10話 辺境都市ガーランベルク
「おーい、守衛さーん」
大きな声でエルミースは叫び、体全体を使って腕を振るう。街の入口に立っている門番に話しかけているようだ。このまま何も言わず街に近づくといくら死体であろうと混乱を招くだろうという配慮なのだ。
こちらに気づいた門番たちが空に浮かんでいる黒蛇の死体を発見すると慌てて門の中にいる仲間たちに指示をだす。
「おい、あれを見ろ。黒蛇を倒したものが現れたぞ! 急いで<狩り人組合/ハンターギルド>に連絡しろ!」
門に立っていた男の一人が早口で同僚にまくしたてた。
「おいおい、嘘だろ? 俺たちが生まれる前からいる魔物がそう簡単に倒されること何かあるかよ。夢でも見てるんじゃないか?」
何人もいる同僚の男たちはおどけたように笑い合う。
「それなら見てみろ! 頭を割られた黒蛇の死体が浮かんでるからよ」
男に急かされた同僚たちは面倒だと口々に言いながらも門からいつも見ている風景を眺める。だが、まくしたてた男の言う通り空に浮かぶ黒いものが目に飛び込んでくる。
「おいおい、マジかよ!」
先ほどまで毛ほども信じていなかった男たちはがやがやと騒ぎ立て始める。
「だから、言ったろ! 分かったら早く連絡してこい!」
怒声のような声が響き、男たちはいっせいに狩り人組合に向かって走り始めた。
「まったく……。全員で行けとは一言も言ってないんだがな。混乱しやがって」
悪態をつきながらも共に門番をしていた男に持ち場を任せると男は声を上げた少女の方へ駆け出す。重たい鉄製の鎧をがしゃがしゃと鳴らしながらもその速度はかなりものであった。あっという間にエルミースたちのところまでたどり着いた。
「まさかと思うが嬢ちゃん。そいつはあんたが仕留めたのか?」
「そんなわけはないでしょ? 守衛さんも知っての通り私は魔術師ですから」
「だよな。ってことはそっちの坊主が仕留めたってことか……。お前、何もんだ?」
鋭い視線がソルに突き刺さる。得体のしれない彼に警戒心を抱くのは無理もない。しかも、かなりの戦闘能力を有するのだからなおさらだ。ソルはその心情を理解してみるため笑顔を浮かべて対応する。
「何者と言われても困るな。まあ、何というか家から追放された者としか言えないな」
守衛の男はエルミースの方を見る。少女はその視線に首を縦に振ることで応答した。ソルの話が信憑性があるか確認したのだ。
「なるほど、分かったよ。まあ、この都市には脛に傷があるような奴はばかリだ。厳しく取り調べたりしないから安心しな」
守衛の男は男らしい気持ちの良い笑みを浮かべた。
「ようこそ、辺境都市ガーランベルクへ。良い街とは言えないが退屈はしないだろうとは言っておくぜ」
守衛の男の不穏な発言にソルは若干の引っ掛かりとを覚えたが自分が溶け込むにはその方がいいかもしれないと考え直す。
「守衛さん、この黒蛇の死骸はどうしたかいいですか? ずっと持ち上げ続けるのは流石にきついんですけど」
「ああ、そうだったな。それは門の隣に置いといてくれや。今狩り人組合に報告に行ってる奴らがいるんだ。だから、もう少しで組合の誰かが査定に来るだろうからな。嬢ちゃんたちは組合に向かうといい。長い長い取り調べがあるかもしれんがな」
エルミースは露骨に嫌そうな顔をする。
「やっぱり、そうですよね」
「そりゃそうだ。長年討伐できなかった化け物を倒しちまったんだからな。だが、これで小金持ちくらいにはなれるだろうぜ。そっちの坊主はありがたいんじゃないか? 放逐された身なら金なんか持ってるわけねーからな」
ソルは変わらずに柔らかい態度で対応する。
「そうだな。無一文な俺にはありがたい話さ。文句は言わずにとりあえず向かおう」
「分かってるわよ。でも、あそこの組合長私は苦手なの」
少女は溜息をつきつつも街へと歩き始める。
「じゃあ、守衛さん。私たちは組合に向かいます」
「ああ、精々頑張れや」
ソルは何を頑張るのかわからないがとりあえず頷く。少女はソルが分からなかった何かを理解しているためか大きなため息をつく。
重い足取りの少女を急かしながらソルは街の中へと入っていった。
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