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第8話 僕、龍と遭遇するみたい

 野宿を終えた僕たちは、門の前にやってきた。

 昨日の夕方頃に出た門は西側にある。そのため、ただ戻ってくるだけで待ち合わせ場所に到着していた。

 時刻は、日が昇るより少し早い朝焼けの時間帯。

 だけど、あの御者はちゃんと来ていて、門が閉じているのにも関わらず外に出ている。

 どうやって外に出たのか、ではない。

 どうやって昨日のことをとっちめるか、だ。

 その作戦は、既に昨夜のうちに考えておいた。


「じゃあ」


「はい」


 ヴィーナさんと確認し合うと、僕は体内にある魔力を使い、2人に姿隠しの魔法を使う。イメージとしては、ころもを羽織るような感じで。

 そうすると、ヴィーナさんの姿が見えなくなった。ヴィーナさんから見ても、僕の姿が見えなくなっていることだろう。

 とはいえ、探知魔法を使えばすぐにでも居場所がわかる。

 魔力を感知してくれる探知魔法は、ヴィーナさんの手ほどきによって性能が向上し、誰の魔力反応なのかを識別することもできた。

 僕たちのことは見えなくなっているだろうけれど、僕たちから御者は見えている。このままこっそり近づいて行く予定だ。


「あいつらおせぇな……」


 御者がぼそりと呟き、天を仰ぐ。

 既に、僕たちは側まで来ているのだ。いつでも驚かせることができる。

 僕がする嫌がらせは、膝カックンである。突然やられると、本当に尻餅をつきそうになってしまうあれだ。ヴィーナさんにこれをするというと、新しい発見だとか言っていた。

 そして、ヴィーナさんがするのは猫騙しだ。御者の目の前で両手を叩いて音を出し、驚かせるだけのもの。

 それらを同時にするとどんな反応をするのか、とても楽しみだ。

 ヴィーナさんの魔力反応の揺れを確認し、それを合図と認める。

 僕は一拍置いて膝カックンをした。同時に、パンッ、と手を叩く音が聞こえる。


「ぎゃっ!?」


 姿隠しの魔法を解き、御者の前に躍り出た。だけど、御者は尻餅をついてしまい、そのまま後ろに転がる。

 どれだけ驚くんだ、と思いながらも大成功だとほくそ笑んだ。


「あ、あんたら……」


 僕たちを見ると、全てに合点がいったらしい。

 僕とヴィーナさんを交互に睨み付けると、諦めたようにため息を吐き出す。


「はぁ……。たまにいるんだよなぁ、こういう、才能の無駄遣いする奴ら……」


 この世界で魔法は、才能の一つとされているらしい。ということを、座学で教わっていた。

 御者は遠い目をして、御者台に登る。


「ほら、さっさと乗んな。今日は2つも村を越えるんだぞ」


 僕たちは顔を見合わせて、馬車の荷台に入った。怒られたりするかと思ったのだけど、どうやら見当違いだったらしい。


「じゃ、行くぜ」


 御者は、鞭を打って馬を走らせる。

 真っ直ぐ伸びる街道を真っ直ぐに。

 ほぼ直線で結ばれているこの王国の東西に走る街道は、迂回路以外で曲がることがない。いったいいつからできたのか疑問が浮かび上がるほど、街道は整備され、地面は乾いており、雨が降ってもびしょ濡れになったりはしない。

 もちろん、土砂降りの場合なんかは別だけど。


「聞かないんですか?」


 不思議に思い、ついつい問いかける。僕たちがしたことに関して何も言わないというのは、少しばかり気かがりだ。


「何をだよ?」


「何って……僕たちの……」


「ああ、ありゃあびっくりしたな。でも、そんだけだ」


 なぜか。

 僕たちがしてやられていたはずなのに、僕たちが反撃したことで許してやるぞ的な雰囲気が出ている。

 まったくもって、不条理だ。


「そうですか」


「んだ」


 そのとき――唐突に探知魔法が魔物の魔力をキャッチした。


「っ、魔物」


「みたいだね。じゃあ奈緒、よろしく〜」


「ええっ」


 随分とフレンドリーなやり取りを交わし、そして、軽い調子で言われて、荷台から顔を出す。

 ヴィーナさんの態度が軟化したことは良いことだ。とても良いことだ。ぜひお嫁さんにしたい。自然とそう思うほどに惹かれている。だけど、こういうときに丸投げしてきて、尚且つ自分は寝る体制に入るというのはどうかと思うんだ。

 その辺りを、キチンと話し合いたい。


「ていうか、いないんだけど……」


 荷台に出ても、探知魔法の捉える方角には何もいない。探知魔法の範囲は目視できる範囲に絞っているから、見えなければおかしいのだ。

 けれど、実際に魔物の反応は近付いて来ている。それも、ありえない速度。もうすぐにでもこちらと接敵するほどの速さ。


 びゅん、と。

 風切り音が聞こえた。


「まさか……」


 ギギ……、と音が鳴りそうなほど機械じみながら、空を見上げる。

 そこには、悠然と朝焼けの空を飛び回り、巨大な体躯を持つ龍から逃げ回る、一体の飛行型魔物がいた。

 飛行型魔物とは、その名の通り空を飛び回る魔物のことを指す。空を飛んでいるために叩き落とすまでは、剣士や拳士などの前衛は戦えない。

 魔法か弓で叩き落として一気にトドメをさすという戦法をとらないければ倒さないと教わった魔物が。

 僕たちの頭上で、追いかけっこをしていた。

 片や、必死に大空を逃げ回り。

 片や、遊んでいるかの如く。

 圧倒的な力の差が、そこにはある。

 しかも、龍の方は魔力を感じない。

 魔力を使わずに空を飛ぶ龍。それが気になって、身体能力を強化する魔法を使った。

 身体強化ということはつまり、視力を高めることもできる。その目で見た龍は、黄金とまではいかないものの、若干白みがかった黄金の鱗を持ち、優に50mは超えているであろう巨躯を持っている。

 その双眸が、僕を睨んだ。

 けれど、不思議と恐怖は感じない。

 なぜだろう。

 どうしてだろう。

 こんなにも、安心感を抱いている。

 不思議だ。



補足:世界観は1.2章の100年前となります。

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