116話〜新たな都市〜
短くてすいません。
バトランタを旅立ってから数日、野営をしながら一路迷宮都市アザゼルを目指してユウマ達は進んで居た。
道中魔物や盗賊を退治しながら、進むと漸く迷宮都市アザゼルが見えて来た。
まだ距離が離れているにも関わらず、アザゼルを覆う重厚な壁の威圧感が凄い。
王都を覆う城壁よりも分厚く頑丈に見える。
それもそのはずで、迷宮都市とはその名の通り迷宮が存在する都市である。
他の都市と違うのは街を覆う防壁は外の脅威ではなく、中に存在する迷宮に備えた物だと言えるだろう。
迷宮の出入り口には丈夫な壁が建てられ、いつも警備の者が迷宮を見張っており、大弩は常に迷宮に向けられている。
何故そんな危険な迷宮の近くに街が建ったのか?その理由は簡単である。
儲かるからに他ならない。
外の魔物と違い迷宮の魔物にはある程度のパターンがあり、滅多な事では迷宮外に出て来ず、迷宮にもよるが迷宮一つで三つぐらいの都市の経営を支えるぐらいの収支を得られる。
なので迷宮が無い国は、迷宮を求めて隣国に戦争を仕掛けるのも無い話ではない。
それ程までに迷宮は魅力的なものである。例え多少のデメリットがあれど、得られるメリットの方が大きく有益な為に人々は迷宮に魅せられ続けているのである。
そしてそんな命知らずな冒険者の一人として、ユウマは迷宮都市に訪れたのである。
ユウマの目的は迷宮での自己鍛錬と、迷宮で得られる迷宮産の魔法アイテムなどである。
現代の技術では再現不可能な物も、時折発見されるので迷宮に挑む者は後を絶たないのである。
「漸く着いたな」
「やっとっスね」
「…………」
「ちょっとガンジョーっち、もうちっと喜びを露わにしてはどうっスか?」
それにしてもリムは三下っぽい口調だし、ガンジョーは無口である。
何だが幸先が不安になるメンバーだな。
いや、彼ら戦闘型魔導人形は優秀な筈だ。
現にアールとリーゼはとても優秀である。
なので二人も優秀だと思う。
それに三下口調は懐かしい友の一人である『緑の風』の事を思い出す。
「二人とも行くぞ」
「了解っす」
「…………」
二人を引き連れて防壁前の入場の列に並ぶ。
迷宮都市は人の出入りが激しい都市なので、その分必然的に人の数は多くなり、長蛇の列も珍しくはない光景である。
30分ほど待ち漸くユウマたちの番になった。
検査はそれほど厳しくなく、スムーズに終わり迷宮都市アザゼルの中へと入れた。
「大きいな……」
「そうっスね。人も多くて人酔いしそうっスね」
「……多い………」
予想以上の人の多さに、ガンジョーも言葉を漏らす。
「さて、先ずは宿を探さないとな。こんなに大勢の人がいて、空いているかな?」
「そうっスね。探しましょう!」
リムも賛成し、ガンジョーも頷く。
暫く探し回って漸く一軒の宿を確保出来た。
「流石は迷宮都市の中でも上位に位置するアザゼルだな。こんなにも人が多いとは思わなかった」と呟くと、それを聞いた店主が「ん?あんちゃんは此処は初めてか?」
「ええ、そうです」
「そうなんかぁ。なら良いタイミングで来たな。普段は此処まで人は多くはないんだけどな。今日は1年に一度の遠征軍が迷宮都市に挑戦するだよ。だからいつもよりも人が多いし、軍関係者も多いんだよ」
「えっと、何故1年に一度態々遠征軍が?」
「ん?あんちゃんこの国の出身じゃねえのか?」
「ええ、別のところから来ました」
まあ、嘘は言ってないな。
「そっか。なら知らなくても無理はねぇな」
うんうん、と店主は腕組みして納得していた。
「なら、理由を教えてやるよ。今から約百年近くも前にな。当時のこの国は凶作が襲ってな。あちこちで飢餓が発生して居たが、他国から食料を輸入しようにも元手となる資金が、圧倒的に足りなかったんだ。そこで当時の王太子はこのアザゼルの迷宮に目をつけたんだ。当時は迷宮はただ単に危険な場所でしかなかったんだが、迷宮の奥には金銀財宝が眠っているって、噂だけは流れて居たんだ。王太子はまさに藁にもすがる思いで、遠征軍を自ら組織して迷宮に挑戦したんだ。
そして多数の犠牲を出しながらも生還した遠征軍は、金銀財宝を見事に獲得したって訳だ。それで近隣の国から食料を輸入して飢餓を乗り切ったのさ。
それから毎年規模は違うが、遠征軍が一年に一回こうして挑戦する事になったんだよ」
と店主は教えてくれた。
「なるほど、そしてそれが今日だと」
「ああ、そう言う事だ。普段はもう少し人は少なねぇよ」
その後軽く話してから、店主から部屋の鍵を受け取り、部屋に向かう。




