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第24話 俺、繰り返す

 もはやお馴染みとなった、殺気の嵐。

 全身を襲う威圧はすぐに収まり、息苦しさもなくなった。

 目の前には時間の神と空間の神がいて、その向こうには複数の神とよくわからない人型の女、そして奈緒が転がっている。

 これまでよく考えなかったが、なぜ奈緒がここにいるのか、考えてみれば不思議なことだ。それに、前世の姿で。


「時間の神……一つ、聞きたいことがある」


「……なんだ?」


 相変わらずの甲高い声と口の形と音声が合わない現象が、不思議と俺の心を落ち着かせる。


「あそこに転がっているのは、奈緒か?」


「……そうだ。だが既に手遅れ。さぁ、もう一度繰り返すのだろう?」


 手遅れ、か。

 奈緒、絶対に救うから。

 見ててくれよ。


「――頼む」


「……行くぞ」


 準備は既に完了していたのか、時間の神はすぐに時間を巻き戻した。

 意識が埋没し、覚醒の時を待つ。

 今度は、失敗しないと心に決めて。



「ぱぱー! どーんっ」


 優花の元気な声とともに、重量物が腹の上に落ちてきた。

 ぐふぅ、と声と空気が吐き出され、苦しみを味わう。

 誰だよ、と思いながら目をこすって見てみると、そこには優花がいた。


「優花……おはよう」


「ん!」


「来希、おはよ」


 優花を抱き上げながら立ち上がり、頭を撫でているとリビングの方から奈緒が出てくる。

 なぜこの2人が同時に起きているんだ? と思いつつ、おとなしくそれに従う。


「優花、いまから大事な話をするから、よく聞いて」


「……まま?」


 リビングには朝食が用意されていた。

 念のため時計を確認すると、既に7時を回っている。

 席に着いた俺たちを見て、奈緒も席に座ると同時にぽつぽつと説明を始めた。その説明は、宇宙軍に行かないといけないことと、しばらく帰って来られないということをしている。


「まま、帰って来ないの……?」


 瞳を潤わせた優花を見て、奈緒は慌てふためいた。


「ち、違うよ。ちゃんと帰ってくるけど、その……そう、ぱぱの出張と同じようなものだよ」


 やっぱり、その説明が一番楽だよな。

 おかしなことに関心しながらも、優花の頭を撫でて泣きそうな顔をする彼女を宥める。


「しゅっちょー……ん」


 奈緒の言葉に安心したのか、朝食を食べ始めた。俺と奈緒もそれに手をつけ、時折優花の食事の手伝いをする。

 だが、下手に手伝うと、1人でできるもん! と言って不貞腐れてしまうため、注意が必要だ。


「それじゃ、行ってくるよ。来希」


「まま、いってらっしゃい!」


 優花が元気よく奈緒を送り出す。

 反面、俺は無言で頷いてみせた。

 もう止めはしない。止めたら、操られた零によって殺されるのだ。


「ぱぱ、泣いてるの?」


「ん?」


 奈緒が出て行き、優花が俺を見上げたとき、俺は泣いていたらしい。頬を伝う暖かな感触を、目線を合わせた優花が拭き取る。


「ありがとうな、優花」


「えへへ」


 優花が天使の笑顔を見せた。

 ずっと、この顔を見ていたい。

 泣かせるようなことはしたくない。


 俺は次なる行動を起こすため、母さんに優花を預けた。

 母さんは不思議がっていたけど、何も聞かずに受け入れてくれたし、ご飯の話をすると優花も簡単に預けられてくれた。

 俺はといえば、現在はあの会議を開いている。

 それはもう終わりを迎えて、解散のとき。


「立川、ちょっと話がある。ついてきてくれるか?」


「え? ええ。まぁ、いいですけど」


「よし、じゃあ転移するから手を出せ」


「はい」


 立川の手を掴み、実家ではなく自宅の方に転移すると、立川は感極まったような声をあげた。


「〜〜っ! ここはまさかっ神聖なる区域ではありませんか!? 鈴木さんのご自宅では! ああ、この香り……ほんの数時間前まではいたかのような……」


 俺は内心、引いた。

 こいつが奈緒に心酔していたのは知っているが、ここまでとは思わないだろう。

 頭にチョップを入れて正気に戻すと、本来の目的を思い出したようだ。


「それで、なんでしょう?」


「お前に頼みがある。……いや、お前じゃないな。頼みがあるのはお前の父。首相に頼みたいことがある。それも、今後の奈緒に関して」


 立川は面倒臭いという顔をしていたが、最後の言葉を聞いて心機一転させたのかすぐに頷いてみせる。


「わかりました! そういうことなら渡りをつけましょう!」


 そう言って、立川はすぐに連絡を取ってくれた。

 時間はいつでもいいと伝えておくと、いま直接話せることとなった。


「いまでいいのか?」


「いいみたいですよ。番号教えますね」


「いや、知ってるからいい」


「ええっ!? ならどうして俺を……」


「人に頼みごとをするのに、突然電話をかけたら失礼だろ。アポイントを取りたかっただけだ」


「ああ、なるほどそういう……」


 納得しかけた立川はすぐに首を捻り、何か疑問に思っているように見える。

 そんな奴は放置して、俺は早速とばかりに立川首相と通話を始めた。


「お久しぶりです。立川さん」


「ああ、久しぶりだね。それで早速で悪いが、用件を聞こう。生憎時間はなくてね」


「わかりました。ではまず――」


 そう言い、前回までと同様のアメリカにも説明することを言ってから本題に入った。


「そうか。情報提供、感謝する。では……」


「ちょっと待ってください。ここから、個人的な頼みがあるんです」


「個人的な、頼み?」


「はい」


 画面越しに立川首相と目を合わせ、決して逸らさない。

 ここで逸らせば頼みを聞いてくれなくなるかもしれないのだ。


「……わかった。いいだろう。言って見なさい」


「ありがとうございます。……俺を、宇宙軍に入れてください。できれば奈緒と一緒の部隊で」



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