第6話 僕、コンドームは忘れないみたい
昼からはゆっくり、柔軟体操をしてダンスでの疲れをほぐしながら、シャワーも一度浴びておく。
15時に来希との待ち合わせがあり、場所は駅前。駅までは徒歩で15分ほどである。そのため、若干離れているけれど、歩いて行けない距離ではない、と言った感じだ。
14時半を目途に寮を出ることにしていたので、14時になった今、ようやく行く準備を始める。
「え~っと、今日泊まって明日の夜に帰るから……お風呂は入って帰りたいなぁ。パジャマと、着替えと、外に出られるパジャマかな?」
そう思い、まず一番大切なパンツとブラジャーを入れる。睡眠用と、日中用だ。日中用は一つで、睡眠用は二つである。とは言え、睡眠用と日中用で分けるのはブラジャーだけのため、それほどかさばらない。……パンツが増えたところで変わらないか。
「服は、どうしようかな。寝るときは……今日は猫の気分だから猫の着ぐるみかな?」
僕のタンスの中には、犬、猫、熊、狸、鹿、ペンギン、ライオンの着ぐるみが一着ずつある。着ぐるみとは言っても、そんなしっかりとした作りの着ぐるみなどではなく、寝る時に使用できるように、薄い素材で出来ており、顔も普通に露出しているフード付きのパジャマ。
パジャマじゃなくても、普通に外で歩けるとは思うけれど……。
これがまた、もこもこしていて気持ちがいい。癖になる、と言えばいいのだろうか。
「明日は何の気分かわからないし、って、帰りもこれで帰るつもりなのか、僕は」
ん~……、と悩みながらも、やはりこの着ぐるみのようなパジャマは便利だ。というより、これ以外のパジャマは持っていない。つまり、帰ってくるときはしっかりおしゃれの服装になってしまうということ。
そんなの、耐えられない。もっとだぼっとして楽な、そう、このパジャマのような服装をしたい。
「よし、明日は鹿にしよう!」
そうと決まれば、空間に収納していく。これは持ってくるときにも、空間に収納し、真央の目を盗んでタンスに仕舞っていた。
「あ、そう言えば今って寒いよね」
なら、冬対策として購入した着る毛布も持っていこう。今年の冬はまだあまり使っていない。というか、購入した時期からして季節外れであり、着る機会が今までなかった。
どの道、ほとんど手ぶら状態で行くのだから、荷物が増えても問題は無い。
「次は、明日の服かぁ」
今着ているものはワンピースにしている。髪色は魔王の力を全面に出して、真っ黒けにしてあるから、清純派の印象を持たせるために真っ白のものだ。ただ、外に出たらコートを羽織る。
髪は、異世界に召喚されるより以前にインターネットで見た、2016年に興行収入150億円越えの大ヒットをしたという「君の○は。」の作品で出てくる女の子の真似をしている。この髪型はとても可愛らしいのだ。
ちなみに、その作品はどうも、歴代9位らしい。上位10位までは視聴したのだ。
あれは、何も考えずにみたら感動出来るけれど、そうでないなら、つまらないと感じる人も多いだろう。あの時代の人がどう思うかはわからないけれど、僕はそう思った。
ともかく、そんなこんなで、僕は明日の服装を決定する。
やはり、僕はスカートが好きだ。
男だとズボンばかりはかないといけなかったけれど、女の子になったのだから、スカートを穿くべき。そう思う。
そして、明日着るのは太もも辺りが露出する、フリルのついたミニスカート。更にニーハイもつけておく。これで完璧だ。とは言え、こちらもまた、コートで隠れることになる。
だからこそ、多少恥ずかしい恰好でも可能ということだ。
「あと必要な物は」
何だったかな。
何か、大切なものを忘れているような気がする。
「えっと~、なんだっけ。忘れちゃった~!」
絶対に必要だ! というものをすっかり忘れてしまった。どうしても思い出せないし、無理に思い出そうとするのは脳に負担がかかり、あまり良いことではないと聞いたことがある。
思い出すのは諦めることにし、自然に思い浮かぶのを待つことにした。
「それ以外は、何もないかな。たぶん」
着替えは入れたし、買い物は腕時計型携帯電話でどうにでもなる。MRのICカードは収納してあるから、いつでも取り出せる。ポケットに入れていた振りをすればいい。
「僕、完全な手ぶらだね。何も知らない人からみたら」
せめて小さめのバッグくらいは必要かもしれない。
そう思い、お気に入りのバッグを取り出す。もちろん、タンスの中から。
「う~ん、でも、邪魔かな」
けれど、やっぱり僕は手ぶらが好きだ。
どうしよう?
「もう、いいかな。……でも」
その後数分悩んだ末に、持っていくことにした。
バッグは青色で、シンプルだけど、おしゃれなもの。入り口はチャックで、肩から提げるものだけど、肩にかけるの方が近いかもしれないバッグ。
なんと言えばいいのかわからないけれど、バッグだ。うん。
「む」
腕時計型携帯電話のアラームが鳴る気配がし、身構える。すると、1秒も経たない内になり始めたため、速攻でタップして消した。
時間を見れば、14時30分。もうそろそろ向かい始めなければ、間に合わない。何といっても、森の中を突っ切ってたとしても、校門までは10分かかる。そこから最寄り駅まで15分なのだ。割と遠い。もっと近くに駅が欲しい。
地下鉄ならもっと近いのに。
「はぁ。頑張ろう」
ため息を吐きだして、気合を入れなおす。
既に寮の部屋は出ており、荷物も全て入れてあるはず。
いざ出発しようとした時、ふと思い出した。
「あ、そうだ。コンドーム忘れてたんだ」
慌てて部屋に戻り、コンドームを枕下から取り出すと、収納する。
次からするときはちゃんと避妊しないと、妊娠してしまう。神様直々に注意されているのに、対策しない人はいない。
別に、やりたいとか、そういうことじゃない。そう、もし、来希から迫ってきた時に来希が持っていなかったら、僕が代わりに持ち出すしかない。
買う時は非常に恥ずかしかったので、是非とも避妊はしていただきたいと思う。
そんな、ごく当たり前の心配をしながら、足早に駅へ向かった。




