第2話: 決意
「うーん、この世界には勇者が倒すべき魔王も、神に対抗する邪神も存在しないのか。どおりで緊張感の足りない人達だと思ったわけだ……」
オレはあてがわれた宮殿内の貴賓室で、独り言ちた。
「しかし、召喚の儀式をしてくれた姫巫女……アンジェリカさんと言ったっけ。すごくきれいだったなぁ。部屋を用意してくれたメイドのカレンちゃんもかわいかったし……この世界は女の子のレベルはすごく期待できそうだなぁ♪」
オレは念願の『勇者としての異世界転生』が、まずはうまく叶えられたことに満足しながら、ふかふかのベッドに身を沈めた。
しかし翌朝には厳つい中年のオッサンがやってきて、それを台無しにした。
「勇者殿、我が近衛騎士団にひとつ剣をご指南頂きたいのですが、如何ですかな?」
騎士団々長は丁寧に、しかし含みのある鋭い視線を投げかけながらそう言った。
……こいつ、絶対ボクに反感を持ってるな。どうせボクを剣で叩きのめして化けの皮をはがしてやるとでも思っているに違いない。
「このボクに王国の騎士と手合わせしろと? それはムリだなぁ」
ニベもないオレの拒否の返事に、特に驚いた様子もなくオッサンは返した。
「やはり、そういうことですか……」
鼻先で笑うような表情でオッサンは呟いた。こいつ、最初っからボクが拒否すると踏んでいたな。スゲーいけ好かない感じだ。……このまま返せばきっと、王様やお歴々に『あの勇者は戦う力もない飛んだクワセ者だ』とか吹聴する気に違いない。ボクは悩むふりをしながら少し間をおいて言葉を返した。
「考え違いしないでほしいのですが、勇者の力は人間相手に振るってよいものではありません。たとえ普段から鍛えている近衛騎士であろうと、死なぬように加減するのは難しいですし」
最後にニヤリっと笑ってオッサンを見返す。こんな煽り言葉が返ってくるとは想定外だったろう。額に筋を立てて怒りを堪えながら、
「そうまで言われるならその腕前、とくと見せて頂きましょう! 我ら近衛騎士団が剣を交えるに力不足だと言われるほどの力を!」
「まあ、そう熱くならずに……とはいえ、言葉だけでは収まりもつかないか。剣じゃないけど力くらいは見せましょう。しばらく準備が必要だから明後日くらいに、場所は……」
「我々近衛騎士団の訓練場で如何か?」
「いいよ。じゃあ、明後日の朝、訓練場で」
「しかと伺った、明後日を我が国の者、一同楽しみにしておりますぞ!」
オッサンはそう捨て台詞を残して出て行った。まったく、おかげで来て早速神様との交渉が必要になったじゃないか……どうせいつかは必要になるだろうからいいけど。
* * * * *
ここは王宮の奥にある神殿。アンジェリカはいつものように神への祈りを奉げていた。
「天の神なるニアメ様。ソフィア王国のすべての民を代表して祈りを捧げます。どうぞ日々の行いが御心に適いますように」
『我が忠実なる僕、アンジェリカよ。その方の心がまっすぐに向かっていることを好ましく思うぞ』
「ニアメ様……」
アンジェリカは創造神から直接言葉をかけてもらえる程の祝福と寵愛を受けた存在だ。今回の勇者の召喚も神様からの言葉により執り行うことになったのだった。