57話
-翌朝-
起きて部屋から出て一階の食堂へと降りて行く。
席に座ると給仕の女性がやって来て「おはようございます。何にしますか?」と注文を聞いて来たので。
「本日のおすすめと果実水をお願いします」
「畏まりました。おすすめ1!と果実水!入りました!」
厨房から「あいよぉ!」と威勢のいい返事が返って来た。
暫くすると木の盆に料理と果実水を持った給仕が来てテーブルに置いて行く「お待ちどうさまです!ごゆっくりどうぞ」
その後出された朝食を食べていると宿の外が騒がしくなった。
何事かと思い扉の方へと視線を向けるとちょうど1人の男性が入って来た。
身なりが整っております姿勢もとても良い初老の男性だ。
服装は見るからに執事って感じの燕尾服を着用している。
室内を見渡して俺と視線が合ったすると此方へと近づいて来た。
慌てて視線を逸らすも近づいて来る。
そしてすぐ近くで立ち止まり「食事の最中に大変失礼ですが、冒険者ランクCのユウマ殿でしょうか?」と声をかけて来た。
内心面倒ごとは御免だと思っているが流石に無視するのは憚られるので食事の手を止め「そうです、冒険者ランクCのユウマですがどちら様でしょうか?」とバイトで鍛えた営業スマイルをしながら答える。
(はぁ違いますと答えられたらどれだけ楽だろうか)と思いながらもちゃんと答えた。
「これは失礼しました。私ルーセント辺境伯家で執事をしております、マイセンと申します。食事の最中大変恐縮ですがルーセント辺境伯邸に来ては下さいませんでしょうか?」
ルーセント辺境伯って言ったら確かこのウラカと周辺の街の領主だったよな?ここで断ったら角が立つだろうな、はぁ行くしかないか。
「わかりました」
「ありがとうございます」
そう言いマイセンさんは深々とお辞儀をした。
マイセンさんに着いて行き宿の外に出るとそこには立派な馬車が待機していた。
馬車は派手すぎずとても優雅な感じで馬車の側面には家紋が彫られていた。
中心は赤い薔薇でその周りを4本の剣が薔薇の上下左右に置かれている。
馬も体格も良く立派な毛並みでとても迫力が合ったしかも四頭引きの馬車だ。
マイセンさんに促されるままに馬車に乗り込んだ。
中もとても綺麗で座席はとてもフカフカで座り心地も良かった。
マイセンさんが御者に何やら言うと走り出した。
マイセンは御者の隣に座ったので馬車の中は俺だけだ。
そのまま何もするでもなく窓の外の風景を眺めた。
暫くすると内壁の門の前に辿り着いたがマイセンさんが少し門番と話しただけで検査もなく素通り出来た。
流石貴族家の者だなぁ〜と呑気にそんな事を考えてると唐突にある1つの可能性に思い至った。
そういえば鎧甲冑返すの忘れてた‼︎
今の今まですっかり頭の中から抜け落ちていた。
まさか俺犯罪者になるの?
でも確か騎士団長には許可は貰ってたしラインバック騎士団長も無事に帰還した筈だけどもしかして報告漏れとかなのか?
だがそれにしては来るのが執事ってのがおかしいような?普通こう言う時は衛兵が来るんじゃないのか?よくは知らないけどそうじゃないって事は取り敢えず違う要件なのかな?
まあ、着いたらわかるか!
なるようにしかならないか
立派な邸宅群を眺めながら軽く現実逃避をしていた。
そうこうしてるうちに辺境伯の邸宅が見えて来た。
あれって邸宅ってよりも"城"!って感じだな。
周りは堀が掘られてるし高さ7.8m程の壁もあるしなぁ
しかも門の中には跳ね橋を降ろさないと入れない様になってるからな。
その後馬車から降ろされてマイセンさんに案内された。
案内されてる最中に貴族の邸宅ってどこもこんな感じなのか聞いて見ると。
「いえ、全ての貴族の皆様がこんなお城に住んでいる訳では御座いません。これ程の物をお持ちなのは他に公侯爵様方や同じ位の辺境伯様ぐらいで御座います。
その中でもこの城は上位にお入りになります。
その理由と言いますのもこの城の健立の所以に御座いまして元々この辺りは今現在も存在します、魔の森の一部で御座いましてルーセント辺境伯様の御先祖様が切り開いた土地を王家より拝領した次第で御座います。
再び魔の森に覆われぬように砦を建て城壁を作りそれが次第に改築に増築を重ねまして今現在の大きさにまでなった次第で御座います。
そして今回引き起こされた遠征は当家の祖先に出来てダメール伯爵家に出来ぬ事では無いと仰られたエラキス将軍の発言とそれを後押ししました、貴族派に属する方達によって起きた事で御座います。
そして当家はそれに巻き込まれて騎士を派遣する事になった次第で御座います」
「そうなんですか、わざわざご説明ありがとうございます」
「いえいえ、この程度構いません。間も無く旦那様がお待ちの応接室に御到着致します」
暫くするとマイセンさんに案内されて1つの扉の前に辿り着いた。
マイセンさんがノックして俺の到着を知らせると中から「入れ」と声がしてマイセンさんが扉を開け俺を中へ促す。
覚悟を決めて室内へと足を踏み入れた。