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第1話 僕、神の世界に来たみたい

新章3話ほどは神様です。その後からストーリーを展開していきます。

 目は開かないものの、次第に意識が覚醒していく。最後に見たのはミスティの泣き顔と倒れ伏した魔王だったはずだ。魔王の時間凍結魔法で眠らされてどれくらい経ったのか。もしかして数千年もの間眠ってしまっていたのかと思うと鳥肌が立った。


 しかし、それは杞憂だった。


 瞼が重く、完全に封印が溶けていないと感じつつ、耳には聞き覚えのある声が聞こえた。この声は勇者一行だ。声が弾んでいることから楽しく談笑しているのだとわかる。このまま無事に封印が解除されるのかと思い、ホッと心の中で溜まっていた鬱憤を吐き出すと猛烈な空腹に襲われた。どうやら体は食事を求めているらしい。


 体が求めても体を、腕一本どころか指一本も動かすことの出来ない状況ではどうしようもなく、僕は神にも縋る思いで飢え死にだけは嫌だと天を仰いだ。


 直後、一瞬のうちに意識が刈り取られた。



 不意な失神に僅かな疑問を覚えながらも自分の体を動かせることに気付く。と、違和感を感じた。この体は自分の体ではあるけれど自分の体ではない。下を向くと胸にあったはずの最近膨らんできた緩やかな丘陵は無く、代わりに懐かしいと言える服装をしていた。その服装は所謂ブレザーで、学校指定の制服姿だ。もっと言えば僕が死んだときと同じ恰好と言えばわかりやすい。


「これは一体…どうなって?」


 自分の体を確認した後、周りを見ようと顔を上げた途端そこには白髪の髭を生やした仙人のようなお爺さんがいた。


「神…様…?」


(あれ?神様?僕は何を言ってるんだろう…神なんているわけない)


 そうは思っても懐かしさを感じるその風貌と雰囲気、更にこのよくわからない空間に自分の今の状態を確認してみると、神様というのが本当のように思えてきた。僕は封印から復活したのではなく死んでしまったのではないか、という考えが過ったがその可能性を捨てる。先ほど勇者一行の会話が聞こえていたからそれは無いと思うのだ。


「初雪奈緒、久しいな」


 久しい、と言われても覚えがないので首を傾げた。その様子を見た神様が何かを思い出したようにポンと手を打つ。


「そうじゃった!記憶解放!」


 神様の言葉と同時に僕に抜け落ちていた何かが埋まっていくのを感じた。その何かはいつかの記憶。そう、これはあの日の、あの事故にあった時の記憶だ。事故にあったこと自体は覚えていたけれど、その後のことは覚えていなかった。忘れていた、というよりも忘れさせられていた。過去の自分によって。


「これは…僕が…僕のせいでお母さんとお父さんと…村の人が死んだ?」


 蘇った記憶を辿り、今までのリステリアとしての人生を振り返った。5歳の時の盗賊や偶然発見したにしては少しおかしいと思っていたあの結晶。そして、いくらファンタジーと言っても精霊に話しかけて魔法を使うというものもあるし詠唱が必須の世界も存在しているはず。その中で何故偶然にもイメージだけで魔法を使えたのか。


 そこまで考えた後、一つの疑問に行きついた。


「ミスティは?5歳で全員死ぬはずだったのにミスティが生きてる?」


「それは我の都合でちょちょいとな」


 神様の言葉を受け、上の空で耽っていると神様に肩を小突かれる。


「何をそれほど考えておる。元々与えようとしていたもの全てを要求した時は正直驚いたな。まぁ、性転換は予想外であったが」


 僕にしてみれば、元々くれるはずだったという部分を理解できないでいる。何より、何故僕をこの世界に呼んだのかということが不可解だ。何か目的がなければチート能力など授けないだろうし、よく考えてみれば転生にわざわざ神様が出てくる必要もない。となれば可能性は一つであり、それは神様が僕にしてほしいことがあってこの世界に呼んだということになる。


 僕の考えを読み取ったように、神様は口角を上げた。


「ふっ。汝は我の望みを叶えてくれたから質問はいかほどでも受け付けよう」


 神様相手ではあるけれど、気になることが多すぎるので一つずつ聞いて行くことにした。


「じゃあまず、僕をこの世界に連れてきた理由は?」


「それは魔王を倒すためじゃな」


 それだけ言って神様は黙ってしまった。しばらく待っても続きを言う気配は無く、補足説明やら何やらはしてくれないみたいだ。


「それに関すること全て教えて」


 神様は僕の要求に面倒臭そうな顔をしたが、それも一瞬のうちに引き締まった。


「儂が初めて作った世界が今汝のいる世界でのぅ。あの魔王を倒す勇者として現れるのは本来ならば初雪奈緒、それからヴィーナというまた別の世界の女性だった。だが、汝が事故死することによって運命が乱れた。結果、魔王を倒せるほどの力を持った勇者を召喚できずに世界が破滅に導かれる…というところまで未来予知したんじゃ。魔王に世界を壊させるわけにはいかないからの、汝を転生させることによって事の解決に当たったというわけじゃ」


 僕が事故死しただけで一つの世界が破滅に至ると、誰が想像できただろうか。僕は出来なかった。なにせ、今まで気の赴くままに生きてきたつもりだし、これからだってその予定だ。魔法聖学園に行くことが目標ということに変わりはない。魔王討伐は時間的に許容できる範囲だったから向かっただけだ。その結果死にかけようともそこに僕とミスティ以外の意思はないはずだ。


「ミスティはどうして生きていた?」


 ふとつぶやいてしまったことにすぐ反省する。これまでミスティに救われることがどれだけあったことか、それを思うとミスティが死なずについてきていることに感謝ことすれ憎んだり疎んだりする謂れはないのだ。


「ミスティには魔王が現れないようにする仕掛けを一つしておいての。その仕掛けももうじきにくるはずじゃ」


 仕掛け。それを聞いた途端僕の中に黒い感情がふつふつと湧いてきた。もしミスティが自分を犠牲に魔王が現れないような何かをしようとしているならすぐに駆けつけて止めなければならない。しかし、それはすぐに収まった。それは新たな疑問が生まれたから。


「ミスティは神様に操られた人形…?」


 こう考えるのが自然だろう。神様であれば人一人くらいならば操ることも出来るだろう。ということは僕が監視されていたことになる。監視という名の行動制限。そういえば僕は何かとミスティに行く道を決めてもらっていた、魔王討伐に向かうときもミスティに任せたはずだ。その全てが神様の都合の良いように動いていたとした場合、僕は神様のただの操り人形をしていただけだ。神様という裏役がいて、それに糸が垂らされた傀儡人形。その傀儡人形のいうことを素直に聞いて行動を起こしてきた僕。


 考えているうちにミスティが自分を犠牲にしているということは抜け落ち、僕自身が利用されていたと思いまた別の感情が湧きだして来る。


 それを制するように、明るく強い声が発せられた。


「奈緒、落ち着いてね。神様は悪くないから。神様も言い方が悪いよ?」

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