第23話 僕、ラストライブを終えるみたい
ライブが終わり、観客が物販とかを買いに行って、会場内は静まりかえっている。
会場の外では人がごった返しているだろうけれど、僕たちが帰るのはまだ後だ。
ただ、高校生ということがあって22時には会場を出ないといけないらしい。
「みんな、ありがとう……!物凄く嬉しいよ!」
緋室さんのテンションが、ライブ終わりで体を癒したい僕たちにとって、鬱陶しいと思わざるを得ないほど高かった。
最後のプレゼント、気に入ってもらえたとは言え、これではヘイトが溜まるだけ。
「緋室さん、よかったですね」
そんな中、後藤さんが近くに来る。
後片付けの指示とかを出していたらしく、しばらく姿を見なかった。
「後藤さん!あのこと知ってたんですね。いやぁ〜、私は幸せ者です」
僕たちが相手しないからか、後藤さんに突っかかりに行く。
後藤さんは苦笑いで緋室さんの話を聞き流す。……これが大人の力なのか。
いや、違うよね。
それから落ち着いて来た頃合いを見計らい、会場の設営スタッフさんたちに僕たちは、
『ありがとうございました!』
と言うと、会場を後にした。
今日は緋室さんが、それぞれの自宅に車で送ってくれるらしく、僕たちはお言葉に甘えていた。これだけ動いた後に電車移動など、ただの拷問である。
ちなみに僕は、寮に送ってもらった。深夜外出届を出しているから、問題なく校内に入って、真央はおばちゃんの家なので、1人部屋となった寮の部屋で寛ぐ。
そして、月曜日の次の日。
絆driveはもう一度集まっていた。
これが本当に最後の集まりだ。
「それじゃ、ここにこれまでの衣装とか、小道具とかあるから、好きなだけ持っていっていいよ」
基本、衣装は着回ししない。
毎回衣装を変えないとお客さんの盛り上がりが欠けるし、別の人にお下がりを渡す、というのもあり得ない。
緋室さんに言われて、僕たちはそれぞれが使ったことのある道具の中で、特に思い出深いものをもらっていく。
道具に関しては、使い回しが効くため、数多く持ち出すと緋室さんが可哀想だ。
時間は昼の12時手前。
選別を終えると、持って来たキャリーケースなんかに詰め込んでいく。僕も、みんなの前で空間に収納するところを見せられないため、大きめのバッグを持って来ていた。
「緋室さん、最後に打ち上げしましょう!」
提案して見たものの、どこで食べるかとか、何も決まっていない。
「そうだね。どこにする?」
緋室さんは儚げに笑う。
「私焼肉がいい!」
「えぇ、柚、服に匂いついちゃうよ?」
「いいじゃん!最後なんだよ」
「そうだけど〜っ」
「じゃあ決まり!焼肉に決定!」
僕たちが口を挟む間もなく、柚と彩華がどこに店にするのか、次々と決めていく。
微笑ましい光景だ。
「テンカルビに行こう!」
と、柚が勢いよく拳を突き上げる。
そのまま異論は誰もなかったようで、無事に行き先が決まった。
焼肉全国チェーン店のテンカルビ。
僕は赤みとかより、塩タンとかミノとか、そういうのが好きだ。特に豚トロは最高で、でもここの豚トロはそれほど美味しくない。
以前、豚トロ一皿、僕以外に食べる人がいなくて、辛かった記憶がある。ここではもう頼まないと心に刻んだ。
柚はステーキのような大きな肉が好きで、彩華はサイコロステーキといった、一口サイズのものが好き。
愛花はライブの時とは打って変わって無口だけど、1番食べている。なんでも食べるとはこのことだ。
彩乃は少食……というより、焼肉自体苦手なのかもしれない。あまり箸が進んでおらず、少し気になる。
緋室さんに関しては、さすが大人の男だ。僕たちよりも食べる量が多く、なんでも口に放り入れていく。極め付けは石焼ビビンパ。僕も、前世だと食べられた量。それが久しぶりに、羨ましく感じた。
たまに周囲の客に噂されながらも、楽しい焼肉の時間が終わる。
「じゃあ、帰ろうか」
「……はい」
もうこれで、緋室さんと会うことは滅多にないだろう。
僕たちも、自然と暗くなる。
「ほら、行くよ。私にこれからそれぞれの道を行く君たちへの餞別をさせてくれ」
そう言われ、ハッとする。
今日は緋室さんの分も、僕たちが割り勘して支払う予定なのだ。
これは彼へのお礼なのだから。
緋室さんがお会計のデータを腕時計型携帯電話に記録する直前に、僕の腕が滑り込む。
「あ、危なかったぁ」
「ナイス奈緒!さすが!」
間一髪のところで割り込みに成功し、お会計が僕の端末に表示された。
よし。
「鈴木さん?」
「いいですから、今日は緋室さんが奢られる番です」
手を引いて立ち上がらせ、僕たちはレジに向かった。
レジといっても、この時代、人はいない。
何人で割るかの選択画面に映ると、5人と入力する。
僕たちは順番に端末をかざしていき、会計を済ませた。
「本当に良かったの?」
「はい。僕たち、これでも結構稼いでるんですから」
それは緋室さんが1番知っているはずだ。
僕たちをプロデュースしたのは彼なのだから。
と言っても、これまでに手元に入ったのは100万辺りだ。
まぁ、練習量とか、仕事量に比べると低いかもしれないけれど、仕方ない。
けれど、これは人気じゃないアイドルと比べれば、結構儲かっている。
そう思うことにして、僕たちは納得していた。




