86話〜正体を明かす〜
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「ぬぅ。仕留め切られなかったか。それに大規模魔法氷結世界も敵騎馬部隊が突撃して来たので避難させた為に発動出来なかったな」
ガリバルス将軍は悔しそうに言う。
「ええ、そうですね。しかしこちらも手痛い損害を出しましたが、多数の敵を葬る事は出来ました。誤算は敵の精鋭騎馬部隊が思ったよりも精強でこの本陣まで迫って来た事でしょうね」
「ああ、思い出しました。確か敵騎馬部隊の隊長は騎士バロッゼだったと思います」
「バロッゼか。彼奴はいい騎士に育ったな。昔は弱虫だったのに」
ガリバルスが感慨深そうに言う。
「将軍それは何年前のことですか……」と呆れ気味に参謀の一人が言う。
「お主私を年寄り扱いはよせ」
憤慨したようにガリバルス将軍は言う。
パン!パン!
「皆さんそれよりも明日の作戦や今回の被害を纏めましょう」とガリバルス将軍の幕僚の一人が意見すると皆頷き、先程までの緩やかな空気から一変して真剣そのものの顔をになり軍議を進める。
入って来る被害状況に頭を悩ませながら話を進めて行く。
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首脳陣以外は休むように命じられたのでその場で解散していく。
クヴァルムは遊撃隊の全体の司令官ではなく、その中の一部隊長に過ぎないので集まりには呼ばれなかった。
カロラーナは嫌々会議に呼ばれて連行されて行く。
それをロナテロは苦笑しながら見てクヴァルムに「会議の内容は後でこっそりと教えてあげるよ」
「感謝する。でも良いのか?」
「構わないよ。それに君達は傭兵だからと無茶な作戦に従事する事がないようにしとくよ。まあ、ガリバルス将軍は家柄や地位ではなくその為人を見て判断する御仁だから心配は無用だと思うけど、一部の人間は平民だと毛嫌いする人もいるからね」
「重ね重ね感謝する」
「良いって。じゃあそろそろ行かないといけないからまたね」
飄々とした態度でロナテロは会議が行われる天幕へと足早に去って行く。
クヴァルムは黒鴉傭兵団を纏めて帰路に着こうとした時一騎の騎兵がこちらに向かって来る。
馬上から降りて丁寧にやって来た騎士は一礼してから「クヴァルム殿で相違ないか?」と尋ねて来たので「ああ、自分だが何か御用か?」と応える。
「第三王女殿下シャルロット姫が貴殿をお呼びだ。すまないが、私の後に付いて来てくれたまえ」
「承知した。アール後のことは任せた。リーゼは付いて来てくれ」
「「畏まりました」」
相手が姫様と言う事もありリーゼに供回りを頼みアールには黒鴉傭兵団であるゴーレム兵達の面倒を任せる。
「では、早速で悪いが付いて来てくれ」
騎士は乗馬しそれに続いてクヴァルムとリーゼも馬に乗り付いて行く。
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暫く付いて行くと王都の高級宿に辿り着いた。
そのまま騎士に案内されるままに中へと入って行き、度々すれ違う騎士や貴族と思わしき者達に前の騎士が敬礼しながら進んで行くと最上階の部屋に案内された。
扉の前には四人の女騎士が周囲を警戒しながら控えていた。
そんな彼女らに騎士が「シャルロット姫様の御用命でクヴァルム殿を連れて来た。御目通り願う」
「畏まりました。少々お待ち下さい」と一人の女騎士が言い扉をノックして「姫様。御客人が参られました。名前はクヴァルム殿だそうですが、如何致しましょうか?」と聞くと部屋の中から凛とした女性の声が聞こえた。
「通してくれて構いません」
「畏まりました」
女騎士は一礼してからこちらに向き直り「では、どうぞ。それと念のために武器は預からせて頂きます」と言われたので腰にあるミスリル製の剣を渡す。
流石にミスリル製の剣だとは思わずに渡された女騎士は唖然とした顔をした後大事そうに両手で抱えて「確かに預かりました。責任を持って預からせて頂きます」と少し上擦った声で返事をした。
リーゼも剣を渡す。
「では、私はこれで失礼します」とここまで案内してくれた騎士が敬礼をして下がって行く。
それに礼を述べてクヴァルムとリーゼは部屋の中へと通される。
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「シャルロット王女殿下。御用命により参上
致しました」
片膝を付いて礼をする。
「御苦労なのじゃ。よく来たの。顔を上げて良いぞ」
と言われたので顔を上げると立派な椅子にちょこんと幼い少女が座って居た。
彼女こそこのオルトメルガ王国の第三王女殿下であるシャルロット・ロゼ・ブルトール・フォン・オルトメルガである。
そして彼女の横に控えた、凛とした女性はシャルロットの守護騎士であるメリア・フォン・トリニコスである。
「して、今日は如何様な御用でしょうか?勿論。御用が無くとも殿下がご所望で御座いましたら直ちに馳せ参じる次第では御座います」
「何、今日の戦いは、見事だっと言いたかったのじゃ。まるで風のように速く、大地のように力強く、火のように苛烈な攻撃じゃったぞクヴァルムよ」
シャルロットは無邪気に笑いながら褒め称えてくれる。
「ありがとう御座います」
こんな無邪気な少女を騙して居ると思うと妹の事を思い出して心が痛む。
この少女は信用できそうであるので自分の秘密を打ち明けても良いのでは、無いだろうかと考えて決意する。
そしてチラリと彼女の横にいるメリアを見る。
その視線に気付いたシャルロットが問いかける。
「ん?メリアがどうかしたのじゃ?」
「はい。シャルロット殿下不躾な質問で恐縮ですが、彼女は信頼出来ますでしょうか?」
この問いにシャルロットは嫌な顔をせずに満面の笑みで「勿論じゃ!メリアは実の姉の様に思っておる」
そう告げるとメリアは嬉しそうに口元を緩めて「ありがとう御座います。姫様」と一礼する。
「して、それがどうしたのじゃ?」
「はい。では失礼ながら消音と防音の魔法を掛けさせて頂いてよろしいでしょうか?」と言うとメリアが難色を示す。
「それはならん。万が一にも貴殿が姫様を害する可能性がある為にその様な事はできん」
それは護衛として当然の意見だ。
もし消音と防音の魔法が発動している時にクヴァルムがシャルロットを害そうとした時にその音が聞こえず部屋の外にいる護衛達が気付く事が出来なくなる。
だが、シャルロットは「構わないのじゃ。妾はお主を信頼しておる。それに何があってもメリアが妾を守ってくれるのじゃ」
そうまで主君に言われてはメリアは渋々引き下がった。
「では、リーゼ頼んだ」
「畏まりました」
リーゼが消音と防音の魔法を唱える。
ちゃんと効いたか確かめた後にクヴァルムはシャルロットに先ず謝罪する。
「シャルロット殿下誠に申し訳御座いませんが、私は嘘を付いて居ました」
「嘘とな……それはなんじゃ」
少しシャルロットが目を細めて問いかける。
「はい。私の名前はクヴァルム・ドゥーエでは無く。浅井 悠真いえこの世界ではユウマ・アサイでしょうか」
「『この世界では』とはどう言う意味じゃ?」
「先ずその前に私のこの姿は本来の姿では御座いません」と言い魔導具の効果を止めて本来の姿黒髪黒目の青年の姿に戻った。
「ほぉそれは古の秘宝具であるのか!?」
どうやら古代文明時代の物は総じてこの時代では秘宝扱いになる様だ。
「はい。ある遺跡で偶然に発見致しまして、これの効果により姿を偽って居りました」
「そして先程の質問ですが、私はこの世界とは異なる世界からやって参りました。どの様にしてこの世界へとやって来たのかはわかりませんが、私は元の世界への帰還方法を探してこの王都へと訪れました。そして貴女様に出会い後ろ盾になってもらおうと浅ましくも考えてしまいました」
「そうか……その様な事情があったのじゃな。許そう。そして妾はお主の後ろ盾になろう。それに異なる世界への話も興味があるのじゃ」
その後シャルロットに前の世界での話を面白おかしく話をしてその日を過ごし宿へと帰った。
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「姫様。彼の話を本当に信じるのですか?」
メリアはそう疑問を口にする。
「勿論じゃ。メリアは違うのかの?」
「いえ、あの古の秘宝具などや護衛の物が預かったミスリル製の剣などを見るにあながち嘘とも言い難いかと」
「そうかの?まあ、メリアもいずれクヴァルムの事を信じてくれるじゃろう。ふぁ〜あ。妾はそろそろ眠るとするかの」
「畏まりました」




