第7話 僕、決勝戦に臨むみたい②
正面からオレンジさんが迫り、真下からは仙人が迫る。その状況下でなお、僕は落ち着いていた。
仙人の方は気にせず、僕はオレンジさんに対応する。
彼が肉薄し、片手剣を横薙ぎに一振り。白樹刀の刃で正面から受け止め、瞬時にかがみこみながら刀身をそらしていく。白樹刀の刃を滑り、片手剣が空を斬り裂いた。
真下からの襲撃は来ず、少し離れたところで、遠くから放たれるフォックスさんの射撃に悪戦苦闘しているようだ。縦横無尽に動き回り、見えない射手からの攻撃を危なげなく躱している。
それを確認して、あちらは大丈夫だと判断し、オレンジさんに集中する。
『えげつねぇな……。やっぱりフォックスの野郎は頭おかしいぜ』
2人の攻防を見て呟きを零す。
構えを解いているため、隙がありまくりだ。
白樹刀を握る手に力を込め、オレンジさんへ瞬時に最接近し、白樹刀を上段から降り振り下ろす。
『っぶねぇ……!』
キン、と金属音が鳴り、白樹刀が止められる。けれど、僕は両手でオレンジさんは片手だ。その差は大きい。特に、筋力の差などがない、単純な性能差によるロボットの戦いにおいては。
バランス型のオレンジさんは、僕と同じ攻撃力。――ではない。
僕には白樹刀による攻撃力アップなんかも付与されているのだ。腕の出力をあげ、片手剣を弾き飛ばす。
この大会では、全力で戦ったことはない。
フォックスさんにほとんど倒されたから、というのもあるけれど、実力を出し切る相手がいなかったという理由もあった。
だけど、今はそれほど余裕があるときではない。
それに、いつまでも遠距離狙撃を続けられるものではないだろう。このゲーム、変なところでリアルなので、銃弾に限りがあるのだ。あまり撃ち続けるのは得策と言えない。
フォックスさんを楽にしてあげる。
僕の役目は、一刻も早くオレンジさんを仕留め、仙人を追い詰めて行くことだ。
『んなっ』
片手剣が弾き飛んだのを見て驚いた声を上げる。
オレンジさんのがら空きの横腹に、弾き飛ばした勢いをそのままに蹴りを放つ。
『だから、それありかよっ!』
勢いよく吹き飛び、オレンジさんは無数にある小惑星の1つに激突した。
その彼に、僕は止めを刺すべく一気に距離を詰め、突きを放つ。本来、刀は斬るものであり、突くものではない。だけど、突くという戦法を使えないというわけでもない。
先が鋭利であれば、突きは出来るのだ。
コックピットのある左胸に狙い定め、突いた。
けれど、若干位置をずらされてしまい、HPを削るにとどまる。本当なら、これで仕留めたかったのだけど、そう簡単にはいかないみたいだ。
『――行くよ』
今度こそ、必ず仕留める。
目を細め、コックピット内から彼の姿を改める。
蹴りが二発、突きが一度。
これだけやってもまだ、HPが余っている。
HPが上がる装備をしている可能性が高く、もう少し斬る必要がありそうだ。
でも、相手に片手剣はもうない。近距離攻撃に耐えうるだけの装備が既にないのだ。
オレンジさんの機体の左腕をかすめた突きの状態から、刃を横に向けて左のブースターを逆噴射させる。
勢いよくオレンジさんを真っ二つにするかと思われた斬撃は――否、機体と白樹刀の間にハンドガンを滑り込ませ、食い止められた。
ハンドガンの背で受け止めたオレンジさんは僕に対して蹴りを放つ。
当たるわけもなく、瞬時に後方へ下がった僕には掠りすらしない。
――そろそろ終わりだ。
ハンドガンも使い物にならない。
片手剣はなく、機体もボロボロ。
対して僕は、無傷。
負ける要素がない。
オレンジさんに上段から斬りかかった。
それは容易く躱されたけれど、それは織り込み済み!
僕の狙いは斬り返しの、下段からの斬り上げ。
機体に命中し、白樹刀が食い込む。
そのまま勢いを乗せ、斬り裂いた。
『まずは1人……!』
次は仙人だ。
カーソルを探して見ると、フォックスさんの方へ向かっていた。
フォックスさんも接近戦が多少は出来るとは言え、仙人に勝てるほどではない。あくまでも、遠距離狙撃での最強角がフォックスさんなのだ。
僕は大急ぎでフォックスさんの元へ向かう。
早く、速く。
そう念じても、僕と仙人の速度は同じであり、距離が元々開いていたため、フォックスさんの元へ先に到達したのは仙人だ。
仙人がフォックスさんに斬りかかる様子を見ながら、フォックスさんがこちらを向いているのを見た。
大方、速く来てくれ! とでも言っているのだろう。
もしかしたら、邪魔をするな! と言っているのかもしれないけれど。
だけど、僕は散々、フォックスさんに獲物を取られている。今更遠慮する必要もない。
ただ、防御型であるフォックスさんは長く耐えられる。隙をつき、徐々に仙人に攻撃を当てて行けば、もしかしたら勝てる。
と、そんなことを考えている間に2人の元へ到着した。
背後から、仙人のコックピットがある左胸を突き刺す。
そのまま右に白樹刀を振り、機体を斬った。
数瞬置いて、仙人の機体が爆散する。
【勝者、《Foxtar》《Ristelia》タッグ】
勝敗の決着を告げるアナウンスが入り、僕とフォックスさんは強制転移する。
待機エリアではなく、観戦エリアだ。
僕たちは観戦していた人たちにもまれながらも、オレンジさんと仙人、3位決定戦で勝利をおさめたらしいライドさんとインピさんたちにも祝われ、なんだかむず痒い気持ちになった。
【結果発表を行います。
優勝《Foxtar》《Ristelia》
準優勝《Senjin》《Oreng》
準準優勝《Lied》《Inpe》
となります。
上位3位に入賞した方には、勲章が与えられます。また、それとは別に賞金をリアルマネーにて用意させていただきました。
詳しくは運営メッセージをご確認ください。
それでは、これを持ちまして、国内ランキング決定タッグトーナメント大会を終了します。
たくさんの方々に参加していただき、ありがとうございました】
最後に運営からの全体メッセージが流れ、大会は終了した。
僕はどんちゃん騒ぎの中、ログアウトするために1人にしてもらう。
落ちる前に、運営から届いたばかりのメッセージを表示した。
【《Ristelia》様、この度は優勝おめでとうございます。
大会報酬として、二つ贈らせていただくことになりました。
勲章:世界連合宇宙軍・日本連隊大将
賞金:¥1000000 】
0が1、2、3……。
「100万円!?」
思わず声を張り上げてしまい、慌てて口を塞ぐ。
というか、勲章がやけに仰々しい。
というか、本当にこんな大金もらえるの? え? ゲームだよね? これ、ゲームだよね?




