131話〜ディアナとナディアの過去3〜
帝都からの返事は直ぐに来て、撤退の許可が出た。
帝国軍は速やかに森から撤退して、最初の野営地まで引き返した。
これによりエルフ側の士気は向上し、追撃戦が激しさを増したが、そこは歴戦の将軍であるクトゥルー将軍は、巧みな用兵で被害を最小限にまで抑えて見事に撤退を完了させた。
撤退したとは言えど、それは最初の場所に戻っただけであるのでエルフ側も油断せずに監視を行う。
この時間を利用して他の森などへ救援要請を送る。
暫くすると帝都からクトゥルー将軍へ使者がやって来る。
更迭だろうか?と覚悟を決めた将軍であったが、使者の用向きは更迭では無かった。
「クトゥルー将軍。皇帝陛下よりの御言葉を伝える」
「はっ!」
皇帝の代理人である使者にクトゥルー将軍以下、討伐軍の主だった面々は跪く。
「では伝える。『この度の失態に余は酷く落胆しておる。貴重な物資を穢らわしい獣共に燃やされ大事な将兵も多数失った。しかしこの度の失態の大部分はダメル将軍の責任ではあるが、副将であるクトゥルー将軍にもある。よって新たに討伐軍の総大将に相応しい人材を送る事とする。クトゥルー将軍についてはその者に処分を一任したので、その者の言葉は余の言葉と思い処罰を受けるべし』以上となります」
「はっ!皇帝陛下には了承したとお伝え下さいませ」
それから数日後3千もの軍勢が現れた。
「ううむ。何と整然と進む軍勢だ。同じ帝国軍とは思えんな」
クトゥルー将軍の言葉に周りの幕僚達は苦笑いする。
「此方は寄せ集めですからね。上級貴族が自分の子弟に功績を積ませる為のものでしたから」
「それにしても何と情け無いことか。さて、嘆いて居ても仕方がない。出迎えに行くとするか」
クトゥルー将軍達主立った者達は出迎えに行く。
そこにはまさかの人物がいた。
先頭の人物は至高の存在である皇帝陛下の血を授かりし、第二皇女であるエレオノーラ・ルーラ・ラーバントであった。
又の名を戦姫エレオノーラである。
彼女は皇族随一の戦上手であり、自らの力のみで栄誉ある軍団長の地位に就いた人物である。
「これは皇女殿下」
クトゥルー将軍がそう声を掛けると、叱責が飛んで来た。
「馬鹿者が!今の私の立場は帝国軍第六軍団、軍団長エレオノーラである!」
「ははぁ!申し訳御座いません。エレオノーラ将軍閣下」
「まあ、よい。それでお主がクトゥルー将軍か?」
「は!私めがクトゥルーで御座います」
「うむ、お主の事は聞いた。今回の件は確かにダメル将軍に責があるにせよ。お前は副将であったからな。全くのお咎め無しとは行かんだろう。よし!先鋒に任命する。自らの手で汚名を注げ」
「ご寛恕頂き誠に有り難く。確とその任全うして見せまする」
「うむ、さて少し休憩してからまた話し合おう」
「これは気付かず申し訳ありません。すぐに天幕にご案内致します」
そうして彼らを案内しながらクトゥルーは、エレオノーラの周りの側近達を見て肝を冷やす。
一人一人が一騎当千、万夫不当の勇士である事が一目瞭然であったからだ。
それが一人や二人なら、皇女殿下の側近であるから当たり前だと思えたが、その様な気配が10名いる全てから感じられた。
更にただの一兵卒に至るまで、その練度はとても高く普通に部隊長だと紹介されても納得出来る者達ばかりであった。
エレオノーラが席に座ると侍従の一人が直ぐに紅茶を出す。
それを優雅にエレオノーラは飲む。
「それではクトゥルー将軍。ある程度報告書で状況は理解しているつもりだが、やはり現場の者の実体験に優るものはない。率直な意見を求める。勝てるか?」
「はい。勝てると断言出来ます。不安要素であったダメル将軍が更迭された今、負ける要素が見当たりません」
「そうか、では明日は期待しておくとしよう」
「はっ!ありがとうございます」
「さて、そろそろ軍議を開くか」
「はっ!既に用意しております。他の将官を呼んで参ります」
「うむ」
天幕から移動して軍議を始める。
何か特別な作戦でもあるのかと、クトゥルーは思ったが奇策もなく堅実な作戦であった。
「意外かな?クトゥルー将軍」
「いえ、確かにこちらは圧倒的に有利ですので、変に奇策などを用意ない方が良いでしょう。流石エレオノーラ将軍閣下ですな」
「ふん、世辞は良い。それで明日は一番辛い先鋒を先の通り任せるぞ」
「はっ!お任せあれ」
「うむ、作戦は明日の早朝に開始する。兵士を十分に休ませておけ」
「宜しいのですか?将軍閣下達は遠い道のりを行軍して、今日到着したばかりですが?」
「大丈夫だ。我が軍にそんな軟弱な者は居らん」と自信満々に告げる。
「これは要らぬ事を聞きました」
「よい、忠言を忌避する事などない。クトゥルー将軍よ」
「はっ!」
この時クトゥルー将軍はエレオノーラに心服したと言われている。
「よし!では解散!」
エレオノーラの言葉に将達は解散する。
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