第15話 僕、転移するみたい
「方向と距離がわかれば、イルミナスさんなら転移出来るかなって思ったんだけど」
「確かに俺ならそのくらいのことは出来る。だが、距離によっては力が足りるかどうか…」
「じゃあ僕が制御した龍脈の力を使うことは出来る?」
新しい方法を提示すると龍の間にいた人-と言っても僕と付き人2人にイルミナスさんだけだけれど-が一斉に振り返った。
その目は「考えたこともなかった」とでも言いたげで爛々と輝き、新しい可能性を前に興奮している様子だ。
「それなら出来る!だが⋯本当にそのような、共同作業が出来るのか?」
それは僕も不安に思っていたことだ。
もし、できなかった場合行き場を失った制御された龍脈の力をどこにぶつけるかが問題である。
でも、それでも試さずにいられない。龍王とリヴィの行先が分かったこともあるけれど、新しい可能性というものを試してみたいという思いの方が強くなっていた。
それはイルミナスさんも同様で試してみたいけど試すとどうなるかわからない、と視線を彷徨わせている。
「今回は、事故が起こってもいいのではありませんか?龍王様と宰相様の捜索という大義名分があるのですから」
キースさん-付き人のうちの1人-がそう言うとイルミナスさんも大きく頷いた。
そして、ついに龍史初の共同作業が始まった。
まずは距離と方角を教えなければならない。
「イルミナスさん。距離はここから⋯」
そう言えば、僕、この世界の単位知らないよ?
何と言えばいいのか、とても広い。
距離は約1万km。
一度、このまま言ってみようかと思ったけれど、それをそのまま人族で使われていると思われてしまい、この単位が存在しないことに気付かれると少し厄介だ。
少しの間黙った僕を見て、キースさんとは違うナースさんという付き人が講義を始めてくれた。
「そう言えば、距離の単位はまだお教えしていませんでしたね」
ナースさんが一本の木の棒なものを取り出した。
曰く、その棒は10ミルという長さらしい。地球の単位で大体5cm程度。
つまり、倍の長さを教えればいいということになる。
しかしここで問題が発生した。
「ミル以外の単位はないの?」
「ありませんね。人族はいくつもあるのですか?」
「ん、そうだねぇ」
ナースさんは「そうですか」と言って引いてくれた。
ミルしか単位がないとなると、1万kmは何センチになって何ミルになるのだろうか?
確か、kmは1000m?1mは100cmだったかな?5cmで10ミルだから⋯単純に倍計算でいいのかな。
0を4つ付け足して倍をする。
1万kmを換算すると20億ミルという距離になってしまった。
「たぶん、20億ミル、かな」
自信なさげに言うと、イルミナスさんたちの顔は一様に愕然とした面持になり、首を横に振った。
「それほどの距離となれば一度の転移ではいけないでしょう⋯流石に、リステリア様と言えど出来ないかと」
そんなことはやってみなきゃわかんないでしょ。
ということで方角を指し示す。
「方向はあっちだよ。じゃ、制御するからお願いね」
「まぁ、やるだけやってみるか」
話がひと段落ついたところで龍脈の力を集める。
龍脈の力は地面に手を付けたほうが扱いやすいことがわかっているので、大きな力を使うときは皆そうしているらしい。
暴走させにくくなるし、普段使っている力よりも強い力を扱えるのだ。
ただ、戦闘中には使えない。何故なら動き回るからだ。地面に手をつけてもたもたしている暇なんてない。
でも、この国は平和すぎるので戦闘部隊と言ってもただ飯食らいだ。その部隊があるのは魔王討伐のため。
なので、有事の際と言えば魔王のことで有事の際は勇者が大抵片付けてくれる。
この国に魔物や魔獣といった存在がいない。
それもそのはずで、魔力が暴走して魔物や魔獣と言った存在になるので、龍脈の力の濃いこの地には棲みつけないし入り込むこともできない。
だからこそ、継承者たちに魔力の残滓があるということがおかしいのだ。
洗脳はまだ解けていない。おそらく術者を倒すまでは解けないと言われている。
「まだ?」
結構集めたんだけど、と思って聞いてみると全然足りないらしい。これでも5割ほどの力なのに。
なので8割ほどの力を集めてみる。
「これでどう?」
「まだだ。20億となるとこの数倍、もしかすれば数十倍いるかもしれん。安全に転移するためにはこれの10倍ほどは欲しいところだ」
そ、そんなに?
振り返って助けを求めてみようとしたけれど、一笑いに一蹴された。
自分で言っていて出来ないのかと言われた気がして無理やりにでもしたくなる。
数倍がなんだ?数十倍がなんだ?魔王との戦いに比べれば楽な方だ。なんと言っても制御に集中するだけでいいのだから。
10倍と言わず、15倍ほどの龍脈の力を集めてみよう。
目を閉じて、数えて行く。
先ほどの8割からあがり続け、13割ほどまで来ている。80割までは最低では上げなければならないのだから、本当にまだまだだ。
20⋯30⋯40⋯50⋯
50を超えた辺りで体に異変が生じた。
僅かに体が発光し始めたのだ。
「な、なんだ?まさか暴走⋯!?」
イルミナスさんが警戒心を露わにし、キースさんとナースさんも警戒する。
それを他所に僕は集中し続ける。少しでも気を許すとそれこそ暴走してしまいそうだ。
60⋯⋯70⋯⋯⋯
70割を超えると光が強くなっていく。目を閉じているのにも関わらず、瞼の隙間から光が見えた。僕は二つ目の瞼も閉じるようにして完全な闇を作り出す。
⋯⋯⋯80!
これで80割だ。安全を考慮して10倍と言っていたけれど、本当にこれで足りるのだろうか?
「こ、れで、どう?」
いつの間にか息が荒くなっていたらしい。
集めることに比べると維持は簡単なので、そのことに初めて気付けた。しかも、発光していた僕の体は通常の状態に戻っており、集束の時は発光するけれど維持の時は発光しないということがわかった。
不思議な発見だなと思う。
気付くと辛いもので呼吸をすることが苦しくて、今すぐにでもこの力を解放したい。しかし、そんなことをすればどうなるかわからない。間違いなく暴走してしまうだろう。
「行くぞ」
イルミナスさんの掛け声一つで僕たちの視界は変わった。




