第5話 僕、ハンバーグを作るみたい
少し片付けてくるから、と言って扉の外で翔太を待たせ、部屋の中に入る。覗き穴から様子見すると、そわそわと落ち着かなそうにしていた。
部屋は二つあり、リビングとキッチンを合わせた方だけなら、真央の私物もないため、入れても問題ないだろう。部屋の間のスライドドアを、ここに入ってから初めて閉めた。相当な時間が経っているのに、問題なく動いたことに安堵する。
もう一度、リビングとキッチンを確認し、僕と真央のものが転がっていないことを確認した。もちろん、食器などはまた別の話だ。
扉は自動ロックであるため、鍵を持っていない翔太では開けることが出来ない。
玄関まで行き、扉を開けると、待ちわびたように、恐る恐る「大丈夫か?」と問われる。
問題ない、と頷き、翔太を部屋の中に入れた。物珍し気に玄関周りを見ながら、
「俺らとほぼ一緒だな……」
と呟く。
扉が自動ロックされたのを確認してから、翔太を奥へ案内する。ちなみに、スリッパは玄関で脱いでもらった。
「ここが奈緒の部屋……」
「真央の部屋でもあるけどね」
「あ、そうか。相部屋とか言ってたな」
「うん。……それで、その……何か食べたいもの、ある?」
若干緊張が滲み出る。男の子と2人なんて、よくあることだし、これまで意識したことはクラスメートでは皆無だった。それが、みんなは授業に出ていて、真央も一度帰っているということで、緊張するのだ。
「あ、いや、なんでもいい。その、お前が作ったものなら」
「……そう」
き、気まずい……!
会話が続かないし、どう話しかければいいのかもわからない。それに、唯一の話題である料理に関して、全てこちらに任せるとは……。
仕方なく自分で決めるけれど、ここは言ってくれた方が楽だった。
よく主婦の人が、
「毎日作ってると何を作ればいいのかわからなくなるのよねぇ」
なんて嘆いてることを知っている。その気持ちも、知っている。
そして、なんでもいい。
この言葉が一番悩むことは、毎日料理を作る人なら常識だろう。
翔太も作っているはずなのだけど、向こうも緊張しているようだったし、やっぱり僕と2人だと意識しているのだろうか。
意識しているならば、それはつまり、僕に気があるというわけなのだろうか。
もちろん、この体型や容姿は僕の望んだ最高のもので、誰もが目を引くだろうことはわかるけれど、恋心を抱いてくれる人は少ないと思う。……なんだか別の話になってきた。
頭を切り替え、何を作ろうか、と考える。
カレーライスは鉄板だけど、ライスがない。却下。
シチュー……白米がない。却下。
ラーメンは、うん、麺をうつところからだなんて作れない。却下。
というか、材料が異世界のものしかない時点で、メインはパンだし、肉は魔物のものになってしまう。
まず、収納に入っているものから考えて行く方が楽だ。
収納に入っている中で、調理しやすいものと言えば、なんだろうか。
適当に一つ、思い浮かんだものを取り出す。それは、角がついており、魚のような魔物。裏の迷宮で戦った魔物で、空中を泳ぐという魔物だったのだ。
これなら、魚に近い味かもしれない。問題は、とんでもなくまずかったらどうしよう、というところだけど、魔物は強いものほど美味しいと言われる。なら、結構強かったこいつなら、問題ないはず。
そう思うことにし、僕は指の先を少し切って、血を滴らせる。そのことに驚きの声をあげる翔太。……魔物を取り出した時よりも驚いている様子だ。
その血を操り、魚を斬り刻んでいく。そうすることで、刺身と、ブロックと、ステーキサイズと、ボロボロの身に変わり果てた。魔物なので、サイズは大きく、ゆうに3メートルを超える。部屋の中にギリギリ収まってよかったと思う。
当然、そんな大きさのものを全て食べるわけもなく、10分の1ほどだけ残し、あとは収納に戻した。
刺身はそのままお皿に、異世界産の野菜とともに盛り付け、ブロックは丁寧に一口サイズほどに切り分けてから炙り、同じくお皿に盛りつける。ステーキサイズのものは、翔太は男の子だからがっつり食べたいだろうと考えてのこと。じっくり中まで火を通してから、これもまた盛り付けを済ませると、最後にボロボロの身をボールに入れ、調味料や、異世界産の余っていた肉を多少加えて、野菜も混ぜる。これで、ハンバーグを作った。
全て作り終えた時には、既に13時を回っていたようで、僕のお腹が音を鳴らす。
少し恥ずかしくなった僕は、翔太にお茶すら出していないことに気付き、今更ながら出した。
「どうぞ。……ごめん」
「いや、ありがとう」
お茶を口に含み、僕は真央のお箸を持ち、翔太には僕が普段使っているものを渡す。
予備のお箸など持ってきていたら、洗い物が溜まってしまうかもしれないと思い、全て一つずつしか持ってきていない。それは真央も、偶然同じだったようで、一つずつしかないのだ。
「随分と可愛らしい箸だな」
お箸を眺めてそう言う翔太に、何故か恥ずかしい気持ちが込みあがる。
「……まぁ、いいじゃない。それより、早く食べよ」
「そうだな。いただきます」
「いただきます」
翔太が口に含むのをドキドキしながら待つ。
「んまい」
小さな声だったけれど、確かに聞こえた。少し嬉しくなり、僕のお箸も進む。
そうして、無言の、楽しいとは言えない、翔太との食事が終わりを告げた。
「にしても、食器少ないな」
「それは、僕も真央も一セットずつしか持ってきてないからね」
「ん? なら、これは……」
「あ、それは僕の。で、僕が使ってたやつが真央のだよ」
そう教えると、翔太はボッと火が出るかのように顔が真っ赤になった。
「あ、じゃ、じゃあ、俺そろそろ帰るわ! あんま遅くなると、誰かに見つかるかもしれないからな!」
「そうだね。また月曜に」
「おう」
足早に去っていく翔太に嘆息する。
食器洗いくらいはしていってほしかったな……と。
その後、食器を洗っている間に通知が来ていた。翔太からで、内容は「飯美味かった! ありがとう!」というものだった。




