113話〜呪術師〜
短めです。
クヴァルムは鼠一匹逃がさない構えで、山頂部を包囲して徐々に狭めつつ山頂に到着した。
山頂には最後の部族がおり、おおよそ6,000〜8,000人程の姿が見られる。
沢山の天幕が建てられており、一際目立つ大きな天幕から、山羊の頭を被った男と思われる者が出て来た。
何かしらの動物の毛皮を纏い、手には捻れた古い木の枝を持っており、その先端には魔物の魔石が取り付けてある。首には肉食動物の牙を紐で括りネックレスにして居る。
ハッキリ言って奇妙な出で立ちである。
多分アレが呪術師とか言う奴だろう。
「あれが呪術師か?念の為に聞いてくれる」
「畏まりました」
アールに確認に行かせる。
程なくして戻って来たアールによると、アレが呪術師で間違いないそうだ。
「多分呪術と言うからには、呪いの一種なのだろうな。防御系の魔法を皆に掛けておけ、近付かずに遠距離から仕留めるぞ。まあ、その前に降伏勧告をしに同族の者を一人向かわせろ」
「はっ!了解しました!」
兵士の一人が敬礼して、山頂部の部族の者達の方へと駆け出していく。
暫くすると、一人の壮年の男が出て来て、呪術師達の方へと向かって行く。
これで降伏してくれたら楽なのだが、簡単に降伏する様には見えないので、一戦交える必要があるだろう。
案の定降伏勧告を行った蛮族の男に、呪術師の男?(多分背格好からして男だと思う)が、杖を向けると空から雷が落ちて来て蛮族の男に命中する。
「あれは魔法か?」
「多分そうですが、あれは我々が使っているのとは系統が異なるものだと思います。ですので呪術と言うのも強ち間違いではない様に見受けられますね」
「なるほどな。それにしても威力は申し分無いな。一から作り出したのではなく、自然の中にあるものを利用しているからコストパフォーマンスも良さそうだ。難点は天候に左右される事だな。だが、十分に実戦でも使える代物だな。まだ、他に何が出来るかわからないが見る限り他の者達は戦う意思が無さそうだ。呪術師さえ仕留めればこの討伐戦も一区切りが付くだろう」
「おっしゃる通りですね」
さて……数に物を言わせて倒すのは容易だが、そうすると素直に蛮族が従うとは思えないな。
仕方がない。一騎討ちで仕留めるとするか。
乗っている馬から降りて、アイテムボックスから魔法剣を取り出す。
「そう言えば初めて使うな。あまり遺跡の遺産は使っていないからな。これからは自重せずにどんどん使って行くべきか?」
そう独り言ちて、クヴァルムは前へと進む。
クヴァルムの前にいた兵士やゴーレム兵は道を開ける。
呪術師の10メートル手前まで進みクヴァルムはそこで止まる。
「私が相手だ。他の者は誰も手出しをするな!アール!」
「はっ!お任せ下さい!」
アールは呪文を唱えて呪術師とクヴァルムを光の膜で覆う。(この間呪術師は手を出さずに大人しく呪文の完成を待っていた)これで邪魔は出来ない。
「待たせたな。では始めるとしようか」
そう問いかけると呪術師は杖をこちらに向ける。
すると空から幾千もの雷が雨の様に降り注ぐ。
多分大人しくただ黙って待っていたのではなく、周囲の雷雲を呼び集めていたのであろう。
クヴァルムの乗る馬は一見すると、ただの馬の様に見えるがそれは擬態である。
古代魔法文明の遺産とクヴァルムの現代知識を合わせて作った、史上最高の馬型ゴーレムである。
見事や手綱捌きで(実際は念じる事によって自由自在に動かしている)幾千もの雷を避けつつ、クヴァルムは背中に背負ったクロスボウを構えて放つ。
クロスボウは射程は短いが従来の弓よりも威力がある。
呪術師はまさか幾千もの雷を避けながら、こちらに攻撃してくるとは思っておらず、避けるのが遅れて肩に矢を受ける。
だが、それでも呪術師は集中力を切らす事無く、その後も雷を降らせ続ける。
凄まじい轟音が響き渡り続け、バトランタ兵や蛮族達はずっと両手で耳を塞いでいる。
更に雷の眩さで殆どの者達が目も塞いである有様である。
永劫に続くかと思われた雷の雨も次第に勢いを弱めて行き、数分後には止まってしまった。
地面は抉れ、近くの木は燃え盛り雷が落ちた後は、まるで地獄の形相の様であった。
だが、そこには確かにクヴァルムは健在で所々擦り傷はあるがほぼ無傷であった。
だがクヴァルムが乗っていたゴーレム馬は見事に破壊されていた。
一方の呪術師は息も絶え絶えの様子で、肩で息をしており今にも酸欠で倒れそうである。
それに時々クヴァルムの放った矢が刺さり、そこから血を流して体力を奪っていた。
雷が止まったのは魔力が枯渇間際かもしくは枯渇したのであろう。
クヴァルムが呪術師に手をかざすと、ビクッと痙攣した後、呪術師は杖を投げ捨て平伏した。
弱って抵抗が弱くなったのでクヴァルムの使役に抵抗出来なかったのであろう。
クヴァルムが腰から抜いた剣を天高く掲げると「「「ウォォォオオオ!!!」」」とバトランタ兵や蛮族が拳を天高く突き上げ、クヴァルムを称える。
傍目から見るとクヴァルムの完勝の様に見えるが、実の所危ないところであった。
クヴァルム自身も異世界人の特性ゆえか豊富な魔力量を誇っているが、それも今は枯渇寸前まで減っていた。
もちろん魔力回復率も高いので、安静にしていればすぐに問題ない程度に回復するだろうが、それでもやはり強敵であった。
使役を使い体に直撃コースの雷を逸らしていたのだが、思ったよりも大変で数も多く何回か掠ってしまったのだ。その度に回復魔法を使用して治した。
それに雷を避けながらクロスボウを放つのも苦労した。
放った矢が雷に撃たれて燃え尽きたのも何本もある。
それに呪術師は時折鎌鼬みたいな、風の刃を放って来たのである。
なので上からの攻撃と前からの攻撃の両方を警戒しなければならなかったので、精神的にもだいぶ疲れた。
だが、これで漸く一区切りがついた。
まだ戦後処理などの諸々は残っているが、直近の大きな問題が一つ取り除かれた。
さてもうひと頑張りと行きたいところだが、これ以上は流石に体力と精神的に無理そうなので後のことはアールに任せて休もう。
「アール。後のことは任せた。私は暫く休む事にする」
「はっ!お疲れ様でした主様!後のことは私に任せてゆっくりとお休み下さいませ」
「委細任せる」
そう言ってクヴァルムは近くに天幕を建てさせて、そこで暫く横になる。




