約者を探すことも珍しくはないのよ。
現時点で13歳のわたくしはまだ自分の属性を知らない、ことになる。
もちろんゲームでの知識があるのでもう知っているけれど。
わたくしが持つことになる属性は、光と闇。
なんと二つとも珍しい上に同時に持つとは、さすが悪役ならではの盛り設定。
しかし、ゲーム内の悪役令嬢は光の方が極めて弱い魔力量しかなかった。
それでもここ数十年現れることのなかった、聖女の資格を持つ光属性。
クロードにとっては婚約者が聖女だなんて、教会との繋がりを強化するには最高だったに違いない。
「魔獣に襲われお怪我をされたと聞いて、我が家でも心配しておりましたが、もうお出かけできるほどに回復なさったようで安心いたしました」
クロードが痛ましそうな顔をしてからやさしい微笑みを浮かべる。
クロードの正体を知らなければ頬を染めるところでしょうけれど、お生憎様!
たしかに顔はいいわよ、顔だけはね。
でもなぜかむかつくわー。よくもわたくしを利用してくれたわね!あ、これからか。
わたくしはまだ包帯姿。
今日はどうしても教会に行きたかったから出かけただけで、怪我をしてからは他に出歩いたりはしていない。
いくらもう傷口は塞がっているとはいえ、まさかまだ一目でわかる頬の傷をさらして歩いたりなんかしたら、お母様になんと言われることか。
絆創膏があればまだ大げさに見えないのかもしれないけれど、あいにくこの世界には存在しないので、当分ひきこもり生活よ。
傷がきれいに消えるまで、あとどの位掛かることやら。
「まあ、ご心配いただきましてありがとう存じます。この姿は大げさで恥ずかしいのですが、そこまでひどい怪我ではありませんのよ」
「それでも今日は、そのお怪我がよくなるようにとのお願いを?」
「ええ・・・まあ」
「ああ、光の魔力を持つ聖女様がいらっしゃればすぐに怪我など治るのに。ここ数年は不在ですからね」
そう嘆きながらクロードが、なぜかわたくしの頬にゆっくりと手を伸ばしてきたので一歩後ずさる。
なんでこういう人の時にいないのよ!ラウルっ!
「そうですわね。でも大丈夫ですわ。きっと偉大なる我が神エレオット様が、わたくしの願いをお聞き届け下さいますわ」
その失礼な手を叩き落とさなかったことをありがたく思いなさい!との思いを込め、精一杯斜めから顎を上げて見上げる。それにとびきりの不敵な愛想笑いを添えてから、もう一歩下がった。
ぐっ、首が。ちょっと上げ過ぎたわ。
「そうですね。あなた様に神のご加護がありますように」
クロードが、たぶん無意識で伸ばしたのであろう手を、苦笑しながら降ろす。
とっさに、女性に触れることに慣れていらっしゃるのね、という嫌味を言いそうになったわ。
クロードの言う通り、光の魔力は傷を癒すことができる。
でも、悪役令嬢の微量な魔力では、せいぜいこの治りかけの傷を目立たない程度にできるくらいだと思う。
実際は聖女になれるほどの光の魔力量は持っていないにも関わらず、クロードが聖女として持ち上げたから悪役令嬢はつけ上がったのよ。
クロードルートではないルートの時も、クロードは悪役令嬢を聖女として扱っていたし。
前世の記憶が戻って、ゲームの内容をノートに書きだしているうちに思ったのよ。
悪役令嬢がヒロインをあんなに妬んだのは、そもそもはクロードのせいじゃないの!?と。
学院でも高位の侯爵令嬢という立場に加えて聖女として扱われ、いい気になっていた悪役令嬢。
そこに平民のヒロインが、強大な光の魔力を発現させたために特例として貴族の学院に入学してくる。
悪役令嬢は、後から現れた平民に聖女の座を奪われることをよしとせず、いじめを開始するのだわ。
ああ、もう絶対にコイツのせい!
魔力属性は兆候があったら鑑定士に視てもらうのだけれど、賄賂でも渡して光の魔力を持っていることは隠匿しようと思っていたのよ。
もうこんな女誑しには二度と関わりたくないので、絶対に隠すことにするわ!
顔だけイケメンを見ていてもむかつくだけだからもう帰りましょう。
それではごきげんようとさっさと挨拶して教会を後にする。
最後に、もう二度とクロードと関わることがありませんようにと神様にもお願いをした。
教会脇に止めていた馬車に乗りこみ家へと戻ると、アルフ兄様と執事のジェラルドが玄関で待ち構えていた。
「エミリア、やっと戻ったか。途中で誰かに会わなかったか?」
どうやらわたくしを探していたらしい。
教会へ行ってきますというのもなぜと問われそうだったので、気晴らしにそこらを回ってくるとしか言っておかなかったのよね。
「たまたま寄った教会で、ファドリック侯爵家のクロード様にお会いしましたのでご挨拶させていただきました」
「クロードか。他には?」
「特には。 なにかございまして?」
「エミリアを魔獣から助けた際に、怪我を負った騎士がいただろう?」
攻略対象者のアンドリューのこと?嫌な予感がするわ。
「・・・ええ、たしかサラメント騎士家の方ですわよね?」
「ああ、アンドリュー・サラメントといってな、エミリアに謝罪したいと何度か面会の申し込みをして来ていたのだ。その度に父上が必要ないと断っていたのに、先ほどいきなり訪ねて来たのだよ」
えー、アンドリューって、そんな強引なキャラだったかしら?




