10.最難関でもフルーツは役に立つ
「あ、ロイス兄様、お帰りなさいまし」
執務室から逃・・・お暇し、部屋へと戻ろうとしていたところ、ちょうど学園からお戻りになったロイス兄様と出くわした。
「なんだエミリア、うろうろして暇なのか?べ、別に一緒にお茶してやってもいいんだぞ」
「まあ、ぜひ!ロイス兄様とふたりっきりのお茶会は久しぶりですわね。では、ロイス兄様から頂いたチョコレートを持ってきましょう。 どこにしましょうか?今の時間だと南のサロンがいいかしら?」
「べ、別にあんなチョコレートはエミリアひとりで全部食べればいい。無くなったらまた近くへ行った時に買えばいいんだからな。エミリアの分も、ついでに買ってきてやらなくもないぞ」
「うふふ、ありがとう存じます。とてもおいしいのでまたお願いいたしますわ」
ロイス兄様のカバンを受け取ったメイドに、まだ昨日の苺と桃があるのならそれも持ってきてちょうだいとお茶の支度を頼み、兄様と一緒にサロンへ向かう。
今日はフルーツを食べ過ぎないようにしましょう。
ロイス兄様と並んで歩きながら、気になっていたことを問うてみる。
「ロイス兄様、学院はどういう感じですの?その、特に交友関係などは・・・」
「交友関係?まあ、貴族なんてものは皆、幼い頃からの知り合いだからな、なんの問題もないぞ。剣術クラブの方の付き合いもあるしな。なんだ友達ができるか心配なのか?大丈夫だ、エミリアはそ、そのか、かわいいからな」
ロイス兄様がいつものようにそっぽを向いて言っているけれど、今日はめずらしくツンに冴えがないわ。
「あら?ロイス兄様、剣術なんてなさるの?」
「ああ、家では早朝にしか稽古をしていないから、いつも朝寝坊のエミリアは知らないんだな。アルフ兄様もラウルもやっているぞ」
はて?非力設定とボッチ設定は記憶違いかしら?
まあ、お兄様がボッチでないのなら、それに越したことはないのだけれど。
「そういえば、ラウルは一緒に帰ってきていませんの?」
今日こそはレオ・・・殿下からのカードを返してもらわないと!
べ、別に、呼び出し状だから必要なだけなんだからね!
け、決して直筆かもしれないから取っておきたいとか、そういうんじゃないからねっ!
「あいつは成績が優秀で生徒会に入ったから帰りは遅いぞ。な、なんだ、やっぱり気になるのか?」
気になる?執事が生徒会に入れるものなの?ってところは気になるけれど。
ああ、きっと雑用をさせられているのね。
そう思いながら廊下の角を曲がった途端、金色のふわふわした髪の、天使のようなかわいらしい容姿の男の子が走り寄ってきた。
「お姉様ー!」
「げっ!シャルル」
「げ?」
「あ、いえ、げ、元気かと聞きたかっただけですわ。ええと、領地に行っていたのよね?三週間ぶりかしら?」
シャルルこと、シャルルジーク・ルーベンスは宰相の息子で、わたくしたちとは幼馴染。
わたくしよりひとつ年下で、お姉様と慕ってくるからわたくしも弟のようにかわいがっていた。
しかし、前世の記憶が戻ってからは一番恐れていた相手。
そう、攻略対象者なのよ。
しかも恵美がやっていた乙女ゲームすべての中においても、最・難・関ルート。
選択をひとつでも間違うと、バッドエンド。
他の攻略対象者の好感度の度合いを間違えても、バッドエンド。
シャルルルートのバッドエンドは監禁。
執着心が強く、一度自分の物になったものは手放さないので、なんとヒロインと婚約者である悪役令嬢がまとめて監禁されるのよ。
恵美が持っていたファンブック1によれば、トゥルーエンドは存在するらしい。
その場合の悪役令嬢は・・・はっ!穏便な婚約解消じゃない!あったわ!いいルートが!
・・・いやいや、無理無理、最難関ルート攻略無理!
恵美も一度しかプレイしなかったから、ろくな情報を持っていない。
その一度も、もちろんバッドエンドだった。
ヒロインは塔に閉じ込められ、悪役令嬢は鎖につながれていたわ。
やだやだ、なんとしてもシャルルルートも避けなければ!
そして、シャルルルートがバッドエンドだったために、逆ハーレムルートもプレイできなかったのよ。
まあ、できてもやらなかったけど。
「僕は元気ですが、お姉様、なんとおいたわしいお姿に。それに何度も気絶なさったとか」
どこから聞いたのよ、そんな情報。
「お、大げさね。たった二回よ。この顔の傷も残らないわ」
「お姉様になにかあったらと思うと、僕は心配で・・・ああ、いっそ外へ出さないように閉じ込めてしまえばいいのか」
怖い怖い怖い、最後のつぶやきが怖いー!
「おほほほほー、何を言っているのかしら~?かわいい弟が心配してくれてうれしいけれど、わたくしはお出かけが大好きなのよ~」
「弟・・・ところでこれからどちらへ?」
「今から、ロイス兄様とお茶会をするところなの」
「ああ、ロイス兄様もいたのですね。僕もご一緒していいですかー?」
怖っ、急に声が低くなったわ。ロイス兄様のことは見えてたはずよね?
「駄目だ」
まあ、ここでも睨み合いが勃発したわ。
「えー、いいではないですかー!ロイス兄様はいつもお姉様と一緒にいられるのにずるいですー!僕はめったに会えないのにー!」
ああ、いつもの駄々っ子が始まったわ。
まだ12歳の子供なんだから仕方ないわね~。
なんて騙されないわよ!
ゲーム内では15歳になっても同じような感じなのだから。
ヤンデレ担当にはできれば関わりたくないけれど、家が近いこともあり、シャルルはいつも勝手に来て、しれっと夕食時のテーブルに着いていたりするのよね。
そうだ、今のうちに嫌われればいいのではないかしら?
なにかきっかけを掴めればいいのだけれど。
「ロイス兄様、シャルルはまだ子供です。駄目だと言っても絶対に付いてきますわ。ふたりっきりのお茶会はまたの機会に致しましょう?今日のところは三人で、ね?」
ロイス兄様を説得して三人でサロンへ向かう。
サロンで丸テーブルに着くと、程なくして紅茶とフルーツが運ばれてきた。
シャルルの地雷は自分の物を取られること。
ふ、ふ、ふ。ちょうどいいわ。
数少ないシャルルの情報として持っているのは、フルーツの好み。
ゲームの好感度上げイベントに、カフェに行ってケーキを食べさせるというのがあり、選択肢に『桃のロールケーキ』『苺のショートケーキ』『ダークチェリー入りチョコレートケーキ』というフルーツケーキが出てくる。
シャルルの場合、見た目でかわいいケーキを選んでしまいがちなのだけれど、シャルルは桃にはアレルギーがあって、苺はつぶつぶが気持ち悪くて嫌いなの。
だからいいわよね。
どうせ残すだろうし、シャルルの分として出されている苺と桃を取り上げましょう。
しかし、2つも不正解なんて厳しすぎるわ。
ちなみにロイス兄様は苺のショートケーキが正解で、あとは普通。
「んー、本当にこの桃はおいしいわー。わたくし大好物なのよー、あらー、もう無くなってしまったわー。シャルルの分をよこしなさいな!」
シャルルのお皿から桃を強引に横取りする。
狙い通り、シャルルは自分の物を取られて愕然としているわ。
さあ、駄目押ししましょう!
「あら、まだ苺も残っているのね。食べさせてあげるわ、はい、あーん」
苺にフォークを刺して取り、シャルルの口元へ持って行くと見せかけて―――
「ああ、苺はロイス兄様の好物でしたわね、はい、兄様あーん」
「え?な、」
何をすると言いたかったのか、な、で口を開けたロイス兄様の口に苺を押し込む。
あら、ロイス兄様、目がシロクロしているわ、押し込み過ぎたかしら?
うふふ、意地悪するのもけっこう楽しいわ。やはり、わたくしは悪役令嬢なのね。
あらいやだ、シャルルったら、薄ら笑いを始めたわ。怒らせ過ぎたかしら?
でもこれでシャルルルートも消えたわね!
その後、無口になったロイス兄様と、薄ら笑いを浮かべたままのシャルルが時たま睨みあっていたようだけれど、もうロイスルートも消えているし、攻略対象者として避けるべきふたりと気楽にお茶ができて、わたくしにとっては楽しいお茶会だった。




