第3章: チートの報酬
明後日の昼過ぎ、準備を整えた例のオッサン……近衛騎士団々長と多くの騎士達および、お歴々の見守る中、オレは訓練場に出向いた。
「勇者殿……その出で立ちは」
「ああ、伝説の武器……が無いんで、代わりの物だ」
オレはまた皮肉を絡めつつ、FN P90と戦闘服の説明を行った。なんでそんな物をもっているのかというと、神様に認めてもらったチートスキル『オレの持ち物に限り自由にこの世界に持ち込み可』を行使したからだ。いや、いくら異世界転生だっていきなり真っ裸で見知らぬ世界に放り出されるのは無しだろう。それに服はOKで持ち物はNGっていう理由は何故だ?……突きつめていくと、身には付けていなくても個人のアイデンティティを表す絶対不可分な物は存在する云々、異世界転生について神と厳密な討論を行った結果だ。そして、なぜオレが本物のマシンガンを所有物としているかについては企業秘密だ。ヒントは少数株投資とだけ言っておこう(笑)。
「勇者殿の剣は?」
「ああ、ボクは剣士ではないので、これで闘う」
と言って手に持ったFN P90を持ち上げる。
「とりあえず、どれくらいの力なのか見てもらおうと思うんだけど」
「演武ですか?」
騎士団々長が的外れな事を言う。まあ剣だったらそれでもある程度わかるかもしれないけど。
「いや、試し撃ちってとこかな」
とりあえず訓練場の真ん中に、的代わりの砂袋に着せたプレートアーマーを置いてもらう。一応、FN P90は3.5ミリのスチールプレートを打ち抜くそうだから大丈夫だろう。
「実弾は海外の射撃ツアーくらいしか経験はないんだけど、まあなんとかなるさ」
脚をしっかり開いてP90を腰だめに持ち、軽くトリガーを引く
『BA、BA、BA、BA、BA、BA!』
軽い連射音が響き、初めてにしてはなかなか上手く、弾丸を鎧に収束させることができたと自分でも思う。ただ、初めてマシンガンの実射を見た周りの人々……仕方ないだろうが、耳を塞いでうずくまる者、目を大きく見開いて立ち尽くす者、様々だが一様に度肝を抜かれたようだ。
「終わりだ」
ボクは軽くそう告げると、確認のため的に近づく。ここから見た限りでも胴体に無数の黒い点ができているので貫通しているのは確かだが……。
「これは!」
言葉を失う騎士団々長……用意したプレートアーマーはP90の弾丸でボコボコになっていた。
「へぇ~。思ったより派手にぶち抜いてるねェ、これじゃ模擬戦をするのはちょっとムリかな(笑)」
ワザとらしくオッサンの方を見遣ると、目論見が完全に外れ、しかも自分たちでは勝てそうもない力を見せつけられて呆然としていた。結局、剣の指南は無しになりボクはそのまま自分の部屋まで戻ってきた。
「ハッハッハッ、あの団長の顔ったらなかったな。思った以上の成功だ」
ひとり部屋で満足の笑い声を洩らしていると『コン、コン』とノックの音がして、
「勇者様、今よろしいでしょうか?」
と声がかかった。
「ああ、いいよ」
ドアの外から掛かった声はアンジェリカだったのですぐに返事した。これがあの団長だったりしたら難癖をつけて会わないところなんだけど。
「勇者様が剣の腕前を披露されると聞いて騎士団の訓練場まで行ったのですが、既にお披露目は終わってしまったとの事で……せっかくの晴姿を見ることが出来ずとても残念でした」
言葉とは別にアンジェリカの表情はとても満足そうだった。きっと自分が召喚した者がちゃんと相応しい能力を持っていることが示せたのでひと安心したといったところだろう。
「ああ、また今度ね。それよりもアンジェリカ姫、ボクは勇者としてこの国のことをもっと知らなければいけないと思うんだ。いろいろなことを教えて欲しいんだけど、お願いできるかい?」
「はい、それはもう。勇者様のためならばどのようなことでも力添えいましますわ」
アンジェリカは両手を胸の前で握りしめキラキラ輝く瞳で見つめ返しながら答えてきた。まるで神様に祈りを捧げているときのようだ。
「それはよかった……じゃあ手始めに、姫のことをもっといろいろと教えてもらおうかな」
白い絹でできたプリンセスグローブ(手袋のことだ)をした姫の手を握りながら答えたボクの言葉にびっくりした表情で言葉を失うアンジェリカであった。