第21話 僕、出番がないみたい
肉眼でも見える魔物が着々と近づき、次第に足音という名の地鳴りが響いて来た。
「まじでこいつらやんのか…」
玲も来希に同意するようにごくりとつばを飲み込んでまじまじと見ていることがわかった。
他の3人は「今更でしょ」と言わんばかりに不遜な態度を保っている。その中に一人男が混ざっているのは気のせいだ。
「もうあと200メートルだよ。戦闘準備!」
僕の号令に全員が生きの良い返事を返し、その強い殺気の篭った眼差しで魔物の大群を見据えている。
魔物は大小さまざまな大きさの魔物がいた。
その中にはスノーラビットがいたりブラックタイガーがいたりと、珍味の素材も数多くみられた。
特に、一番目を引いているのはワイバーンだろう。まさか、こんな生物がいるとは思わなかったけど聖龍がいることを考えるとまだ常識的かもしれない。
ワイバーンは50体ほどで空を飛ばずに歩いていた。その体は大きく、ゆっくり走っているように見えるけどワイバーンの前を走っている猫型、犬型やその他の動物に似ている魔物とほぼ同じ速度を保っている。
そして、ワイバーンの更に奥にその存在を知らしめるような、距離があいているのに威圧を感じることが出来るマンモスのような魔物がいた。ワイバーンの数倍は強そうで、僕の出番もありそうなのでついつい頬が上気してしまう。
そんな僕の様子を見てミスティは呆れているようだ。
「お姉ちゃん、強い魔物がいるからって楽しそうにしないでよ…街がかかってるんだからね」
「わかってるよ。ただ、戦えないと思ってたからうれしい誤算なのは本当かな!」
ついついテンションが上がってしまう。
あれほどの魔物はダンジョン級だろう。流石に勇者一行は倒せないだろうから僕の出番は確実にあるはずだ。
「明菜、火魔法を!」
玲が叫ぶと同時に、明菜が穴に向かって火魔法を放つ。
明菜は前衛職だと聞いていたけど、魔法の方が好きみたいでよく練習しているみたいだ。ただ、あまり複雑な魔法はできないらしい。例えば氷魔法とか。
その圧倒的な魔力量…と言っても僕やミスティほどではない。を存分に発揮して次々と穴に落ちている魔物を燃やしている。
魔物はと言えば、穴に気付いた魔物が立ち止ろうとするけど、その後ろから押されて次々と落ちているように見える。
一応穴を避けようとしているようで、ちょっとだけ知識を垣間見た気がした。
とはいえやはり魔物。
次々と落とされていく魔物に対して火魔法が追いつかなくなっていき、更に魔物が積み重なり穴が浅くなってきたこともあってこちら側に到達している魔物がちらほらと見え始めた。
こんなことになるならもう少し穴を深くしておけばよかったと思うけど、後の祭りだ。今は今できることをしないといけない。ただ、僕の出番はまだない。
探知魔法で確認し、穴の両サイドから抜けている魔物がいないことを確認する。
その間に魔物も徐々に行軍速度を落としていたらしく、半数ほどを焼き尽くしたところで終わってしまった。
もちろん、こちら側にきた魔物は玲と来希と有本によって倒されている。
その中で明菜は魔力を使いすぎたのか、肩で息をしていた。
流石に単純な火魔法で結構な魔力量があっても、深さ10メートル横幅100メートルの穴に炎を行き渡らせるのは厳しかったようだ。
僕ならこんなめんどくさいことはせずに『氷砕結界』で氷漬けにした後粉々に砕いていたと思う。
まぁ、その分魔力も喰うし無駄も多い。それに、これほどの量だと流石に魔力が持たないからミスティと一緒に魔法を行使する必要があるだろう。
龍脈を使えばいいと思うかもしれないけど、あれはいろいろと疲れるのだ。精神的にも肉体的にも。魔力を使うよりも疲労が溜まる。これは龍脈の訓練をしていた時に気付いたことでもある。
残り約500体の魔物を相手に玲と来希と有本が立ちふさがる。
流石にこれは相手に出来ないだろうと思い援護の許可をもらいに行こうとしたところ、ミスティに遮られた。
曰く「あの人たちが助けてっていうまで待ってあげて?魔王と戦うならもっと強くならないと困るのはお姉ちゃんも一緒でしょ?」だ。
確かに一理あると思い任せることにしている。
そんな中、玲は魔物を次々と切り裂き来希は魔法も駆使して対応している。
有本はと言えば、流石ミスティと同等の強さがあるので安定した戦いをしている。
更に数が減った頃、残りはワイバーンとマンモスみたいな魔物と雑魚が数匹いるくらいになった。
ここまでで実に2時間ほどの戦いだ。昼前に到着してしまったので昼食を食べていない。そのため、皆お腹を空かせているはずで力もあまり出ないだろう。
相手も何故か様子を窺っているのかして待機状態のままだ。
ここは相手に警戒しつつ軽い食事でもとった方がいいと思い念の為作り置きしておいた昼食という名の軽食を各自に配っていく。
「ありがとう。でも、まだあんなにいるんだな…」
「そうだね。まぁどうしてもって言うときは頼ってね。特にあの大きいやつとかさ」
指を指していうと皆に笑みがこぼれた。
本気で言っているのに場を和ませるために言ったと勘違いされているみたい。
その方が指揮は上がりそうなので放置しておくとして、軽食を食べた勇者一行が、特に明菜が驚いたように食事を見ている。
「これ…すごい。魔力が回復していくわ」
「あぁ、心なしか体力も回復してるみたいだ」
明菜に続き来希までも続き、それに同意するようにそれぞれが頷いた。
いつも通り調理したはずなのに…そんなことを考えていても仕方ないか。僕とミスティはずっと見ていたのでその効果を実感することは出来なかった。
「(お姉ちゃん。まさかこれってダンジョンの魔物?)」
ミスティからの念話により、僕はピンときた。
「(なるほどね!それで変な効果があるんだね。これは切り札としてもう少し後で作っておくよ)」
「(うん!これがあったらちょっと無茶しても大丈夫だね。でも材料は言わないほうがいいよね…?)」
最後に確認するように聞いて来たので軽く頷いておく。
今知ったらちょっと動揺しちゃうかもしれないし、受け入れたとしてもそれほど量がないので出せと言われると困る。
僕とミスティの分はこっそり確保しておいた。
やっぱり、自分と身近な人が最優先だ。
「リステリアのおかげで助かったよ。じゃあ、動き出したみたいだしそろそろ」
「頑張ってね」
来希の言葉に全員が戦闘準備に入る。
軽食を食べたことが効いたのか、頑張ってという言葉が効いたのかわからないけど来希の動きがさっきよりもよくなっている。前者だと思いたい。
そのまま、怪我をしても真が回復させることによって戦線を維持しつつ敵を減らし、しばらく経った頃には疲弊した5人とマンモスが対峙していた。
「大丈夫?」
5人に近づいて行って声をかける。
「はぁ、はぁ……たぶん、あいつだけなら大丈夫と思う」
「確かにっ…はぁ、…今ならいける気がするわ」
口々に倒せるはずだと言うので僕はその言葉を信じてみることにした。
本当は僕が倒してみたいけど、5人の言葉に嘘は無さそうだし危なくなったら助ければいい。
それに、あのダンジョンレベルの魔物と言っても今は、今もなお成長し続けているし戦闘経験も詰めただろうから恐らく大丈夫だろう。
「グォォオオオオオオオオ!!!」
およそマンモスとは思えないような咆哮にそれぞれ耳を塞ぐ動作をする。
ただ、その咆哮をものともせず玲は動いていた。
「うぉぉおおおおおおおお!!」
両手剣を大きく振りかぶり、右上から左下へとマンモスの目を切りつけた。狙いはいいと思う、けど傷は浅いようだ。
マンモスは呻くこともなく血を流すこともなくその瞳を真っ直ぐに玲にむけている。
「玲っっ!!」
明菜が慌てたように片手剣を構え、その身に身体強化の魔法を宿しマンモスの足を切り裂いた。
身体強化のほかに片手剣にも魔法をかけていたようでその切れ味は凄まじく、マンモスの足を半分ほどまで斬りつけて血を噴き出している。
流石にこの攻撃には呻いて今度は瞳に明菜を映した。
しかし、間髪入れずそこに有本の魔法が炸裂した。
『暴風!!』
その魔法はその名の通り風が暴れているように視界に入る。かまいたちのようにもみえるけど、そのかまいたちの数が尋常ではなかった。
およそ100ほどの風の刃でマンモスの体を傷つけ、更に火魔法が撃ち込まれた。
『溶岩!!』
ただの火魔法ではなく、その熱は鉄でも溶かすほどの熱気を醸し出し、名前が溶岩なのに炎だけで構成されている。
それがマンモスにぶつかると、その身がこげるような臭いが辺り一面に漂い始めた。
この時点で既にマンモスはぼろぼろに見えたけど、まだ倒れていない。
ひとまず僕は臭いに耐えれなくなったので、風魔法で臭いが来ないように調整しておいた。それに気付いたミスティにじと目で見られたけど無視させてもらった。
玲と明菜、有本の攻撃が終わり、次は俺だと言わんばかりに来希が存在感を出している。それは他の皆も感じ取ったらしく、おとなしく後ろに下がってその成り行きを見守っている。
「はぁぁぁぁああああ!!」
大音量の声を出し、その手に持つ剣に魔力を宿した。
その剣からはその身に宿している魔力の全てをこめているかのように輝きを放ち始め、剣から少しずつ魔力が漏れている。
しかし、それに気にした様子もなくそのまま振り下ろした。
その振り下ろした速さは決して早いとは言えず、遅いとも言えないものだった。
しかし、その剣からは純粋な魔力の刃が現れる。
その刃はマンモスに向かって飛んでいき、振り下ろした速さからは考えられないほどの速さで切り裂いていく。
マンモスは斬撃に耐えられずその身を真っ二つにされた。
戦闘のあとに残されたのは大量の魔物の屍ばかり。
これを片付けるとなると億劫になりもするけど仕方ないと腹を決め、5人の元へと駆け寄っていった。




