第25話 俺、繰り返す②
「それはできない。特殊な訓練を受けた者のみで構成される精鋭部隊だから」
立川首相は興味を失くしたように、椅子をくるりとかいてんさせた。
「特殊な訓練を受けた? 違いますよね。予め周到に準備していたゲームのプレイヤーを、彼らの知らない間に訓練をさせた、の間違いでしょう」
少し苛立ち、声を若干荒げる。
隣にいる立川がそわそわしながら、俺と立川首相を交互に見つめていた。
「物は言い様だ。しかし、いまさら軍に入ったところでどうともできない。
確か奈緒くんは全ゲーム中でもトップレベルの実力を持っている。そこから推測するに、間違いなく最終防衛線、月の軌道上に配置されるだろう。
最も戦いが遠く、安全な場所。それがそこだ。明後日には地球も、大半の国がなくなるのだろう?」
言外に、自分もそこへ行きたいと言っているようだ。
胸の内からふつふつと怒りが湧き出てくる。
もし仮に一番安全な場所に配置されていたとしても、これまでも同じなはずだから、結果だけは変わらないはずだ。
経緯だけは変わろうと、それだけは変わらない。
必ず、何者かに殺害されてしまう。
……これを、なんて言うんだったかな。
「とにかく、来希くんを送ることは日本の首相では不可能だ。そろそろ切るよ。戦いが終わってお互い無事だったら、また話そう」
戦いが終わる――それは地球の滅亡を意味していると理解しての発言だろうか。
「……はい」
返事すると、画面がブラックアウトした。
「立川、話せただけでもよかった。ありがとう」
そろ〜りと部屋を出て行こうとする立川に感謝の言葉を送ると、気配が震える。
バレていないとでも思ったのか?
俺程度にもなれば、見なくても、魔法を使わなくても感じられる。
立川はまだ、その領域に入っていないということだろう。
「い、いえっ。お力になれず、すみませんでした!」
「もう、帰っていいぞ」
「はいっ」
立川は一瞬で龍気を操り、転移した。気配がふっと消え去り、この自宅には俺1人となる。
広い。
1人でいるには広すぎる家だ。
つい先日までは、奈緒も優花も双子も、全員で過ごしていた場所。
「はぁ……」
知らず知らずのうちにため息が溢れる。
何度も、何度も、何度も――。
だけど、あの日常は戻ってこない。奈緒を助けなければ、帰ってくることのない日常。
この非日常がいつまで続くのかと思うと、自然と涙が溢れてきた。
涙を流したのはいつ以来かすらわからない。
それほど、今日までの日々で悲しいことはなかった。
悲しくても、泣くほどのことでもないようなことばかり。だけどそれらが積み重なって、他のものも積み重なって。
あの頃が懐かしい。
戻りたい。
だけど、戻れない。
今回もきっと、無理だ。
「……次に行こう」
ふらふらしながらも、神気を練り上げる。
刹那、神の世界に転移した。
そこは、時間の神以外には誰1人としておらず、その時間の神も寝ているのか、瞳を閉じている……ように見える。
いかんせん大きいため、開いているかどうかも判断が難しい。
だが、殺気や神たちかいないたけでこれほど印象が変わるとは。
様々な色が織り交ぜられた部屋のように見えていた神の世界は、神たちが大きく色がそれぞれで違っていたために見えたものだろう。
いまは、真っ白な世界。
純白というには、少し濁っている。
だが、灰色とも呼ばない。
そんな、白の世界だ。
「時間の神」
声をかけると、少し身じろぎをする。
だけど、起きることはなかった。
「……これ、俺は立ってるのか?」
時間の神が身じろぎをしたときに不思議に思ったのが、これだけ大きな人が動いたのにも関わらず、揺れなかったこと。
「……ここは……明確な足場はない」
つんざくような声がしてふと顔を上げた。
その視線の先で、時間の神はニヒルと笑みを浮かべている。




