25話〜パルシナ伯爵令嬢〜
カタリーナの後に続きカタリーナが宿泊している部屋に上がる。
部屋に入りカタリーナがソファに座りその後ろには騎士2人が立ち此方を見つめる。
カタリーナに促されてユウマは一礼してから対面の席に座る
騎士2人は油断なくユウマの一挙手一投足を観察して何かしようものなら即座に対応できる様に身構えている。
まあユウマ自身はカタリーナに危害を加える気はさらさらないが相手の立場になって考えると自らの主人が招いた客とは言え本名は名乗らず素顔を晒さず仮面で隠した様な得体の知れない人物が自らの主人の目の前にいるとそりゃあ警戒もするだろうなとは思うが中年騎士のたしかリッツと呼ばれた騎士の眼光が可笑しな真似をしたら即座に斬ると物語っているので例え危害を加えようとした人物ならそれに竦み上がって何も出来ないだろう。
ユウマが対面のソファに腰掛けたのを見たカタリーナが近くに置いてあるハンドベルを鳴らして侍女を呼ぶとワゴンにお茶菓子と紅茶を乗せた侍女が部屋に入ってきた。
そしてテキパキと丁寧にそれでいて素早くテーブルにセッティングしていく。
「紅茶は様々な種類をご用意してますので何が宜しいでしょう」
侍女の問いにユウマは少し考えたがそれほど自分が紅茶に詳しくない事を思いましこだわりもなく特に無いため「お任せでお願いします」
ユウマの問いに侍女は「畏まりました」と言いテキパキと作業をし始めた
その後カタリーナとユウマの前に紅茶をセッティングし終えた侍女はワゴンを下げ部屋の片隅に待機して自らの主人の要望にいつでも答えられる様に姿勢正しく待機した。
「ではアサイ殿まずはお茶にしようか」
ふ〜ん得体の知れない冒険者に敬称付きで呼ぶか中々懐が広いのかそれとも何か狙いがあるのか?
わからないな考えても仕方がないかなる様になれだ。
「ええ、わかりました」
カタリーナは優雅な仕草でティーカップを手に持ち口にも運ぶ
形の良い唇で柔らかく弾力がありそうで目を惹きつける。
いかんいかん相手は貴族だ下手な事をすると無礼打ちにされるそれにリッツさんの目線が怖いしな
ユウマも淹れてくれた紅茶を飲む
仄かにほろ苦くそれでいて深い味わいがあり心を落ち着かせる様な味だ思わず口から「美味しい」と漏れそれを聞いたカタリーナは形の良い顔を笑顔にして「そうか、貴殿の口にあった様でなによりだ」
「どうだもう一杯?」
「ええ、頂きます」
カタリーナが目で侍女に合図し侍女が新たに紅茶をカップに注いで貰う。
暫くお茶を楽しんだ後に本題に入ることにした。
「では本題に入る前に改めて挨拶しよう私の名はカタリーナ・エルゼ・フォン・パルシナである。パルシナ伯爵家第一息女である」
やはり貴族かそれも伯爵家思ってたより高位の貴族か下手な事をするとこの国では過ごしにくくなりそうだな。
まあ役職にもよるだろうけどな。
「私は冒険者で御座います。アサイとお呼び下さいませ」
丁寧にお辞儀する。
「わかったアサイ殿私の事もカタリーナと呼んでよいぞ」
悪戯っぽくそう問いかけた。
「ご冗談を恐れ多く御座いますのでパルシナ様とお呼び致します」
「なんだ?つまらんのまあよいか」
「そう言えばお主の他のメンバーはどうしたのだ?」
「彼らには消耗した消費品などの補充に行って貰ってますこの場に居らず申し訳有りません」
ユウマはカタリーナに頭を下げた。
「構わんよ」
カタリーナは寛容に頷いた。
だがその目に一瞬疑いの眼差しがあった事をユウマは見逃さなかった。
やはり怪しんでるかなまあ惚けるしかないけどな
その後カタリーナからあの状況の一連の流れを聞いたウラカに向かう街道を通っているとき突如オーガの群れに襲われ街道から外れ逃げてあの森まで逃げたが途中で木の根に乗り上げて馬車が横転してしまい立ち往生しているとオーガ共に追いつかれそこで戦闘になり劣勢に立たされたカタリーナ達の元に助太刀に現れたのがユウマであった。
「これはその時の礼だ受け取られろ」
「ベレン」
呼ばれたのは騎士2人の内の若い方でその手に持った袋をユウマに手渡した。
ユウマは袋の中身に興味はあったが流石にこの場で中を確認するのは躊躇われたのですぐ様に懐にしまった。
「何だ?中身に確認しないのか構わんぞ?」
「いえいえこの様に一冒険者に貴方様からお礼を携える事自体が過分にして見に余る光栄な事柄ですのでお気になさらずに」
「その様なものかまあよいか」
疑問に思った様だが納得してくれた様だ。
「あとはこれを渡そう我がパルシナ領に来られた際にこれを門番に見せると通行税が免除されるだろう」
「この様な物までありがとうございます」
「まあ、命の恩人にはこの程度では少ないと思うのだがな」
「滅相も御座いませぬありがとうございます」
「では私はこれで本日はお招き頂きまして恐悦至極で御座いますありがとう御座いました。では御前失礼致します」
一礼して席を立ち扉に向かい取手にとをかけようとしたその時制止の声が後ろから聞こえ回れ右した。
「まあ、待ってくれアサイ殿」
振り返り笑顔を顔に貼り付け「はい、何でございましょうか?」
「実はな貴殿も知っての通り先の襲撃で沢山の犠牲が出てしまったので護衛が心許ないそれで良ければアサイ殿を護衛に雇わせて貰いたいのだ勿論報酬も出すどうだろう?」
「私の事をそこまで評価して頂きまして見に余る光栄では御座いますが何分自分はまだまだ未熟なのでとても貴方様を守りきれる自信が御座いませぬそれに私はまだこの地でやり残したことも御座いますれば大変に申し訳ないのですがその依頼は断らせて貰います」
深々とカタリーナに頭をさげる
カタリーナの騎士のリッツは一歩前に進み出て
「貴様お嬢様の誘いを断ると申すか?」
「構わんリッツ」
「しかしお嬢様」
なおも言い募ろうとしたリッツにカタリーナは鋭い視線をリッツに向けもう一度「構わんと言っているそれとも私の命は聞けぬか?」
その言葉にリッツは顔を青ざめさせ「そんな事は御座いませぬ出過ぎた事を致しました。申し訳御座いませぬ」
「わかればよい下がれ」
「はっ!」
「リッツがすまなかったなアサイ殿」
「いえ、リッツ様の行動はパルシナ様を思えばこそと存じますれば私に物申すのは当然かと思いますので気にしてはおりません」
「そうかわかった。引き留めて悪かったな」
「いえ、滅相も御座いませぬでは失礼致します」
ユウマは足早にその場を後にした。
「どう思うお主達は」
「あんな得体の知れないものの何処が気に入りましたかお嬢様?」
「そうか?リッツ面白そうだと思ったが」
「ベレンはどう思う?」
「そうですね、肝は座っているかと何せリッツ殿の眼光を受けて平然としてましたしね」
「そうかセシリアはどう思った?」
セシリアと呼ばれた侍女は実は唯の侍女ではなく腕利きの護衛でありカタリーナの相談なども受け持つ友人でもある
「そうですね、何か隠しているのは事実でしょうでもカタリーナ様に危害を加えるつもりはさらさらない様に思えましたしあの場に現れたのも唯の偶然でしょう」
「それにしてもあの様な物まで渡してもよろしかったので?」
「ああ、あれか構わぬよ奴には何かあると思ったし存外大物かも知れぬしここで知己になったのは重畳と言えるだろうさ」
「そうでございますか」
「ああ、そうだとも」
カタリーナは、心底楽しそうな顔をし紅茶を飲み干した。