プロローグ:目の前の女の子
朝、目が覚めると、高宮数馬の目の前には女の子が立っていた。
クリっとした二重の目を大きく見開いて、キョトンとした表情で数馬をじっと見つめている。そして目覚めたばかりなのか、彼女の瞳の表面には少量の涙がきらりと光る。
あまりにも、可愛い。
数馬が抱いた感想はただそれだけだった。
顔立ちは全体的に少し丸みを感じさせ、肩まで伸びた明るめの茶髪は、その骨格に沿うようにして緩やかなカーブを描いている。まさに女子高生といった瑞々しい顔肌には肌荒れ一つすらない。桃色のリップに、前方にツンと主張した鼻先、そして赤く上気した頬に、二重のぱっちりおめめ。こんな子がクラスにいたら、誰もが彼女にしたがるだろう。
でもそんなことより遥かに信じられないことがある。
なんと彼女の姿は、
スッポンポン。
まさに文字通りのスッポンポン。今までちょっと裸なだけでスッポンポンと言っていたファッションスッポンポン達は生涯二度とスッポンポンとは言えない体になるだろう。真のスッポンポンとは、もう音の世界なのだ。もうそれを言葉として誰かに伝えるためには、スッポンポンという擬音に頼るしかないのだ。
そんなスッポンポンの彼女をよく見てみると、アルファベットでGと表されるくらいの胸が露わになっている。そんなおっぱい番地のB地区は、大きすぎず小さすぎずといったギリギリのラインである。というかこの表現こそがギリギリのラインである。
そして、腰回りはシュッとして細いくせに、胸まわりや太腿あたりはやけにムチっとしている。なんだこの身をもってエロスを体現している女性は・・・。
ありえない。ただの男子高校生の部屋にこんな女性がいる訳がない。昨晩、夜を共にした女性・・・なんてことも童貞ではありえない。それならば、自然とこう結論づけられる。
そうか、夢かと。
夢ならば何をしてもいい。いつまでたっても彼女を作れない数馬に見かねて、神様が素敵な夢をプレゼントをしてくれたのだ。例え夢の中でも、もし女の子をプレゼントしてくれるなら、しっかりと彼女の体にプレゼント用のラッピングテープを施してもっとエロくしてほしいものだが、数馬はそこまで高望みしない。ここまで鮮明な夢は人生で中々見るものではない。だから、今はめいいっぱい楽しむのがセオリーというものである。
神様、ありがとう。心でそう告げて、数馬は目前の少女の様子を伺う。すると数馬の期待を見透かしたように、なんと目の前の女の子もやけに熱い眼差しで数馬を見ているではないか。
(ああ、神様、なんて素晴らしい娘を俺に準備してくれたんだ)
数馬はもう何も考えない。言葉にすることすら野暮ったい。そして目の前の女の子に抱きつくために熊のように両手をあげて飛びつこうとする。
すると、タユンと音が聞こえた。
(なんだ?この感覚は・・・・?)
間違いなく数馬の体から発した音だ。その音を聞いて、今まで目の前の女の子に夢中で忘れていた違和感がやってくる。首元はなんだかくすぐったいし、前髪も妙に長くて鬱陶しい。肩もやけにいつもより重い。それに目の前の女の子は、不安そうな数馬を見て同じように不安そうにしている。また、何故か分からないが彼女は窓から差す日光を反射している。
この状況全てに違和感を感じて、数馬はやっと自分の体に目を落とす。そして自分の体を確認して約10秒ほど、衝撃の事実に気づく。
まずひとつは、目の前にいたのは理想の女の子などではなくただの鏡だったこと。
そしてもうひとつは・・・・・・・・・・・・・・
「俺、女の子になってるーーー!?!?!?!?」