第26話 僕、魔王に封印されたみたい
荒野に最後の轟音が鳴り響き、随分と時間が経った。
砂埃は未だ晴れず魔王の姿は見えないまま。
探知魔法を使っても何も引っかからないので倒せたと思ったけれど、龍脈での探知魔法では何も引っかからない方が普通で何かが引っかかる方が以上かもしれない。
魔力による探知魔法だからこそ魔力の動きを探知できる。
自分の魔力を薄く広げていくことで自分の魔力に染めていき、そこに自分以外の魔力があれば染まらないという原理なのだ。
だから、魔力とは別系統の龍脈の力での探知は不可能ということになる。
龍脈の力に反応するから、もし何かが引っかかった場合魔王どころではないだろう。
魔王もまた、こちらの位置を特定できないでいるはずだ。攻撃の入射角や向きなどである程度の位置は割り出していても、確実に攻撃を当てるのはほぼ不可能。
僕はじっと呼吸をするのも忘れて砂埃が晴れるのを待っていた。
なんだか時間がかかっているなと思い、風を起こそうと思った時、タイミング良くか悪くか砂埃を消すようにそれなりに強い風が吹いた。
そして、そこには魔王は立っていなかった。
立っていないというより、姿がないのだ。
「やった…勝てた…かな?これで聖龍も…きっと……」
今まで呼吸をすることも忘れたかのように戦っていたからか、緊張感が途切れた瞬間に膝から崩れ落ちた。
息を荒くして、涙がぽろぽろと溢れていく。
「んぐっ…せい…りゅっ…はぁっ…っ」
聖龍が僕を守るために死んだ。
ということが僕の中で渦巻いて一向に収まる気配がない。
最後に残したあの言葉。
あれはどういう意味だったのか、今ではきくことも出来ない。
僕に手加減をしてわざと負けた理由も聞くことができない。
聖龍は僕のことをどう思っていたんだろう?
聖龍からすれば、僕のことは憎いはずなのに、最後は身を呈して守ってくれた。
そんなことが胸の中をぐるぐるといつまでも収まる気配がない。
それにこの怪我、ミスティが駆けつけてくれないと僕はもう死んでしまうかもしれない。
でも、それもいいかなと思う自分もいた。
聖龍とあの世で平和に過ごしていろんな話をして遊ぶのだ。
うつ伏せから仰向けになり、空を見上げよう。
空はどこの世界も変わらず青く澄んでいて、どこまでも広がっているのだ。
これが僕の精神を安定させていたのかもしれない。
寝返りを打つと、そこには見たくない顔があった。
「ようやっと気付いたか。お前は本当に危険な存在だ。俺をここまで消耗させ、死の危険を感じさせるとは思いもしなかったぞ?だが、それもここまでだ。お前にとどめを刺す力程度ならば残っている」
「な…んで…魔王がっ…んっ」
「ほう…まだ話せるか。俺は魔力の塊だからなぁ、魔力がある限り怪我をしても体が割かれても粉々になろうともこうして復活出来る。魔力がなくなれば死んでしまうがな」
「聖龍…っごめんね…」
「さらばだ。勇者の…なんだったかな?」
魔王が右手に魔力を集め、拳を振り上げている。
あぁ、本当に僕は死ぬんだ。
前世でも、こちらでも成人することは出来なかった。少し残念だ。
次は記憶を持たず、転生出来るといいなぁ…。
「お姉ちゃん!『夢幻!』」
ミスティの声が聞こえる。
けれど、瞼を開ける力も残っていない。
ミスティ、早く逃げて。魔王はまだ…。
「ちぃ、邪魔が入ったな。『氷槍』…!?なんだこれは!頭が…クソッ…リステリア…だったな、まさかこれほどとは…お前は絶対に殺してやる。次に俺が現れるまで待っておれ!『時間停止!』」
魔王に魔法をかけられた。だんだんと体から何かが離れていくように感じる。
僕は今、どんな顔をしているのだろうか。
「お姉ちゃん!?『超回復!』」
魔法をかけられた僕に対して慌てたような声を上げ、ミスティが回復魔法を行使した。
僕は大丈夫だよ、と口を動かすことも出来ない。
感じられるのは視覚以外の五感だ。
鼻をくすぐる砂の匂い。
耳に届くけれど聞き取ることが出来ない勇者とミスティの声。
肌に触れてはどこかへ飛んでいく風。
その風に運ばれて口に入ってくる砂の味。
最後にミスティの頭を撫でてやりたい。
でも、今撫でられているのは僕だろう。回復魔法に撫でられる、という表現があればだけど。
その回復魔法によって体が癒えていく。暖かい光に包まれて。
僕はまだ死なないのだろう。ミスティ、魔王に殺されないで、逃げられるかな?
僕を回復させる前に逃げて欲しかったけれど、ミスティだから仕方ないかな。
魔王は「待っておれ」と言っていた。
ストップって言ってたし、時間停止の魔法でも使ったのかな?僕は使うことが出来なかったのに、流石魔王とでも言うべきなのだろうか。
僕は結局、重い瞼を持ち上げることが出来ずに意識が遠くへ離れていった。
最後に聞いたのはミスティの声。
最後に受けた魔法はミスティの回復魔法だ。
僕は、次に目覚められるのはいつになるのだろうか。




