67話
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-翌朝-
目が覚め寝室から出ると既にアールとリーゼは起きていて待機していた。
「「おはようございます。主様」」
「ああ、おはよう2人とも」
2人の格好は何故か執事とメイドの姿だ。
確かに魔導人形の中にはその役割の者もいるが戦闘用の2人は着る必要はないのでは?
「何故そんな格好をしているのだ?」
「はっそれは主人様に付き従う魔導人形が我ら2人しか現在はいない為代わりをしております」
「……そうか…」
それしか言えなかった。
目が本気だと物語っていた。
クヴァルムはそのまま洗面台に行き顔を洗う。
後ろにいたアールがタオルを差し出してくる。
それを受け取り顔を拭く。
その後にリーゼが「本日の御召し物でございます」と運動性重視でありながらも見た目も良い衣服を持ってきた。
これはこの後に鎧を着装する為だ。
コンコンと部屋の扉がノックされる。
アールが応対し扉を開けるとワゴンに朝食を載せたこの宿の従業員が現れた。
少し顔を青ざめさせていたのはこの厳重な警備体制を見たからだろう。
貴族の客人も此処まではしないのでは…というぐらいの警備体制だ。
この宿は高級なだけあり専門の警備員もおり安全だ。
それに加えてクヴァルムの部屋の周りは多数のゴーレムナイトが配置されており。それが不動の姿勢を維持していればこの宿の警備体制に何か不満が?と、思うだろうがその考えさえ吹き飛ぶ用な警備体制がとられていたそれは魔法が施されていた為だ。
この宿は確かに高級な宿だ。
この宿は上・中・下と分けると上に区分される。
さらに細く分けると上の下だ。
だがこのランクの宿でも魔法による警備体制はしていない。
それは費用対効果に合わないからだ。
魔法を施すのは可能だろうだがそれを維持する為の魔石が高くなる為だ。
なので従業員はこの警備体制に守られているクヴァルムはとても身分が高いのでは?と思い緊張から顔が少し青くなっているのだ。
最高級の宿だと魔法による警備体制をしている。
「お、お待たせ致しました。本日の朝食でございます」
深々と頭を下げた彼女にリーゼが「ご苦労様、後は私がしますので下がって良いですよ」
「畏まりました」
従業員は再び深々と頭を下げ退室した。
リーゼはワゴンの上に乗っている料理をテーブルの上に並べていく。
アールは椅子を引きクヴァルムが座りやすくし座るときに前にする。
「さて、2人はどうする?」
「我々は後で食べますので気にせずどうぞお食べになって下さい」
「わかった」
アールはグラスに果実水を入れる。
そうして優雅なひと時を過ごした後、レイスをゴーレムナイトに再び憑依させクヴァルム、アール、リーゼは再び鎧を身に付ける。
その後黒鴉一行は宿を後にした。
従業員はホッと安堵の息を漏らした。
時間通りに西門の前に行くと騎士団に辺境伯にその使用人と辺境伯の前にいる貴族らしき者は多分ネリソン子爵だろう。
それとそのお付きの者達だ。
【銀戦の祠】のメンバーはまだ来ていない様だ。
それから5分ほどして銀戦の祠が走ってやって来た。
「ほら、間に合ったわよ」
そうセシルが開口一番にそう告げた。
「何が間に合ったわよ!少し遅刻してるじゃない!」
セシルの言葉に盗賊の女が噛み付く
「まあ、細かい事は気にしない。小皺が増えるわよアマンダ?」
アマンダと呼ばれた盗賊の女は
「はぁ?セシル貴女が寝坊したのが悪いんでしょうが!それと余計なお世話よ!小皺が増えたら貴女のせいよセシル!」
「2人とも少し黙れ」
2人に注意したのは重戦士の男だ。
「わかったわよ。ゾルバ」
「はぁーい」
セシルは全然反省していなさそうだ。
「本当にセシルとアマンダは仲が悪いわねシーネ?」
弓術士の女が治癒士の女シーネに話しかける。
「まあ、いざ戦闘になれば見事なコンビネーションを発揮しますし本当に仲が悪くはないでしょう。あれは戯れあってるんだと思うよルネ」
ルネと呼ばれた盗賊の女が同感と頷いた。
銀戦の祠のパーティーリーダーのセリムが辺境伯に挨拶に向かったのでクヴァルムもそういえばしてなかったなと思い向かった。
「おはようクヴァルム」
「ああ、セリムのパーティーは大変そうだな」
苦笑いを浮かべながら「まあ、でも楽しいよ」
たわいない話をしながら辺境伯の元へ向かう。
セリムと2人揃って挨拶する。
「おはようございます。辺境伯様」
「良い朝だな、辺境伯殿」
「うむ」
辺境伯はこちらに向き直り一言だけ発した。
「おお、彼らが今回閣下の身辺を護衛する者達ですかな?」
「そうだとも、ネリソン子爵」
「お初にお目にかかります。ネリソン子爵様。私は冒険者パーティー銀戦の祠のパーティーリーダーを務めますセリムと申します」
「黒鴉の長、クヴァルムだ」
何処までも不遜そんな態度のクヴァルムだ。
本人もユウマとは出来る限りわからないような態度と会話を模索した結果傲慢不遜なキャラになってしまった。
内心はこんな言葉使いと態度不味くねと冷や汗者だ。
「はっはっは、流石は閣下の護衛だ!気に入ったよクヴァルム殿。それとセリム殿もよろしく」
ついでの様に言われたセリムだがその顔は緊張して張り詰めていた。
まさか貴族にも態度と言葉を崩さないとは思っても見なかった為だ。
「そうか?気に入ってくれて何よりだ子爵殿」
「ああ、気に入ったとも。閣下の護衛任務が終われば是非また我が領に立ち寄ってくれたまえ」
「考えておこう」
「ネリソン子爵我々はそろそろ出発するよ」
「おお、そうですか。わかりました…おい!開門しろ」
ネリソン子爵の言葉に開閉係が扉を開ける。
辺境伯は馬車に乗り込み騎士は騎乗する。
クヴァルム達黒鴉も全機騎乗する。
その後ラインバック騎士団長の号令の下ネリソン子爵領リパーゼを後にする。