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第5話 僕、家を売るみたい

 お爺ちゃんの家に来て4年の月日が流れ、僕は10歳、ミスティは8歳になった。季節は秋である。この世界では0歳がないらしく、今までの僕の数え方は間違っていたらしいのだ。お爺ちゃんはどっちでも構わないと言っていたけれど、こちらの世界にいる間はせめてこちらのルールに従っておくのが理だろう。

時間が経つのは早いもので、毎日魔力増幅のための訓練や魔法の細かい操作のための訓練。

 その他、お爺ちゃんに聞いてもいないのに商人の心得とか教えられた。


魔力増幅の訓練は魔力を放出し続けると次の日に何故か魔力が増えている。

 これに気づいたのは4年前。毎日欠かさずやっているので元々のスペックも相まって相当な魔力量になっているばずだ。

ミスティにもさせようと思って、魔力を認識できた時期からさせている。僕よりは少なかったけど、それでも相当な魔力量らしい。僕は規格外でミスティは最高レベルみたいな感じ。

 お使いで商店街に行くと、僕は「りっちゃん」と呼ばれミスティは「みっちゃん」と呼ばれるほど仲良くなっている。


 そんなある日のこと、お爺ちゃんが突然倒れてしまい二日ほど前に死んでしまった。身内をなくすのは前世も合わせて二回目だ。

 とてもではないけど「悲しい」や「寂しい」と言った言葉で済まされるほどのものではなく、涙がとめどなく溢れてくる。

 5年もの間一緒にいたし、今世での両親も5年だ。5という数字は僕に何か恨みでもあるのだろうか?


 50代に見えていたお爺ちゃんは実は60代後半だったようで、この世界での平均寿命は60歳前後だったらしい。

 医師からは「随分と長生きをしましたね」とほろ苦い表情を浮かべて笑った。長生きできることは望ましいことだろう。

 しかし僕たちはまだ子どもで身内がいなくなってしまった。そのことを気に病んでいるのだと思う。


 ミスティは物心ついてからは更にお爺ちゃんに懐くようになっていたので悲しみも僕よりも深く今でもふさぎ込んでいて部屋から出てこない。

 ミスティは5歳になった時に僕と同じような個室を貰ったのだ。その前は毎日お爺ちゃんと寝ていたこともあったのだと思う。

 僕は前世も含めると20歳を超えているからか、落ち着いているように演じることは出来ているのだけど、心の中は暴風雨だ。

 表面上は涙を流さないようにして頑張っているけど、どうしてもというときは誰も見ていない場所まで行って泣くようにしている。

 それに、いつまでも塞ぎこんでいては前に進めない。こういう時こそ、前に進む努力をしなければならないのだと強く思う。


「ミスティ、僕だけど⋯⋯入ってもいい?」


 ミスティの部屋の扉を数回ノックして声をかける。すると小さな声で「うん」と聞き取ることが出来たため中に入った。

 そこにはお爺ちゃんがミスティへ贈った物がミスティの周りを囲むように配置換えされていて、その贈り物のほとんどがぬいぐるみなため埋もれているようにも見える。

 でもこれはここ数日よく見る光景だ。お爺ちゃんはよくプレゼントをする人で、何かがある度に記念だと言って品を贈る人だった。

 僕たちがこの家に来た記念、商店街に初めて行った記念、もちろん誕生日もそうだ。


「お姉ちゃんは、どうしてっひぐっ、平気なの?」


 僕も平気じゃないんだけどね、そう言えたらどれだけ楽なことか。ここでそれを言ってしまえば先に進むことは出来ない。

 お爺ちゃんは「例えどんなことが起ころうと前に進む努力を怠ってはならんのじゃ。例え、儂が死んでも、それでお前たちの人生が終わるわけではない。じゃから、決して後ろを振り向く出ない。前だけを見て先へ進むのじゃよ」とよく言っていた。

 それも最近の話だ。今思えば自分がもうじき死ぬとわかっていたような口ぶりのように聞こえる。


「お爺ちゃんは自分の人生を最後まで歩ききったんだよ。ミスティ?今度は僕たちがお爺ちゃんの意思と知識を引き継いで、その後ろついていくだけじゃなくて越えなくちゃならないんだ。だから落ち込んでいる暇はないんだ。お爺ちゃんのためにも歩いて行かないと、お爺ちゃんに顔向けできないよ」


 何日か考えて出したセリフがこれだ。いち早く元気になってほしいと思って毎日部屋に来ることはしているけれど、大した言葉をかけることは出来なかった。

 でも、それも今日で終わりだ。いくら塞ぎこんでいるからと言ってもまだ子どもだから、言葉巧みに言えばどうにかなると思ったのだ。

 嘘も言っていないから、心配はいらない。


「おねえちゃっ⋯⋯!!」


 涙をポロポロと零しながら狭い部屋の中、僕に勢いよく飛びついてくる。

 ミスティを受け止めてやり、頭を撫でて、背中をさすって、嗚咽もなかなか止まらなかったけれどそれでも泣き止むまで続けた。

 泣き止んだミスティは目元が赤く腫れ、可愛らしい顔が台無しになっている。

 そんな彼女をお風呂に入れて綺麗にしてあげる。幸い、この世界にはお風呂が標準装備なのだ。


 2人して体を綺麗に洗い、商店街に行くことにする。ミスティを励ましてくれるといいんだけど⋯⋯。


 2人で商店街に足を運ぶとそこには感じたことのない雰囲気が漂っていた。お爺ちゃんの死は商店街にも影響を与えたのかもしれない。


「お姉さん、いつものください」


 いつものように声をかけたにも関わらず、お姉さんがいつものような振る舞いを見せることはなかった。

 どうして?思ったけど、いつも買っているお野菜を購入することは出来たのであまり深く考えることはしないようにする。


 次はお肉屋さんに行こう。

 この世界の肉は大きく分けて2種類ある。

 獣の肉と魔物の肉だ。獣は牛とか豚とか、家畜などが一般的で魔物は全て野生だ。つまり、家畜か野生か、ということになる。

 この世界に普通の動物は存在しない。生きとし生けるもの全てが魔力を持っているため、人間以外の生き物はほぼ全て「魔物」に分類される。

 そんな中でもおとなしく家畜に出来る魔物というのが牛や豚ということだ。

 でも、昔は魔力を持たない本物の牛や豚がいたらしい。昔、それまで平和だった世界に突如として魔物が現れた。

 その時にほぼ全ての動物が駆逐されていき、今では魔物と魔力を持たない本物の動物の子孫ばかりで、魔力を持たない動物は皆無なのだ。

 人は知恵を振り絞り武器を製造し、魔物への対抗が成功したため今も繁栄を続けている。何故魔物が現れたのかは今でもわかっていないとのことだ。


 ⋯⋯これらもお爺ちゃんから教わったことだ。


 お肉屋さんに着くと、買うのは当然牛や豚と言った家畜類。

 魔物の肉も食べてみたことはあるけど、質が悪いと物凄く不味い。味をつけてもまずさは不変で非常に不味い。

 それでもおいしい物はあり、お爺ちゃん曰く「最低の味は魔物じゃが最高の味もまた魔物じゃ」とのことで、いつかはおいしい魔物を食べてみたいと思っている。

 お肉屋さんのお兄さんも、お野菜のお姉さんと同じような素っ気ない態度だった。

 何かあったのだろうか?そう思って道行く人に挨拶をしていく。普段はあちらからしているのにこちらからするのは変な気分だ。

 でも、返事を返してくれる人は誰一人としていなかった。


 それが不安に思えたのか、ミスティが僕の服の裾を掴んでいた。

 よしよし、と頭を撫でて安心させていると、一人の面識のあるおばちゃんが近づいてきた。


「あんたらぁ、まだいたのかい。あんたんとこの爺さんがいたからあんたらには愛想振ってたんだ。爺さんがいない今となってはこれも必然⋯⋯ああ、これは独り言さね。誰に向けても言っていないんだがね。これが聞こえていたらこの街を出るべきだと思うけどねえ」


 このおばちゃんはいつもほかの人よりもかわいがってくれていた。

 そんな人までもが変わってしまうというはとても悲しい。周りを見てみると、おばちゃんの言葉に賛同している人しかいなくて力強く頷いていた。

 そこには素っ気ない態度ではなく、本当に僕たちのことを心配してのことだと確信した。


 一先ず、この街を出るというよりもこの街の冒険者ギルド周辺に行き、そこで過ごせば問題ないだろう。

 冒険者ギルド周辺はギルドの御かげで不穏なことは一切なく、治安が一番いいところとして有名だ。そこには宿もいくつかあるからなんとかなると思う。


 思い立ったが即行動だ。急いで家に戻りミスティに必要なものだけを整理して1階へ持って来させた。僕も必要な物は全て空間に収納している。

 だからと言って、ミスティの分まで入れてはミスティの出したいときに出せない。

 ミスティに空間へ収納する魔法を教えるとすぐに出来たみたいだ。ミスティは6歳の時に魔力が解放されて、既にいくつかの魔法を教えている。

 主に身を守るための魔法ばかりで、攻撃系はあまり教えていない。魔法を教えるとすぐに出来たみたいで次々と物が消えていった。


 そこへ突然の来客が来る。


「リステリア様の御宅ですね?入りますよ」


 入ってきたのはこの街での不動産屋さんだ。この街を出て行くなら少しでもお金は多いほうがいいし、もう戻ってこない可能性もあるため売却してしまったほうが良い。

 それに、変に心残りをしてしまえば悲しくなってしまうこともあるだろうし、お爺ちゃんのことを思いだしてこの家に戻りたくなるかもしれない。

 戻る家がなければ戻ろうなんて思わない筈だ。


 家を売却するに当たってミスティが口出しするかも、と身構えていたけど何も言ってこなかった。

 商店街の空気に充てられたからか不気味に思えてきた。でも、今それを問い詰める必要はない。

 査定が済むと家を出て鍵を閉じてその鍵を不動産屋さんに渡した。

 もうこの家には入れないので、ミスティは今にも泣きそうな顔で「またね」や「元気でね」と言ったおよそ家に掛けるような言葉ではないもの言葉を言っていた。


 家は高く売れた。それはもう、すごく高く。

 なんと白金貨1枚と金貨3枚だったのだ。とりあえずお金は僕が保管しておくことにして、念のためお小遣いとして銀貨10枚を渡しておく。

 8歳児のお小遣いにしては多すぎるけど、それを言ってしまえば僕の持つお金はどうなるんだ、ということになるので突っ込まない。


 僕たちはそうして思い出と出発点である場所を去ることになった。まだ、この物語は始まったばかりだ。




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