126話〜森林エリア02〜
合図を送ると始めに動いたのはリムだ。
一気にバーサークベアに近付くと、短剣でバーサークベアの左腕の脇の腱を切り裂く。
分厚い毛皮と脂肪に覆われた天然の鎧だが、卓越したリムの技量と短剣の切れ味により、難無く切り裂いて見せた。
突然のリムの襲撃にバーサークベアは全く反応が出来ず、更に激痛が襲い混乱する。
「グォオオ!!」
残った片方の腕で、リムをその豪腕で潰そうとするがそれよりも早く、リムはバーサークベアの間合いから抜け出す。
目が血走りバーサークモードに突入しそうになる、バーサークベアに今度はガンジョーがその巨大な戦斧を叩き付ける。
背中を切りつけられたバーサークベアは怒りの咆哮を上げて上を向く。
瞬時に懐に入り込んだユウマは、何の変哲もない長剣でその喉を切り裂く。
すると噴水の様に首から血を吹き出して、バーサークベアは倒れ込みそうになるが、バーサークモードになったバーサークベアは、そこから痛みを無視して目の前にいるユウマに襲い掛かった。
バックステップで素早く離脱したが、バーサークベアは木を破壊しながらその命を燃やしてこちらに襲撃をしてくる。
「凄い執念だな。いや、理性が無く本能で動いてるだけか」
このまま逃げ回っていれば、いずれは出血死で死ぬだろうが、それだと何だか申し訳ない気分になり、ユウマは逃げるのをやめて立ち向かう。
バーサークベアは現在左腕が使えず片手である。
その為左側が弱点になっているが、ユウマは敢えてそちらからは攻めずに右側から攻める。
バーサークモードになり通常よりも凶暴になった、バーサークベアの豪腕から繰り出される薙ぎ払い攻撃をユウマは最小限の動きで回避して、斬り付ける。
だが、バーサークベアは傷を気にせずに愚直に攻撃を繰り返して来る。
右へ左へ攻撃を交わしながら、一歩ずつ間合いを詰めて行き、バーサークベアが大きく腕を振り上げた瞬間、一気に懐に入り込み心臓に剣を突き刺す。
流石のバーサークベアもこれで終わりかと思ったら、目をクワッと開いて最後の足掻きとばかりに噛み付いて来た。
だが、ガンジョーが噛み付き攻撃をその戦斧で防ぐ。
「ふぅ、助かったよ。ガンジョー」と礼を言う。
「……いえ」と控えめに答える。
リムもいつでも動ける様にしていたが、今回はガンジョーの方が近かったので任せたのだろう。
一応もしもの事も考えて投げナイフを構えてはいた。
「見事な連携だったよ。最後は少しばかり危なそうだったけどね」
一応力をセーブしてやったが、どうやら気付かれた様子は無い。
普段よりも力を抑えるのは意外と神経を使い、疲労が溜まる。
最後のバーサークベアの攻撃もユウマは自分で対処出来たが、その場合は常人離れした動きを見せる必要があったので、ガンジョーの助太刀に文字通り助けられた形である。
だが、油断したのも確かである。それは反省して次回に活かせる様に精進しなければならないだろう。
「いえ、まだまだですよ。少しの油断が命取りになると、今しがた痛感したところです。この階層を攻略したら、一旦地上に戻り少し鍛錬を積みたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「そうだね。みんなはどうだい?」
「問題ないなの」
「問題ないよ」
「そうですね。最近休んでいませんから、休息日を設けるのも良いと思いますよ。最近忙しくて服屋に行けてませんから、行きたいですしね。それに新しく甘味を提供する店が出来たらしいですよ?皆さんで行きませんか?」
「賛成なの。甘味は大事なの。体の疲れを癒すと同時に心も癒してくれるなの。ビルナ休むの」
「私も賛成かな」
「わかったよ。よし、じゃあこの階層をチャチャっと攻略して上に戻るよ」
そこからの麗しの薔薇の4人は凄まじく、特にミリナはサーチアンドデストロイで、出会う魔物に一撃必殺の魔法を放ち快進撃を続けた。
これが、甘味の力か。とユウマは改めて甘味に対する女性の姿勢に末恐ろしさを感じた。
心なしかリムも動きが素早くなった気がする。
しょうがない。リムにも休みを与えてやるべきだな。
手早く森林エリアをクリアして、転移結晶で地上へと戻る。
そして冒険者ギルドで仕留めた魔物の素材を素早く換金する。
「よし!次は3日後に潜るよ。それまでは各自ゆっくりと英気を養ってくれ。ただし、羽目を外し過ぎない様にね。じゃあね」
ビルナ達麗しの薔薇の面々と別れて宿に戻った。




