体感ゲームで十八禁サービスを受けようとする者
短編です。
俺、高校三年生。
最近十八歳になったばっか。
つまり学校さえ出ちまえば、十八禁もバッチリな訳。
だけど発売元の遵法精神とか良心とかいう奴のおかげで、そーゆーサービスが受けられないガッカリな存在。
なんの話かって?
わかんねーかな?
擬似体験ゲームの話さ。
最近サービスが始まった、擬似体験RPGゲーム「ドグラの国とマグラの森」の話だよ。
このゲーム、いわゆるファンタジー系のバトルゲームなんだけど、職種を選んだりクエストしたり。武器を選んだりスキルを獲得したりな自由度高いゲームなんだけど、実は十八禁のサービスが受けられるんだよね。有料だけど。
まあ、実際にプレイすればわかるかな?
ってなわけで、早速ジャックイン!
そら、中世欧州風な建物と、石畳の街。ドグラ王国に到着だ。
生きている城と雪をかぶった山脈が、なんとも名作劇場だろ?
まあ、名作劇場にしちゃあ魔族やらニンフやらドワーフやらが横行して、剣だ槍だ鎧た盾だと、かなり物騒なんだけどな。
設定としては、人間と人外の戦争が終わって百年。人と人外は協定を結んで、ともに暮らせる国を建てた。それがこのドグラ王国って感じ。
もちろん人間が統治してるけど、そんなことは話の本筋じゃない。
みんなが知りたいのは、十八禁の方だろ?
わかるわかる。
でももう少し待ってくれ。先にやることがあるんだ。
まずは俺の装備を確認。
粗末な斧に革の胸当て、回復用の飲み薬は最低限。
そう、これからバトルに出るのさ。平和な国とは言え、軍備は欠かせない。常に演習が行われている。
そして俺のお目当ては………報酬の銀貨なんだ。
六人一組、十二人一組のどちらか選んで、演習に参加。成績によって報酬の銀貨は額が変わってくる。
銀貨を目的にした俺にとっては、必死の戦場なんだ。
なに? その割りに装備がショボい?
高価な装備は、全部銀貨に替えたのさ。
ということで、ドワーフな俺、出撃じゃっ!
………バトル終了!
こっちの装備がショボいからって、ナメた連中が攻めてくる攻めてくる。
だが俺も簡単には「撤退」なんかしない。
最低でも二人倒してから、「撤退」させてもらったぜ!
まあ、そんなこんなで復活した後で一人。合計三人を倒し、俺の成績は十二人中四位。まあ、悪い成績じゃない。
報酬の銀貨は数字上のものだけど、チャリンチャリンとコインが鳴る音は、やっぱ格別よ!
さて財布がふくらんだところで、ここからが本番さ。
やたらとリアルなくせに、イケメンやら八頭身美人しかいない街中を駆け抜けて、目指すは中央の図書館だ!
受付に立つと開かれるウインドウの、司書に会うという項目をつっつく
。すると隠し扉が開いて、別室に案内されるという仕組み。
「あら、また来てくださったんですか?」
別室に入ると、司書のメルが微笑んでくれる。
この世界では珍しい黒髪。そしてローブのようなゆるやかな衣装。だけどはっきりわかる、巨乳。
もう一度言います、巨乳。
大事なことだから、もう一回。
巨乳。
そう、彼女こそは運営が用意してくれた、銀貨や課金次第でいろいろなサービスをしてくれる、公式名称アイドル。ユーザーがつけたあだ名は、搾り取る女。
ンなことに銀貨を使うなよ、とは言わないでくれ。なにせこのアイドル、街中のあちこちになんと十八人もいるのだ。十八人もいれば君ぃ、絶対に銀貨を投入したくなる女の子が、一人や二人はいるから! 嘘じゃないって!
と、さっきからメルが待ってるな。彼女のそばで開いているウインドウ。こいつを確認するか。
ひとつは「写真撮影」とある。これは彼女にあれこれポーズを要求して、好きな画像をファイルすることができるんだ
その下が、「オプション」となっている。
れは眼鏡や帽子といった小物から、衣装チェンジまでできるという優れもの。
さらにその下が、「動画」とある。俺は銀貨の投入が足りなくて、まだ動画は見れないんだけどね。
動画サイトで拝見したところによると、どうやら歌って踊るものらしい。こちらも銀貨の投入次第で、さまざまな衣装にチェンジできる。
たったそれだけのために愚かだなぁ、なんて大人の意見は無粋なもの。
実際、たったこれだけのサービスを受けたいがために、演習に励む者は数多い。
そしてギルド名からして、〇〇ちゃん同盟とか〇〇ちゃん友の会というのが数多存在する。
ということで、俺もさっそくメルに眼鏡と学生服を………。さらには「こんなサービスまであるのか?」という筆頭、褐色肌を採用してみる!
………うむ、イイ! 学生服に褐色肌というのが本物の学生っぽくて、登校一番教室に入るなり、「オス」、「おはよう」なんて言葉を交わしたくなる。
そして黒髪を惜しむなかれ。ここは贅沢に、一本おさげ! 太目の三つ編みをほどこしてみよう!
この髪型にはマジックがかかっていて、髪の編み目ひとつひとつが光沢を放ち、世の男性を虜にするという効果がある。もちろん俺も、打ちのめされた一人なのだ!
さて、紳士的な撮影のひと時を楽しんだところで、未練たらしくウインドウを開いてみよう。
下から二つの項目。
俺には開くことを許されていない項目。
十八禁、そして衣装チェンジのオプションという項目。
何しろ擬似体験ゲーム。
大人のサービスも擬似体験できるというのだ。
………しかし俺は十八歳とは言え、まだ高校生。発売元の良心とやらのおかげで、大人のサービスは受けられずにいる。
なんだよ? 機械の擬似体験で大人の階段のぼるのが、そんなに恥ずかしいのかよ?
仕方ないだろ、だって俺はジェンダー。
俺なんて一人称だけど、身体は女。でも心は男。
恋をしたいし、ぶっちゃけ一発ヨロシクしたい。でも、女の子たち相手にそんなこと告白したら、気味悪がられるだけ。
だから俺としては、このゲームに大人のサービスがあることを、心から感謝している。
掲示板をのぞいたら、俺みたいなのは結構いるみたいで、男だけど男が好き。今日は〇〇君のサービスを受けたとか、女だけど女の子が好き。今日は〇〇ちゃんを抱いちゃった、という書き込みが存在している。
彼らもまた、このサービスに感謝している者たちなんだ。
ということで、待ってろよメル!
学校卒業したら、真っ先にお前を抱いてやるからな!
………あ、そうそう。ここだけの話。
俺みたいな人間のために、擬似のオ〇ンチンをオプションでつけることができるサービスがあるんだ。
まったく、どれだけ俺から搾り取るつもりだよ?
そして、その時が来た!
本日三月三十一日。時刻は午後十一時五〇分。
つまり、四月一日午前〇時になると同時に学校を卒業。
大人のサービス解禁というシュチュエーション。
期待に存在しない名刀をふくらませ、俺! いま! 全裸待機中!
もうすぐだ。
あと一〇分ほどで、メルを抱ける。
早鐘を打つ心臓に、落ち着け落ち着けと呼び掛ける。
よし、早目にジャックインだ!
先駆けてメルを抱きに行くぞ!
………………………………。
………………………。
………………。
………。
へい、みんな知ってるかい? 世の中には働いちゃならねぇ職業ってもんがあるんだぜ。
ひとつは坊主。
ひとつはお巡り。
そしてもうひとつは、エラー画面という奴だ。
だがその働いちゃならねぇエラー画面が、俺の目の前に輝いていた。
よぉ、エラー画面。
なんでお前、そんなにキラキラ輝いてんだよ? 俺の気分はゲンナリ落ち込んでんのによ?
反射的に怒りが込み上げる。
だが刹那の感情に身をまかせるのは、愚か者のすることだ。
クールに考えよう。
何故、今この時に、エラー画面がお仕事に励んでいるのか?
よもや………まさか………いや、だがしかし。
世の中には俺とまったく同じ考えの、高校三年生男子があふれているとか?
そいつらが一斉に、俺と同じ気持ちの高ぶりをこらえきれず、アクセスしたとか?
日本全国の新卒者たちの、一斉アクセス。
どこまで飢えてんだよ? 俺もだけど。
どこまで盛ってんのよ? 俺もだけど。
少しは自重しろやっ! このサルどもがっ! ああそうさ、俺も同じだけどなっ!
だが自分のことは棚にあげて、叫ばせてもらうぜ!
「ふざけるなーーっ!」
翌日、ギルメンに事の顛末を打ち明けた。
ギルメンは俺の肩を叩いて言う。
「よ、去年の俺」
終り