11.神様ぷりーず
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自分の表現力の無さに唸っております。
皆さまのたくましい想像力だけが頼りです。
『ロイス君、私、あなたと出会えてほんとうに幸せよ』
ロイス君のとっておきの場所である、静寂な湖のほとりで、私はロイス君にそう告げる。
『ルーチェ、僕のやさしい光。君が幸せで僕も幸せだよ』
そう言って照れくさそうに一度視線をさまよわせたロイス君だったが、私に素早く口づけをすると、とてもうれしそうに笑った。
―完・・・
『ふふふ、何を言っているのさ。ルーチェは僕のものだから誰にも渡さないよ。 ほらルーチェ、見て!領地に君のための塔を用意したんだ。これからはもうなんの心配もいらないよ、君はずっとこの中だけにいればいいのだからね。うれしいでしょ? あれ、どこへ行こうとしているの? ここは嫌? なにが気に入らないの?そんな我儘を言うなんて、僕は悲しいよ。 そういえば、僕の婚約者も我儘でね。せっかく君と彼女の分のウェディングドレスを用意したのに、3人での結婚式は嫌だとすねて侯爵家に帰るとか言い出してさ。 だからあそこにいてもらうことにしたんだ』
そう言ってシャルルが指し示した先には、ウェディングドレスを着て不自然に両手を上げた女性がいる。
よく見るとそれは、両手首を壁から下がった鎖につながれ、足枷をはめられた悪役令嬢の姿であった―――
「ひぃ!」
わたくしは悲鳴をあげて飛び起きた。
はうぅ、心臓がバクバクしているわ。
あー、またシャルルルートのバッドエンドの夢を見てしまった。
このままだとウェディングドレスがトラウマになりそう。
あのお茶会の後、やることができたからまた領地に戻ると言ってシャルルは帰って行った。
狙い通り、わたくしのことを嫌いになったと思うのだけれど、ここしばらくの夢見の悪さはいったい何かしら?
ふぅ~、そうね、嫌われたのだから、シャルルはもううちへは来ないのよね。
今までかわいがってきた分、わたくしも寂しいのかもしれないわ。
次に会うのは3年後ね。できればあまり病まないで成長することを祈りましょう。
―――パン!わたくしはひとつ手を叩いて気合を入れた。
さあ!気を取り直して今日もダイエットを頑張るわよ!
レオ・・・殿下にわたくしの体重が重いと驚かれてしまったので、それからは食事の量を制限してみたのだけれど、アルフ兄様の執事に気付かれて、成長期なのにと怒られたの。
いちいち食べた量をチェックしてくるので、さすがに食事中のお小言は勘弁して欲しいとアルフ兄様に訴えたところ『そうか、それはいけないね』と良い笑顔で言ってもらえた。
けれど、次の食事からは給仕された分を全て食べきるまで、席を立つことを許されなくなってしまったのよ。
だからダイエットは運動をするしかない。
ちなみに、おやつのお菓子やフルーツはすべて秘密裡にメアリに下げ渡しているわ。
やはり悪事を働くときは共犯者が必要ね。
そういえば、昨日でわたくしが前世の記憶を取り戻してから一週間が経ったのだけれど、ちょっとショックなことがあったのよ。
休暇を終えて戻ってくるはずだった侍女のアンが、退職を願い出たそう。
お父様はアンの家庭の事情でとわたくしに説明をしたけれど、メアリにチョコレートの箱をちらつかせながら本当の理由を問うたところ、なんとわたくしが王太子殿下の婚約者候補を辞退したのを知ったことが本当の理由なのだそう。
さらにチョコレートの箱を開けてメアリに見せると、メイド仲間から聞いた話なんですけどねといいつつ、メアリが詳細を語った。
アンは将来、王太子妃の侍女、さらにその後は王妃の侍女になりたくて、傲慢な、(あ、これは大げさに言っていますよとメアリが強調)お嬢様に我慢して仕えてきたのに、無駄になったと怒っていたらしい。
無口なアンにそんな野望があったなんて。
わたくしが7歳の頃からの付き合いなのに、全然気が付かなかったわ。ごめんなさい。
でもひとつ言わせてもらうと、侍女がいるお母様がうらやましかったわたくしが勝手にあなたを侍女と言い張っていただけで、あなたは本当はただの部屋付きメイドだったのよ。
そうそう、メアリにはちゃんとチョコレートをあげたわよ。1個ね。
さて、今朝はいつもより早く目が覚めているようだから、メアリが起こしに来るまでとりあえずベッドの上で腹筋・背筋をしましょう!
遠くで木を打つような音がしている。たぶんロイス兄様が言っていた剣術のお稽古ね。
その音をリズムにして腹筋運動をしたいのだけれど、20回が限界だわ。
ぐぬぬ、淑女たるもの、重いドレスを着てダンスをしなくちゃいけないのだから、体力がないとだめなのよ!
ドレスと言えば、今日はレオ・・・殿下の婚約者候補を集めたお茶会の日だわ。
わたくしが書いた謝罪文に対するお返事は頂けなかったけれど、登城日はお茶会が終わってからという指示だけは送られてきた。
まさか、お茶会のためにあつらえた華やかなドレスを謝罪の場に着ていくわけにもいかず、一番地味なドレスを出し、更に装飾を外させているところ。
もう殿下に近寄れることも最後なのに、着飾ることもできない。
無駄なことだけれど、せめてもの乙女心のために、わたくしは腹筋を再開した。
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「神様、お願いです。2時間でいいのです」
午後になるとわたくしは、エレオット教の教会へ行き、護衛とメアリを外へ残してひとり祭壇へと向かった。
そして、わたくしをこの世界へ転生させたであろう神様に祈りを捧げる、体でお願いをしている。
「2時間だけ元の世界に行かせてください。『光の君に口づけを』のファンブック2を買って、漫画の新刊チェックをして、ああ、予約していた乙女ゲームの受け取りもして、ゲーム機とスマホを取りに家に戻りたいのです。ついでにお母さんにこんなにかわいく生まれ変わったよと報告して、あ、お父さんは別にいいです。あとは・・・ああ、近所にあるアイスクリームショップで新作フレーバーをちょこっと試食できればいうことありません」
「―――――――――」
「では、1時間・・・せめて30分・・・どうかファンブック2だけでもお恵みくださいっ!」
「―――――――――」
・・・駄目か。
盛大なネタバレありというから恵美は買わなかったファンブック2になら、逆ハーレムルートの情報があるだろうから欲しいのに。
攻略対象者との婚約を避けたとしても、その先はどう振舞えばいいのかがわからない。
せめて執事が誰なのかだけでも、ちらりと見せて欲しい。
わたくしは返事のない荘厳な祭壇を見上げ、ため息をついた。
「ずいぶんと熱心にお祈りされているのですね」
「ええ、どうしてもお願いしたいことが、」
神父様が声を掛けてきたのかと思って振り返ると、そこには信者を示す青いタスキを掛けた男が微笑んでいた。
「ひっ!」
「ああ、紹介もないのに声を掛けるなど、失礼なことをしてしまって申し訳ない。お若いのに熱心な姿に感心してつい。私はクロード・ファドリック。ファドリック侯爵家に名を連ねる者です。あなたはマルセルム侯爵家のお嬢様とお見受けしますが?」
男は左手を胸に当て、丁寧なお辞儀をしてからまた微笑む。
なるほど、実物も一見優し気なイケメンだわ。
「え、ええ、もちろん存じあげておりますわファドリック様。初めまして。わたくしはエミリアーヌ・マルセルムと申します。以後お見知りおきを」
されたくないわっ!
きちんとカーテシ―をして挨拶をしながら、わたくしは自分を罵った。
ああ、わたくしのばか。
教会を見た時に気が付いたくせに、なぜ入ってしまったの?
あ、ここクロードルートに出てきた教会だわ。クロードを見かけちゃったりなんかしてーとか考えたから、本物が現れちゃったじゃない!
わたくしの目の前で穏やかに微笑みながら、そっと眼鏡の位置を直したこの男が5人目の攻略対象者。
そして、もっとも恵美が嫌いなキャラなのである。




