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絶滅種の詰め合わせ

作者: 川神由信

絶滅種の詰め合わせ


空から、大きな宇宙船が街のはずれの広場にゆっくりと降りてきました。朝のちょうど9時のことです。みんなでしばらく様子を見ていると、宇宙船はそのまま広場に着陸しました。恐る恐る駆け寄って中を調べてみると、たくさんの見たことのない動物がつがいで生きたまま積まれていました。街で動物に一番詳しい者が調べてみると、500年前から現在までの間に絶滅した動物がつがいでちょうど100種類積まれていることがわかりました。ベンガルトラ、オランウータン、クロサイ、オオアリクイ、オカピ等です。人々は予期しない天からの贈り物に戸惑いました。どうしてこういうことが起こったのか、誰がどんな目的でやっていることなのか、意味も理由もわかりません。しかし、この贈り物がたいへん貴重なものであることだけは間違いなさそうです。街のみんなでこの贈り物をどうするかを相談しました。その結果、手分けして、1家族が1種類の動物のつがいを自宅に持ち帰って、なんとか育ててみることになりました。しかし、どれもがすべて見たことのない動物で、何を食べるのか、どうやって育てるのか、ちんぷんかんぷんです。動物の育て方の知識が少しはある者も何人かはいるのですが、なにせ、一度に珍しい動物が100種類も来てしまったのですから、まったく手が回りません。みんな、人に聞いたり、いろいろな餌を試してみたりして、四苦八苦しながら育てる努力をしましたが、なかなか思った通りにいかず、苦闘の連続です。

 それから1ケ月後の朝9時ちょうどに、また、同じ型の宇宙船が同じ街はずれの広場に降りてきました。開けてみると、今度は、鳥がたくさん積まれていました。やはり、鳥に詳しい人に調べて貰ったところ、今から500年の間に絶滅した鳥のつがい100種類だそうです。カンムリシロムク、アフリカペンギン、オオヅル、エジプトハゲワシ、クマタカ等です。先日の、絶滅した動物100種を送ってきたのと同じ何者かが、今回の絶滅した鳥100種類も送ってきたのは明らかです。しかし、彼らが何者なのか、どういう目的なのかは、依然まったくわかりません。ただ、街の人々はこの贈り物をちょっと迷惑にも感じてきていました。これらの鳥が貴重なものであることはよくわかるのですが、ひと月前によく知らない動物が贈られてきて、その飼育に悪戦苦闘している真最中です。その上に今度は見たことのない鳥です。街の人々はみんなでこれらの鳥をどうするか相談しました。いろいろな意見が出ましたが、最終的には1家族が1種類の鳥のつがいを家に持ち帰って、頑張ってなんとか育てることになりました。しかし、やはり、初めて見る鳥です。何を食べるのか、どのくらいの頻度で餌をあげればいいのか、飛べる環境が必要なのか、鳥籠に入れておけばいいのか、わからないことばかりです。鳥に詳しい少数の人の目も100種類全部にはとても行き届きません。街ではどの家族も、絶滅した動物と鳥の世話でてんてこ舞いになってしまいました。

 その1ケ月後の朝9時に、3台目の宇宙船が同じ広場に降りて来ました。今度は魚が泳いでいる水槽がたくさん積まれていました。調べてみると、予想通り、これらの魚も今から500年前の間に絶滅した魚のつがい100種類でした。ハス、イトウ、ヒナモロコ、タウナギ、アカザ等です。これを見た街の人々は、この贈り物の送り主の正体とその意図に思いを巡らせるよりも先に「これはまいったなあ」という正直な気持ちを抱きました。街のみんなは、もう、これまでの動物と鳥の世話で手いっぱいだったのです。人々は集まって相談しましたが、いくら話し合っても議論はまとまりません。これらの魚がたいへん貴重であることはよくわかるのですが、魚は水槽の管理がたいへんで手間がかかり過ぎる、実益がないのにボランティアでやるには負担が大き過ぎる、育て方がわからない等、困難を訴える人がたくさんいるのです。話し合いの結果、もう、強制はできないので、やる気のある人だけが自主的に魚を引き取って、あとは川や湖に放流しようということになりました。有志の人で絶滅した魚のつがいを自宅に持ち帰ったのは50人に留まりました。

 1ケ月後、4回目の宇宙船が来ると予想される日の朝、街の人々はいつもの広場へ浮かない顔をして集まって来ました。宇宙船はやはり9時ちょうどに広場の上空に現れました。人々はこの有難迷惑の贈り物に正直うんざりしました。毎回、9時ちょうどに、同じ広場に、という極端な正確さも人々の癪に障り始めていました。動物、植物、魚ときたから、今度は多分昆虫だろう、とみんなは予想していましたが、案の定、積まれていたのは最近500年の間に絶滅した昆虫のつがい100種類でした。さっそく、街のみんなでどうするか話し合いましたが、今回はすぐに結論が出ました。もう絶滅種の世話は限界でこれ以上は無理、というのがみんなの意見でした。「なんとかがんばって、自力で増えるんだぞ」と人々は100種類の昆虫のつがいに声をかけると、それらを全部、広場の脇の林に放してしまいました。昆虫がすべていなくなり、からっぽになった宇宙船の中を見て、人々はある種の清々とした気分になりました。その時、宇宙船の一番奥に、短いメッセージが書かれている小さな金属プレートが置かれているのが見つかりました。

 街でただ一人古文書を解読できる佐藤氏は、そのカードを読むように依頼されました。

「科学の発達した未来の方々へ。我々がお送りした絶滅危惧種はこれですべてです。お手数をお掛けいたしますが、貴重な生物種の保護をよろしくお願いいたします。」と書かれていました。これを読んだ佐藤氏は自宅の裏庭にあるボロボロの図書庫に行って、保存してある焼け残った本をいろいろ調べてみました。その結果、約500年前に書かれた一冊の本の中に「500年後の未来に向けて、絶滅危惧種の動物、鳥、魚、昆虫のつがいそれぞれ100種を4回に分けて宇宙船で送った。」という記載を見つけました。

「どうやら、当時はこれを、『未来へのノアの方舟作戦』と呼んでいたらしい。絶滅危惧種をいくら大事に保護しても、結局は当時の状況では遅かれ早かれ絶滅してしまうので、今のうちに未来へタイムマシンで送っておいて、後は科学の進んだ未来人にお願いしてなんとか保護して貰おうという考えだったらしい。宇宙船を光速に近い速度で飛ばすと、宇宙船の中の時間は地球に比べてゆっくりと進むから、光速に近い速度で宇宙をちょっと一回りしてから地球に戻ってくると、未来の地球に行くことができるようだ。地球から宇宙船を光速で飛ばして、500年後の地球上の寸分も違わない同じ場所に、ひと月ごとのぴったり同じ時刻に宇宙船を着陸させるのだから、500年前の人々の科学技術は相当に優れたものだったに違いない。まあ、しかし、今の我々に絶滅危惧種を保護してくれと言われても、無理な相談だ。今から100年前に全面核戦争が起こってしまい、現在、世界の文明はほとんど原始時代のレベルに戻ってしまっているのだ。この街の住民はわずか100家族、500人余りだ。隣街の状況はもうよくわからない。世界にどれだけ人類が残っているのかは誰も知らない。毎日食うことに必死で、何とか生き残っている状態だ。期待に応えられず昔の方々には誠に申し訳ないのだが、絶滅種にこれ以上拘っている余裕は今の我々にはない。人類自体が絶滅危惧種なのだから。」


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