第2話 僕、部屋に案内されるみたい
「お迎えに上がりました」
その中で、年かさのメイドが一歩前に出た。
国王がシュライズさんを見て、視線で先を促すと、シュライズさんは僕とヴィーナさんを見る。
「では、行きましょう。城内の部屋、それぞれ一部屋ずつの準備が整いましたので」
シュライズさんは「そうだな?」とメイドに確認を取り、しかと頷いているのを確認していた。
僕たちは顔を見合わせて、ヴィーナさんがシュライズさんのあとを追い、彼女のあとを僕がついていく。先頭には年かさのメイドと、もう1人のメイド。最後尾――僕の後ろにも2人のメイドがついてきている。
くねくねと天に昇る龍のような紋様が両開きの両方の扉にあり、その間、扉が合わさるところには剣を直上に突き上げている姿があった。
思わず立ち止まって、その美しさに驚嘆する。
「凄いでしょう? この扉は遥か数万年前からあるみたいなのです」
後ろにいた、僕より小柄の体で胸が自己主張を放つ銀髪の14歳程度の少女が隣に躍り出てきて、自慢するように胸を張った。
「数万……」
よくそれだけ国が続いたものだ。
僕には想像もつかないほど長い歴史があるようで、その歴史がこの美しさを引き出しているのだろう。
僕が見惚れている間に扉は開いて行き、おっかなびっくりしながらそれを通る。平々凡々な僕がこんなところに来られるなんて、思いもしなかった。しかも、異世界で魔法もある。
「先ほどの扉の意味は諸説ありますが、一番有力なのは、私たちの脅威である龍を絶滅させたというものなのです!」
小柄の少女が力説してくれた。
龍はこの世界にいたけれど、もう既にいないこということなら少し残念だ。
相槌を打ちながら、今度は壁を見た。
壁には無数の絵画が並べられていて、一つでいくらするのだろうと思うと腰が引けてしまう。
荘厳な廊下を歩き、階段を上り、ようやく目的地についた。その間、小柄の少女からの力説は止まらなかった。
だけど、鬱陶しいというより、妹のような可愛さがあってたくさんの話をした。この世界のことを教えてもらったり、僕のいた世界を教えたり。
魔法がない世界、と言ったときの驚きようは凄かった。なにせ先頭にいるメイドのリーダーっぽい年嵩の人も驚いていた。
「こちらになります。初雪様はこちらで、ヴィーナ様はこちらへどうぞ」
僕は名字で、ヴィーナさんは名前で呼んでいるのが気になって問いかけると、この世界に日本人のような名前の構成はないことがわかった。
「申し訳ありません。奈緒様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「は、はい」
初めましての人に名前で呼ばれるのもどうかと思ったけれど、家名は数が少なくたまに同じ家名が隣を歩いていることもあるらしい。だから、名前で呼んでいるそう。
「こっちが僕の部屋、か」
「はい」
小柄の少女が返事して、僕の隣に戻ってくる。ついさっきまで、こんこんともう1人いた最後尾のメイドに絞られていたというのに、随分と立ち直りが早い。
しかもそれを後ろから睨みつけるもう1人のメイドがいるのだから、僕は僕で居た堪れなかった。
数日ほど僕の住まう部屋になる部屋の扉は、至ってシンプルではあるけれど、これはこれですごく綺麗だと思う。
「あ、申し遅れました! 奈緒様、私はレイニー、こちらはマユとお呼びください」
後ろにいたメイドが恭しく礼を取ると、隣にいる小柄の少女も同じ行動を取った。小柄の少女はマユで、その上司的な人がレイニーというそうだ。
「中も凄い……」
天蓋付きベッドなんてものが実在するとは思いもしなかったし、キッチンスペースのようなものやお風呂らしきものまである。
中を歩き回って確認したのは、それぞれの機能。
男は機能重視、女は見た目重視という逸話が日本ではあるらしい。
「これからはここが奈緒様のお部屋となります。私たちもご一緒させて頂くことになりますので、何か御入用の際はすぐにでもおしらせください」
「それってつまり、僕の部屋であると同時にレイニーさんとマユの部屋でもあるということですか……?」
「そうなります。私のことはマユと同じように呼び捨てでお願い致します。それと、私どもに敬語は必要ありません」
レイニーさんは見るからに年上で、ヴィーナさんについていった年嵩のメイドの次に年を取っているように見える。
とは言っても、それでも20代前半。銀髪碧眼に委員長タイプの顔付きで、胸は普通くらいで、身長も僕と同じくらい。
僕でも男の中では低い方だし、身長は160cmもないことから、マユの身長の低さが窺える。
レイニーさんに軽く頷いておき、僕は改めて部屋を見た。
1人で過ごすには、あまりにも広い。
ただ3人で過ごすにしては、ベッドが一つしかないし、部屋探検の際に見たクローゼットの中には男物しかなかった。しかも、数着しかない。
数日しか過ごさないのであれば問題ないのだろうけれど、もう少しあった方が見栄えはいいかもしれない。
だけど学園に入って習い事となれば、数日で終わる気がしない。本当に基礎の基礎だけで終わりそうだ。
少し不安を覚えながら2人を連れ回して部屋のあちこちを歩き回っていると、夕食の時間になったらしい。キッチンがあるのは朝食のためで、夕食は国王と食べなければならないとのこと。
早速の難問に、僕は胃が痛い気持ちを抑えることが出来ないでいた。




