第5話 僕、決勝進出するみたい
準々決勝が始まった。
相手はディスタントメモリーの上位5位に入るという【Eram】と【Okumura】という2人だ。
カウントが0になってすぐに攻めるようなことはせず、フォックスさんとの事前の打ち合わせにより、待ち受け作戦となっている。
これだけ強い相手の場合だと、流石にこの距離では当てられないらしい。
やっぱり、僕以外にも見ずに躱せる人がいるじゃないか。
そう言うと、そういう意味じゃないと言われて、動き回るから無理なんだと言われた。
確かに、上級者ほど狙撃は注意している。
相手にフォックスさんがいるとなれば、警戒度は最大限に引き上げられているはずだ。
それに加えて、国対抗戦で、1人で戦況をひっくり返した僕がいるのだ。
突っ込んでくるかもしれないと警戒しながら、狙撃にも警戒しなければならない。
そんな神経のすり減る戦いはしたくない。
「リステリア、そろそろ行っていいぞ」
「了解っ」
僕は僕で、待ち受けに慣れていないから、ずっとそわそわしていた。予め決めておいた、どの程度待っても来なければこちらから攻める、という時間が経過したのだ。
斜め右前にあった小惑星群に身を潜めながら、僕はずんずん突き進んでいく。
敵カーソルはこの小惑星群を抜けた先を示していて、もうすぐ遭遇するはず。
視界に一瞬、何かが見えた。
小惑星群の小惑星や彗星の類ではなく、明らかにロボットのようなもの。
ここで真っ直ぐに突っ込むのは、愚かな行為だ。
進路を変更し、隠れた先、逃げた先へ追いかける。
そうして10秒くらい経ったか、敵の姿を捉えた。
白樹刀の柄に手をかけ、居合の動作に入る。
小惑星の陰に隠れているけれど、少し見えている。
わざわざ敵の背後に回り込む必要もない。ただ、小惑星ごと叩き斬ればいいだけなのだ。
すれ違いざまに一閃。
小惑星は綺麗な断面を残して二つに別れ、機体を斬った感触がなかったため不審に思う。
振り返ってみると、その場で停止していた僕に向けて長剣が振り下ろされた。
黒色をしていることから、白の武器のワンランク下の黒の武器だろう。
「喰らえぇ!」
エラムさんが雄叫びをあげ、僕は回避行動に移る。
だけど、遅かったみたいだ。
左腕が半ばほどで斬られてしまい、左腕の肘から先がどこか遠くに飛んで行った。
HPゲージが半分ほど減り、僕はムッとする。
すぐさま右手で刀を構えなおし、下段から振り上げて黒の武器を弾き飛ばそうとした時、僕たちの間を一つの弾丸が通り抜けた。
急制動をかけ、そちらに意識を持っていかれる。
弾丸の先には、カーソルしか見えていないけれどもう1人の敵、おくむらさんがいるはずなのだ。
直後、爆砕音が盛大に響き渡り、視界右上に表示されていたおくむらさんの表示が光を失う。
ハッと我に帰り、エラムさんに向き直ると呆然としていた。
それほど、見つかりにくいところにいたのだろうか。
チャンスと思いながら、フォックスさんに助けられたことに不甲斐なさを感じつつ、左のブースターをフルスロットルで噴射し、右のブースターは逆噴射させる。
右回転のエネルギー得た僕の機体は、その回転力を以って、水平に構えていた白樹刀がエラムさんの機体を斬り裂いた。
流石に胴体が斬り裂かれては戦闘を継続できないので、すぐに爆散する。
試合終了のアナウンスが入り、僕たちは強制転移する。
「フォックスさん、ありがとう」
「ああ、もう油断するなよ」
「はい……」
今回、敵が強いとわかっていたのに油断してしまっていた。
唯一受けたあの攻撃も、以前であれば回避できていただろう。
反省しながら、準決勝に思いを馳せる。
けれど、準決勝は相性の問題ですぐに終わった。
敵は2人ともバランス型で、スピード特化、火力特化の僕とフォックスさんの前では、無力だった。
バランス型はどちらでもフォローに入れるけれど、特化型との対戦では苦戦することが多い。
よくここまで勝ち進んできたものだ、と思って名前を確認すると、トゥルーオレンジとサムライマーシーの3番目に強いと言われる2人で、違うクラン同士のコンビだった。
刀を使っていれば何型というのは関係ないのかな?
防御型やバランス型の刀なんて、使い道がなさそうだけど。
そうして、僕たちは決勝に駒を進めた。




