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第11話 僕、クリスさんとお話しするみたい

 昼食を済ませた午後。

 もう一度研究所に来ていた。

 自室にこもっていてもすることがないし、かといってあの王族たちをどうこうする必要もなくなっている。

 今の僕の立ち位置は、戴冠式とか、何もしていないから、王様ではなく王様代行という立場らしいことを昼食の席でペルセウスさんに告げられていた。

 そんなわけで、復興支援も出来ずに手持ち無沙汰な僕は、研究所に行って暇を潰すしか方法を思いつかないのだ。

 吸血種が攻め込んできたら話は別だけど、民からすれば悪夢の再来にしかならない。

 そのような鬼の思考を持つほど、僕は落ちぶれていないのだ。


「リステリア様。私は部屋へ戻ります」


「はいはい、わかってるよ。じゃあまた夕食の時にね」


「はいっ!」


 元気よく返事をしたかと思えば、脱兎の如く走り去っていくシア。

 ……あ、転んだ。

 一瞬シアが振り返り、僕を見ると、唇に人差し指を当てて「内緒ですよ」とジェスチャーされてしまう。

 まぁ、誰にも言うつもりはないのだけど。

 あの後、シアは誰にも見つからず、城内を走ったことは怒られなかったらしいので、代わりに僕が怒っておいた。



 中に入ると、カイゼルさん始め、初めて来た時と同じくらいの人が忙しなく動いている様子が見て取れる。

 誰かに話しかけようとするも、見事に僕のことを避けていき、自分の研究に没頭し続ける。

 話しかけようとした瞬間、何かを感じ取ったように移動するのだ。

 全くわけがわからない。


「あっ」


「ん?」


 聞き覚えのある声が聞こえ、振り返ると、そこにはクリスさんが立っていた。

 白衣を身に纏い、今日は翡翠の髪が襟から出ていて、長髪だということがわかる。

 そして、胸はやはり小さめのようだ。親近感が湧いてくるのは気のせいではないだろう。

 僕とは30センチ以上もの差がありそうで、まるっきり大人と子供だ。

 僕はクリスさんを見上げる。


「何故、こちらに?」


「暇潰しに」


 クリスさんの問いかけに即答すると、親指と人差し指で眉間を抑え、カイゼルさんを睨みつけた。

 僕の側に誰か1人はいなくてはならないらしく、カイゼルさんがついてくれている。

 流石、ロボットというべきか、微塵もぶれることなく控えている様は、近衛騎士よりも騎士らしい。


「所長、いいんですか?」


「構わない。ところで、私もやらなくてはならぬことが出来た。リステリア様はクリス、お前に任せる」


「所長自ら……ですか?」


「そうだ」


 クリスさんが驚いたように目を見開く。

 それだけ、カイゼルさんが研究することはないのだろうか?

 所長なのに、職務怠慢だね。

 そう思って所長を視界に収めるべく振り返ると、研究をしていた所員たちが皆、カイゼルさんを呆然と見つめていた。


 ……一体どれだけ研究しない人なんだ。



「……わかりました」


「うむ。……さて、お前たちも持ち場に戻れ。所長室には何人たりとも入ってくるなよ。それから、資材庫から資材を取り出すために人手が欲しい」


 カイゼルさんの言葉に、我先にと手を挙げる所員。

 僕の後ろからはクリスさんの呟きが聞こえる。


「所長が……何を作るんだろう……」


 声色的に、クリスさんも立候補したそうだ。

 けれど、僕のお守りを任されてしまったからには立候補出来ない。

 カイゼルさんは2.3人ほど人を集めると、研究所から出て行き、どこか、資材庫というところに出掛けた。


「さて、クリス。今日は何をする予定?」


「あっ、はい。そうですね。天人様の正体や謎が暴かれてしまいましたので、私はこれと言ってやることはありませんね。強いて言えば、他の者たちがしている研究の手伝いでしょうか?」


「なるほど。じゃあ、僕とお話しでもしない?」


「わかりました。それではあちらへ行きましょう」


 クリスさんが指し示したところは、6畳ほどのスペースにある一対一で話せる個室だった。

 そこへ入ると、僕とクリスさんは2人っきりになる。もちろん、扉は開けっぱなしなので、外からの声は聞こえるし、こちらの声も向こうに聞こえることだろう。


「それで、何のお話をしましょう?」


「ずっと気になってたことがあるんだよね」


 そう。

 召喚された人の中で、唯一僕だけがもらっていない物。

 それが欲しい。途轍もなく欲しい。僕だけが仲間はずれだなんて、嫌だ。


「それは?」


「指輪」


 それだけ言うと、ああ、と言って納得するクリスさん。

 ポケットから何かを取り出し、それをコトっとテーブルの上に置いた。


「これですよね?」


「そう!それ!」


 その指輪は、来希がしていた物に非常に似ているけれど、どこか違う。どこかというより、全体的に違うような気がしてきた。

 ……あれ?


「ちょっと、違う?」


「それは、これが私専用のものだからです。リステリア様が見たことのあるものはまた別の方でしょう。人によって、指輪の形状も異なるのです」


 クリスさんの補足になるほどと頷く。


「それじゃあ、僕の物には出来ないんだね」


 察して、落胆した。

 僕の分はどこにあるのだろうか?


「……そうですね。それぞれに合わせて作製するものですから、リステリア様の物はないかと。この指輪の作製も研究所で行っていますが、もう在庫は全てなかったと思います」


「だよね……。僕も欲しいなぁ」


 残念だ。

 在庫がないなら、仕方ない。

 ……オーダーメイドなのに在庫とかあるのだろうか。


「えっと、在庫って?」


「それぞれに合わせる前の状態で幾つか保管しているのです。非常事態が起こった時のために、と」


 それは便利だ。

 今回のイレヴンの襲撃は、間違いなく非常事態。

 全ての在庫がなくなっていても不思議ではない。


「リステリア様。そんなにこれが欲しいのですか?」


 僕はしょんぼりとしながらも、クリスさんの問いかけに頷いた。


「でしたら、最初からリステリア様に調整した指輪をお作りしましょう。3日か4日ほどはかかる見通しですが、よろしいですか?」


「そんなこと出来るの!?」


「はい。リステリア様は今や国王様と言って差し支えのないお方。誰も非を唱えないでしょう」


「じゃあ、お願い」


 両手をパンと叩き、お願いすると、苦笑しつつも受け入れてくれた。


 ……これで僕にも専用の武具が手に入るよ!

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