64話〜リパーゼ〜
ウラカ出発から数日道中は何も問題は無く一行はネリソン子爵領、リパーゼの街に到着した。
ネリソン子爵はルーセント辺境伯の領地から一番近い王権派の貴族だ。
リパーゼはウラカから運ばれてくる魔の森の物を取り扱い発展して来た商業都市だ。
その為にネリソン子爵はルーセント辺境伯に頭が上がらないが当代のネリソン子爵は商人気質で先代よりもリパーゼは発展を遂げている。
ネリソン子爵はこれに満足せずリパーゼの街のさらなる発展を目指している。
予め使者をだして来訪の旨を伝えていたのでスムーズに街の中へ入る事が出来た。
宿屋の用意もしていてくれた様で黒鴉と銀戦の祠それに従士の者達は解散して明日の朝に西門に集合する旨を伝えられた。
銀戦の祠の者達は早速自身らに充てがわれた宿屋へ向かって行った。
クヴァルムは黒鴉のゴーレムナイトはこのまま出し続けないとな…と思っていた。
ゴーレムナイトは魔力さえ供給しとけば問題なく稼働するので宿屋は必要無いが他の者達は人間だと思っているのでそれも仕方ないか。
だがこの道中もしゴーレムナイトが話かれられても全く話さなかったりしたら流石に怪しまれる。
そこでクヴァルムが打った手は話せる者を配置したら良いという単純明快な者だ。
そして新たにクヴァルムが召喚したのはレイスだ。
レイスを幾つかのゴーレムナイトに憑依させ簡単な受け答えなどを可能にした。
後は副官に戦闘用魔導人形を2体召喚した。
魔導人形は古代魔法文明人が開発した人形でとても精巧に出来ており見た目は人族と全く変わりない。
そして魔導人形には幾つかのタイプが存在し今回は戦闘に長けた戦闘用魔導人形を召喚し鎧を装着させた。
その為にこの道中全く他のメンバーに怪しまれる事なくリパーゼの街に到着した。
「主様我らは如何されますか?」
話しかけて来たのは女型の魔導人形のリーゼだ。
魔導人形達は自分の事を主様と呼ぶ。
そして彼らはクヴァルムが偽りの姿だという事をすぐに看破した。
理由を問うと彼らとはリンクが出来ておりそれから情報が伝わる為だと言われた。
魔導人形もゴーレムと同じく魔力の供給で動くがゴーレムとの違いは魔石からでも魔力の供給が可能という事だ。
上質の魔力だとより長く稼働出来るらしく魔力が減ると省エネモードになる。
この状態だと20%しか発揮出来ないが魔力の消費を抑え稼働時間を長くできる。
「そうだな、リーゼは馬を全て厩舎に入れた後ゴーレムナイト達の点検をしてくれ、それが終わったら宿屋で待機していてくれ」
「畏まりました。護衛は如何されますか?」
「アールだけで良い、では頼むぞアールよ」
「はっ!主様の事は私が全身全霊をかけてお守り致しますのでどうぞご安心を」
返事をしたのはアールと呼ばれる男型魔導人形である。
戦闘用というだけあり彼らの戦闘力は高い現在のクヴァルムよりも上だ。
それに彼ら魔導人形は仕える主人のレベルが上がるごとにその強さ性能などが上がるという素敵な存在だ。
「では、街の散策でもしてくる。夕方ぐらいには戻る」
そう言い上を向くとまだ太陽は真上だ。
「畏まりました」
リーゼは一礼した
「では、行動を開始せよ」
「はっ!貴様ら行くぞ」
リーゼとアールにはゴーレムナイトとレイス達の指揮権を一部譲渡しているので素直に指示に従う。
リーゼはゴーレムナイトとゴーレムナイトに憑依したレイスを引き連れ厩舎に向かう。
クヴァルムはアールを引き連れ市場に向かう事にした。
■■■
「ようこそお出で下さりました。ルーセント閣下」
「歓迎感謝するよ、ネリソン子爵殿」
ルーセント辺境伯は東方では辺境伯ではなく閣下と呼ばれる事が多いそれは東方司令官という役職に起因する。
和かに挨拶を交わしながらもその目は油断なく相手を見据えている。
自派閥とはいえも隙あらば蹴落そうとするのが貴族という者だ。
本当に心から信頼できる者は極小だ。
いないな場合も多いが…
「どうぞお掛けください」
「失礼するよ」
両者が座ると控えていたメイドがテーブルの上に紅茶を用意する。
終わると一礼して隅に移動するが呼ばれるとすぐさま動ける位置だ。
「この紅茶はトーネル産の物です。どうぞお飲みください」
「ほう、トーネル産かね」
香りを嗅ぐと確かにトーネル独特の甘い匂いがした。
一口飲むと口に広がる甘味と苦味の絶妙なバランスの物だ。
「ふむ、美味しいな」
「そうでしょう、そうでしょうトーネル産は産出量が少ないので手に入れるのに苦労しましたよ」
暫くそうして当たり障りの無い談笑が続いた。
「ところであの遠征は災難で御座いましたな」
遂に本題を切り出して来た。
「ああ、貴族派の馬鹿どものせいで苦労したよ。だがこの失敗は奴らの致命傷になるだろう。王都では既に多数の貴族派の者達が粛清されているだろうよ」
「ええ、そうなっているでしょうな。ところで閣下の部下達も多数お亡くなりになったとか?もし宜しければ我が配下の騎士団を派遣致しましょうか?すぐさまに出立できますよ?」
やはりその話かルーセント辺境伯の元には日々こういった支援をするという手紙が届く。
純粋に心配してでは無いだろう。
彼らの狙いは魔の森の利権だ。
魔の森は危険な反面希少な食材や資源の宝庫で魔の森産の物は高値で売買される。
「その申し出は有難いが再建の目処はもう立っているのでな。その心遣いには感謝する」
「いえいえ、流石は閣下ですな。もう騎士団の再建の目処が立っているとは……では資金などの方は如何ですかな?」
「いや、そちらも大丈夫だ。あの遠征で何とか魔物の魔石は確保出来たのでなそれで賄えているよ」
「そうですか、そうですか…わかりました。
ですが何かお困り事が御座いましたらいつでも声をかけて下さい。いつでもお待ちしておりますよ」
「その時はお願いする」
その後も少し談笑した後部屋に案内され1日を終える。
■■■
市場にやって来たクヴァルムらはまずは一通り見てみる事にした。
ここではウラカから来た魔の森産の物が高値で売買されていた。
あの遠征以来魔の森産の物が流れて来ていないので値段が2倍近く上がっている。
例えば同じ薬草でも魔の森産の物だと効能が2、3倍近く変わるため高位の薬剤師などは必ずと言っていいほど魔の森産の薬草を使う。
今はルーセント辺境伯の指示で魔の森は立ち入り禁止状態だ。
冒険者達もその理由がわかっているため不満はあるが納得している。
その為にその不満は貴族派へと向かっている。
だからあの計画に関わっていなかった末端の者まで遠征の失敗の余波が来ている。
ある大商人などは魔の森の砦建設に多額の資金を提供して利権を得ようとしていたが、その遠征が失敗して計画が御破算になり残されたのは多額の負債のみ。
懇意にしていた貴族達も軒並み没落の危機になり頼みの他の商会や取引先からも見捨てられ、自身の収集していたコレクションも二足三文で買い叩かれ倒産し妻や子供にも見捨てられその商人は人知れず何処かへ旅立った。
この様にあの遠征の失敗は貴族以外にも被害が出ている。
クヴァルムはウラカでは見なかった食べ物などを買い食いしながらフラフラとうろついてると傭兵ギルドを見かけたので寄る事にした。
中で近隣の情報を得る為だ。