第4話 僕、ホテルの部屋に案内されるみたい
全国チェーン高級ホテルである、ホテルサンライズ。
150階まである高層ホテルでもあり、温泉、卓球、カラオケなど、入浴施設や娯楽施設も整っている。
中でも130階より上はランクが一つ違い、通常一泊13万円のところ、57万円もする。
それが1人の値段であり、尚且つ、それより上のランクの部屋もある。
最上階にたった3部屋しかないもので、富士山観光に来る世界のVIPが宿泊するするようなところだ。
その部屋は1泊100万円とかいう馬鹿げた金額で、まず初めに浮かぶのが、勿体無いという言葉。
しかも、ここは静岡である。
日本国民なら、富士山以外に何も思い浮かばないであろう静岡。
そんなところにそんなものがあって、果たして需要があるのか。
僕は首を傾げながら、来希と一緒に受付に向かった。
「ようこそ、ホテルサンライズへ。本日はどのようなご予定ですか?」
受付のお姉さんが微笑を浮かべる。
こういう接客業の人は、頬の筋肉がつったりしないのか、いつも不思議に思っている。
「宿泊で」
来希がそう答えると、受付のお姉さんは何もないところをタップして、何かを操作した後、シュッと僕たちの方はスライドさせるように、指を滑らせた。
「へぁ!?」
突然目の前に画面が現れ、驚く。
対して、来希は平然としていた。
受付のお姉さんが僕を見て「うふふ」と笑う。
「うーん、どれにするか迷うなぁ」
画面を見て唸る来希。
僕も背伸びして画面を覗こうとすると、受付のお姉さんがもう1画面同じものを出してくれた。
「あの、ありがとうございます」
この人には、僕たちのことはどう映っているのかな。
視線を画面に移し、内容を確認して行くと、ホテル前でみたものよりも詳しく宿泊プランが書かれていた。
「奈緒はどうしたい?」
「んーっと、温泉は……その」
今でも、他人の女性の裸を見るのはこちらも恥ずかしいし、悪いことをしている気分になるのだ。
そのことを察したのか、来希は画面に触れて操作する。
「飯はバイキングか、部屋かどっちがいい?」
「どっちでもいいよ」
バイキングは何種類も食べられるけれど、今の僕はそれほど食べられない。なら、部屋に持ってきてもらうほうがいいのだけど、バイキングに興味がないわけではない。
「っていうか、予約してたんじゃないの?」
そう問いかけると、来希はハッとした。
「あっ、そういやそうだったな。いや〜、ついうっかり」
無言で来希を睨む。
すると、視線をすいーっと受付のお姉さんの方は逃した。
「えぇと、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
受付のお姉さんも、来希に若干腹を立てているらしい。声色が優しくなくて、ちょっと怖い感じになっている。
「あ、すみません。坂上来希です」
来希の名字を聞いて、驚いた表情を作るお姉さん。
「で、ではご案内させていただきますね。こちらへ」
どうやら、受付のお姉さんが直々に案内してくれるらしい。
僕たちはついていき、エレベーターに乗り込んだ。
そして、お姉さんが70階のところをタップする。
このエレベーターは、70階までしか表示されていないのだ。
「安全上の理由で、70階で乗り換え、129階に行きます。130階へは、階段で行きますのでご了承ください」
そう説明され、ホテル前で調べた情報を擦り合わせて見ると、1泊57万円以上する階に行こうというのがわかった。
正直、混乱している。
そうしている内に乗り換えも済んでしまい、階段も終えて、もう一度エレベーターに乗りこんだ。
そして、お姉さんの手が伸びる先にあるのは……。
……まさか最上階!?
受付のお姉さんがタップしたのは、149階だった。
僕は心の底から安堵のため息を吐き出す。
「ん?どうかしたか?」
「……何もないよ」
素っ気なく返事すると、来希は興味をなくしたようにエレベーターの到着を待った。
エレベーターが到着のベルを鳴らす。
僕、来希、お姉さんの順で降りると、お姉さんが前に出て案内をし始めた。
「こちらへ」
そして、またエレベーターの中に入る。
……あれ?
エレベーターが上がり、150階を通り過ぎる。
そして、着いたのは151階。
そう言えば、何もボタンのようなものをタップしていなかった。
「こちらになります」
そう言って見せられたのは、1フロア貸切状態の部屋の数々。
流石の僕も、感情を抑えきれない。
「あの、来希?これってどういうこと?」
不安で押しつぶされそうになる。
最上階とされている150階で100万円なのだ。
151階なんてシークレットルーム、150万とか、そんな値段なんじゃないだろうか。
「ああ、ここは財閥が買収した企業の一つでな。フリーパスだ」
僕は、時が止まるのを錯覚した。




