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第22話 僕、魔王と別れをしたみたい

 サンクチュアリ内部が煌々と輝き始め、光を放出した。それは魔王が自身の全てを懸けた全身全霊の最後の攻撃。

 直後、内部から轟音が響く。天を突き抜け地を揺らし空気を割いていくその音は轟が収まることを知らない。しかし、それでも尚サンクチュアリは揺るがない。

 何処までも轟いていた音は凪いだ海のように静けさを取り戻し、またサンクチュアリから漏れていたとんでもない光の嵐は逆再生するかの如く収まった。

 サンクチュアリに囚われた魔王は、この世の全てを破壊し尽くして見せると言わんばかりに僕を睨みつけていた。

 その強烈な視線に反し、魔王の体は小さく衰弱したものとなっている。それは爆帝を使った後だからだ。

 僕のサンクチュアリで防げるのかどうか不安だったけれど、爆帝では威力が足りなかったようでピクリともしなかった。無我夢中でやっていて気付かなかったけど、どのくらいの生命力を使ったんだろう?

 今はそれを気にしていても仕方がないので、魔王の相手をする。


「もう、次が最後だ」


 そう言うと、魔王は先ほどまでの射殺すような視線から一転し、生暖かい視線へと変貌した。雰囲気も尖ったものがなくなり、丸みを帯びている。


「ふっ…お前は、強いな」


「僕はまだまだ弱いよ。こんなの、ただの暴力じゃないか」


 そうだ。こんな桁外れな力はただの暴力でしかない。制御を間違えれば身を滅ぼしかねない諸刃の剣であり、使い方を間違えれば如何様にも転じる。そう思うと背筋がゾッとした。


「だがそれを使いこなしているではないか。よもや、世界を崩壊させる魔法をたった1人に邪魔立てされるとは思いもせんかった」


「さっきのそんな魔法だったの!?」


 全力で防いでよかった…。本当によかった。生命力のコントロールを覚えてなくてよかった。

 …でも、生命力をコントロールするほどの頻度で使ってちゃ寿命がなくなっちゃうよね。


「…俺が負けか…」


 魔王はそう言って、晴れ渡る群青色の空を見上げた。


「リステリアよ。最初で最後の最愛の子よ。どうか、俺を忘れないでほしい。この地…いや、この世界に楔が打ち込まれている。それは、俺をもう現せないようにするためのもの」


 目を伏せて悲しそうな表情をする魔王は、どこか初恋をした少年のような出で立ちを彷彿させる。


「もう二度と生まれることは出来ないだろう。俺がこの世からなくなり、負の感情のための受け皿が消滅する。それの意味するところは、大陸間戦争へと繋がる。いずれ、必ず訪れる」


「それはきっと、僕が生きている間では無いよね」


「…寿命の長いリステリアならばあり得るぞ?」


「あ……いや、忘れてたわけじゃ無いんだ。本当だよ?」


 本当は忘れていたのだけど、慌てて言い繕うと魔王はクツクツと笑い始めた。


「いやはや、ではリステリアは己が身の無い世界ならばどうなっても良いというのか」


 僕は返答に迷った。どう答えればいいかわからない。少なくとも、今の僕は……どうでもいいと思っている節がある。

 でも短い間だっただけど、経験した龍王代理。それをしている間は多くの民の笑顔をこの目で見た。

 城の周囲にある街を楽しそうに笑い歩く彼らは、今を幸せそうに生き、愛する者と生涯を歩んでいた。

 彼らのことを護りたいーーどこからかふと浮かんだそんな感情が、僕の抜け落ちた部分にストンと嵌る。

 彼らを護るということは、彼らの子孫もまた彼らであり、その未来に破滅が待っているとなれば、それがわかっているのであれば、僕はどうするべきか。

 逡巡する思考が熱を帯び、オーバーヒートに至るまでそう時間はかからなかった。


「…済まぬ。少しいじわるなことを聞いたな」


 苦笑を浮かべた魔王はまた、晴れ渡る群青色の空を見上げて呟いた。


「空は広く、何処までも続き何者をも受け入れる。…一足先に待っているぞ。リステリア」


 (魔王)は僕に複雑な表情を向けて最後には笑った。こういう時、なんと言えばいいのかわからない。物語の主人公はよくあれ程気の利いた言葉が言えるものだと感心する。

 せめて、彼への手向けとなるように僕は朗らかに笑い返す。言葉は言えなくとも、伝えられなくとも、笑うことは出来る。彼は望んだのだ、僕が笑うことを。


「また、今度は友達の関係になれたらいいね」


 その呟きは彼に聞こえたのか、それとも聞こえなかったのか。

 サンクチュアリの内部にいた、今にも消えそうだった魔王が完全に消滅する。僕が手を掛ける必要もなく、彼は逝った。自分で自分の魔力を(ほど)いたのだ。繋がり合う魔力を解くことによって、魔力そのものが存在であった彼は禍根を残すことなく飛び立った。






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