109話〜バトランタへの帰郷
残念ながら、勇者一行とは話す事は出来なかった。
あの後勇者一行は2泊したのち帰国して、残った外交官達と今現在交渉にあたっている。との事だ。
まあ鼠を一人紛れ込ませる事に成功しただけでも良しとするか。
あまり欲張ればいい事は無いだろう。
クヴァルムは護衛騎士団兼領主でもあるので、そろそろ領地の方に戻っても良いか?と打診すると許可が下りた。
暫くはイベントもないので、暇になるそうだ。
もうそろそろ夏も終わり秋の季節になる。
一応定期的に、アールから念話で報告は受けてはいるが、やはり実際にこの目でも確認しておきたい。
それに領地の報告書を主人であるシャルロットに渡すと「少し待つのじゃ」と言って何処かへ消えたかと思うと「付いてくるのじゃ」と有無を言わさず連れられたのは、謁見の間であった。
そこにはこの国オルトメルガの国王であるガイセルが居た。
素早く片膝をつき頭を下げる。
「この報告書によれば、主は僅かな期間で見事に領地を発展させた様じゃな。誠に大義である。この功績を持って騎士ドゥーエに男爵位を授ける。これからも励むが良い」
感謝を述べて、お決まりの向上を口にする。
ガイセル王から新たなマントと剣を授かる。
元々ガイセル王は領地をある程度発展させると、陞爵させる予定で居た。
領地面積に対して爵位が低い為である。
なので手続きは用意されていたので、他の大貴族が反対する前にすぐに執り行われた。
こうして晴れてクヴァルムは男爵となった。
■
久しぶりにリーゼと合流して、ゴーレム兵を率いて領地への帰路に着く。
途中何事も無く大過なく領地まで戻って来れた。
帰る途上領地の紋章をまだ、決めて居なかったので登録する為に早めに申し出るように、紋章官に言われたので決めないと行けないな。と考えながら進んだ。
道はちゃんと整備されており、幅も広く多くの人々で行き交って居た。
特に商人が多くちゃんと交易が成り立って居るようで安心する。
それにしてもやっと、自分の居場所に帰って来た様な安心感があるな。
街道には時折巡回のゴーレム兵の姿を見かける。
まあ、大半の人間は鎧の中身がゴーレムだとは思っていないだろうな。
最近使役の能力が上がったので、よりゴーレム兵の動きが滑らかになり人と遜色無い動きが出来る。
領内にはクヴァルムが出て行った時よりも多くの領民が住んでいた。
クヴァルムの領地と大河を接して存在する伯爵領内から逃げ込んで来るらしい。
隣の伯爵は典型的な貴族であり、領民に重税を掛けているらしく、その暮らしに耐えられなくなった人々が逃げて来ているらしい。
だが、その途中で捕まったり大河で溺れ死んだりする者達も居るらしい。
伯爵から抗議の手紙も届くらしいが、全て受け流している。
大河近くに港町の建設は上手くいき、その港から夜中に小舟を出して避難民を匿っている。
明確な証拠は無く、ただ単にこちらの領地に向かって逃げて来ているだけなので、伯爵も強く出られない。
まあ、公になると面子が潰れるのは伯爵なので、領内の巡回の回数を増やしたりして対策しているらしいが、一向に逃亡する民の数は減らないらしい。
此方も避難民の受け入れにはデメリットもあるが、今の所メリットが上回っている。
だが、これ以上伯爵領から人手が減るのも問題である。
伯爵領も帝国領と接しているので、あまり多くの民が居なくなると攻め込まれる恐れがある。
それは困る所だ。
まだ領内の開発計画は半ばであるし、何よりもこれからの基礎能力などの向上計画に支障が出る。
勇者一行を助けるにはもっと強くならなければ行けないのである。
「そろそろ着きますね」
リーゼが懐かしそうに領内を見ながら言う。
「そうだな。やる事がまだまだあるから頑張らないとな」
暫く他愛ない話をしながら、馬を進めて行くと漸くバトランタの中心部にして、クヴァルムの居住たるイデアルの街並みが見えて来た。
一月以上もの間留守にした間に、イデアルを旅立った時よりも数倍も大きくなっており、人々の数も多くなって居る。
イデアルから離れた小高い丘の上には、周辺を監視する監視塔がいつのまにか建てられており、街の周辺に異常が無いか確認している。
更にこの世界では無い様なトーチカや塹壕も掘られて居る。
この世界で城壁と言えば石を積み上げた物が殆どであるが、イデアルを守る外壁には古代コンクリートが使用されており、更にその上に鋼鉄の板があり更に強度が上がって居る。
それにちゃんと区画整理もして居るので、街は綺麗に大きくなって居る。
大きな岩や切株も、巨大なウッドゴーレムの手により退けられている。
クヴァルムはイデアルを抜けてメディウム湖に佇む、クレアシオン城に向かう。
道中は住民から熱烈な歓迎を受ける。
今年は税は取らずに田畑を持っていない者達にも開墾しなければならないが、自身の手で開墾した土地を与えている。
その為に重税に耐えられなくて、逃げ出した逃亡民や戦争や紛争により自身の土地を失った者達が、数多くバトランタに向かって流れて来る。
仕事も選びさえしなければ、沢山あり食うに困る事もない。
今バトランタは好景気に見舞わられている。
漸くクレアシオン城に到着した。




