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薄幸令嬢の奮闘記  作者: 星月天音
出会ったのは、処刑フラグキャラでした。(はじまり)
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薄幸の人生なんて、二度と勘弁してください。

薄井幸子35歳、契約社員で生計を立てている。恋人は…いない歴=年齢で「喪女」と陰で言われていたことは彼女も知っている。

幸子はとにかくとにかく薄幸な人生を歩んでいた。

まず、人生の基盤となる「家族」という枠も、彼女の味方になることはなかった。

父は酒乱、母は実子を親の仇のように憎み鬱憤の捌け口のように邪見にした。成長するにつれアルバイトなどでお小遣いを稼ごうとするも、その金はすべて母親によって盗まれた。

母は微妙に美人だったために、学生時代から「守る会」などと後ろ盾がいるために、警察、銀行など、それはもう「仲の良い」男性たちがいるために、なんでもありだった。

幸子と惹かれ合い家に会いに来た男子がいたが、なんと幸子よりも母と「とっても仲の良い」関係になったのだ。

母は言った。

「女としての魅力があるのは、私のほうだから私を好きになるのは当然でしょう?」


以来、幸子は恋愛など二度と御免だと思うようになった。


そして社会に出るまでの学生期間。

これは二分に別れていた。まず存在が目に入ると、とにかく女子たちの陰湿ないじめの標的にされる。そして、存在がまるでないかのような空気になる。そのどちらかの大きな振れ幅しかなかった。

間に存在する友人との青春など、あるはずもなかった。

女子たちによるいじめの中で、彼女たちがいつも口にするのはこの言葉だ。

「ちょっと男子から好かれてるからって、調子こいてんじゃねぇぞ!このブス!」

だが幸子からすると、ちょっと待ってほしい。ということだった。

まず幸子の視点からすると、男子から好かれた覚えもなく、まして彼女たちが言うように男子を意味もなく見つめることもしていない。

生きる上で必要な程度しか目にしていないのに、キレられる由縁などないはずだ。

いっそ何も見ないで生きて見ろ、と。

だが彼女たちは自分たちこそが世界のルールである以上、そんなことは関係ない。

自分が気に入らないとなれば、苛め抜くのが正義なのだ。


以来、幸子は自分の言葉を閉じ込めることに徹底した。


そして社会。

これは学生の区分からの延長線の上に立っていた。

なんとか実家から逃げたはいいが、その延長線はしっかり引かれていたのだ。

より苛烈となったのは妙齢であるということと、給料に関わることであることが一因だ。

まず妙齢というのは、ある女性にとって良い男性を見つけ結婚に至るというのは人生の幸福と安定を得るために誰もが夢見る現実的な狩りだ。その闘いのなかで有利となるためには、「年齢」「容姿」「有能」などを駆使して巧妙に戦場に立ち、それでいてこれ以上の乙女はいないかのような振る舞いを見せる必要がある。

そんな女性たちは自分のためになら他の女性を陥れるなど朝飯前だ。

そしてその標的になるのは幸子だった。

幸子のプライドのために言っておきたい。

幸子は彼女たちにとっての「良い男」になど目もくれたことなどなく、彼らも幸子に声を掛けたこともない。

ただ自分をより美しいだとか有能であることを浮き立たせるための道具として使われるのだ。

そしてやはり言っておきたい。

幸子は彼女たちよりどこか劣っているなんてことはないのだ。

見た目も清潔感を大切にして、小奇麗にしているし、能力だって彼女たちより本来は上だ。

だが彼女たちによってお株を奪われるだけなのだ。

幸子がやってのけた大仕事も、まるで自分が誠心誠意邁進し勝ち取った勝利であるかのように振る舞い、上のものたちは彼女たちの上目遣いと色のある声に騙されて、すっかり信じ切る。

それによって幸子が上司から言われることはこうだった。

「君もさ、もう少し頑張ったら?給料ドブに捨ててるようなもんだからさ、このままだとクビだよ。」

そして幸子の反論虚しく、本当にクビになった。

そして同じような手口で幸子に気があった三高の男性も、すっかり彼女たちの手腕にメロメロとなっていった。

告白もされていない男性から幸子が言われたのはこうだ。

「君、最初は良い子だなって思ったけど、思い違いだったみたいだ。仕事もそうだけど、もう少し自分磨き頑張った方が良いよ。君みたいな子に騙されていたと思うと、虚しいよ。」

人というものは、自分にとって都合のいいことを信じるものなのだ。


以来、幸子は何も信じなくなった。


こんなこと言う人間いるか?って言う人もいるだろうけど、残念なことにいるに決まってるだろ。どれほどお花畑で守られて生きてきたんだと言いたい。

こんな不運な運命な人いるか?って言う人もいるだろうけど、それも実に残念なことにいるに決まってる。どれほど少数でも、世の中には本人が何も悪い事などしてないのに不幸に落とされる人もいれば、散々な悪事を働いても絶対的に守られる人がいるのだ。

前世、どんだけ悪いことしたの?なんて揶揄されることもあるが、知ったことではない。

現実は小説より奇なりと言う。それはまさに言い得ているのだ。この世界を。


そして薄井幸子35歳。


人生最後の不幸が襲う。


会社に向かって歩いていた道で、背中から一突き。激しい痛みは瞬間的に脳が理解しなかった。

ある程度歩いたところで、幸子は痛みと全身を覆っていく冷気に震えだし、力尽きるように倒れ込む。


薄れていく意識の中、幸子は一心に願った。


どうか、もう二度とこんな不幸な人生は御免です。神様、次こそは幸せな人生を与えてください。

普通の人と同じような、ごく平凡で些細な幸せで十分なんです。

お願いします。





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