表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/522

第5話 始まりの日

 来希と聖龍が転移した直後、2人が目にしたのは中心部に対空している奈緒の姿だった。


「リステリア!」


 来希が叫ぶ。

 だが、それは届かない。あまりにも遠いからだ。それでも見えているのは、偏に血気の賜物だろう。

 虚空に手を伸ばし、グッと握りしめた後、魔気を使って空中に浮かび、周囲を見渡した。

 突然現れた幾つもの気配に気付き、そのどれもがイレヴンよりも強力な相手だとわかれば当然の反応と言える。

 血気によって大幅に上がった身体機能で、いとも簡単に来希の心音を聞きつけた。

 そちらを向き、奈緒は嬉しさのあまり微笑みを浮かべる。彼女もまた、来希の姿が見えているのだ。

 しかし、乗っているモノが悪い。

 なにせ彼女からしてみれば、超越種の頭に乗り、こちらを見て喜色の表情をしている来希、という、若干訳がわからないような光景が映っているのだから。


「来希……?」


 いったいどういう状況なのかと問いたい気持ちを押さえつけ、反撃の砦を囲むようにして配置している超越種を確認した。

 全てで7体おり、奈緒が視線を向けていくと、それぞれが首を垂れ、跪き、完全な服従の姿勢をする。


「何がどうなってるの……」


 呆然とつぶやいて、何もしてこないのであれば、今は来希との再会を喜ぼう。

 そう考えた奈緒は高速で飛翔し、来希の元までやってきた。

 ただ、来希はと言えば……突然跪いた聖龍に驚き、反応できず地面に転がっている。


「来希、大丈夫?」


 ひょこっと顔を出すようにし、奈緒が言った。


「あ、ああ、大丈夫、大丈夫だ」


 逆さまにひっくり返り、後頭部を強く打ち付けて頭痛がするものの、奈緒との再会の喜びの方が勝る。


「来希……来希……!本当に、無事でよかった」


 天使の如き微笑みに、来希はくらりとよろついた。


「ど、どうしたの?」


「いや、なんでもない。うん、なんでもないから、大丈夫」


「そう……ならいいんだけど」


 訝しげに来希を見るも、それ以上追求するつもりはないようだ。

 体を起こした来希と対面し、奈緒は驚きに包まれる。


「魔力なくなったの?」


 目を見開いて問いかけ、来希は自慢げに答えた。


「ああ、俺も、お前にも及ばないけど、すんげえ力手に入れたぞ」


「うわぁ、凄いね!僕とは大違いだよ」


 何と言っても、奈緒が龍気を扱えるようになったのは、神に与えられた巨大な結晶という補助的なものがあったことが影響している。奈緒もまた、それは理解しているのだ。

 もっとも、神に与えられたとは思っていないだろうが。

 そして、魔気は彼女が転化し、魔王そのものに1度なってしまったからであり、血気は見かねた初代王がやむなく与えたものである。

 どれ一つとっても、自力、という言葉は当てはまらない。


「や、そんなことないだろ?俺もリステリアみたいに扱えるようにならねぇと」


 いつかくる数年先の未来を思い浮かべ、来希は拳を握った。

 そんな彼に何か感じたのか、奈緒も話題転換する。


「それで、そこの超越種?だよね?それはどうしたの?」


「ああ、この人は……って、リステリアは知らないのか?」


「そうだね……何か、懐かしい感じはするんだけど」


 それはそうだろう。彼らこそが、奈緒と同郷なのだ。


「この人は聖龍だよ。名前はリースってんだ」


 聖龍?聖龍……聖龍!?

 困惑し、思い出し、驚きに包まれる。

 そんな彼女を置いて、聖龍が、いや、初代七龍が一斉に口を開いた。


『我らの王よ。貴女にお願いしとうことがございます』


 我らの王――それが誰を指しているのか、奈緒にはすぐに理解できた。

 聖龍と聞いた時点で、龍王と共にやってきていたのかもしれないと考え、それならこの7体という数もわかる。

 聖龍、闇龍、雷龍、水龍、火龍、風龍、土龍。

 そして、龍王である龍、その妻であるマリアンヌ。

 偶然この世界に来たと言っていたにも関わらず、偶然にも主要メンバーは揃っていることに首を傾げた。が、すぐに首を横に振る。


「なに?」


 彼らの王が自分だということは理解できた。もう龍王はいないのだから。

 しかし、彼らの願いとはなんなのか。その検討もつかないことに身震いする。


『我らをどうか、終わらせてください』


「終わらせる……?それはつまり……」


『我らの命を、貴女に摘んでほしい。そして、それが出来るのも貴女しかいない』


「そんなこと……」


『しなければならないのです。貴女はいずれ、ここを去るでしょう。我らを制御出来るのはリュウ様の血を引く者のみ。この世界に、貴女以外におりません』


「それは、そうかもしれないけど、でも、こうやって理性があるなら」


『1度、リュウ様が降臨なされた。それが我らの正気を取り戻してくれたのです。しかし、これから先は、世界の破滅だけが残ってしまいます。貴女も世界を崩壊させたくはないでしょう?』


「そりゃそうだけど、やっぱり、僕には」


『貴女にしか出来ないことです。我らを殺せるのは、生かせるのは、現在では貴女1人。この世界にとどまってくださるのであれば、問題ありませんが、そうも行かない理由が貴女にはあるはずだ』


 生かすも殺すも、奈緒次第。

 それを聞き、奈緒の表情が歪む。

 これまで自分の意思で人を殺したことは、もちろんあった。

 だが、それは罪を犯した者たちばかり。

 周りにいる超越種たちは、確かに罪を犯しているだろう。

 彼女にしてみれば、それは仕方のないことだ、と。

 王の血を引く者が絶えたのだから、この世界の民の責任でもあるだろう、と。


『我らはもう、死にとうございます。長い時を生き、自我も少ない。感情の起伏も少なく、これは果たして生きていると言えるでしょうか?』


 その問いかけに、無言で首を振る。


『なれば!我らを終わらせてください!貴女に殺されることに喜びを感じても、恨む者など誰1人としておりませぬ!』


 逡巡し、結論を出した。

 出したくなかった。

 でも、それが望みだという。


「……わかった。来世でも幸せにね」


 あの初代龍王の仲間を、その手で殺すことに躊躇いがあった。

 自然と涙が頬を伝う。


「じゃあ、行くよ……」


 彼女が初代王から受け取った知識には、七龍の命を奪う、血気の応用である魔法があった。いつ使うのかわからなかったが、どうやら今がその時のようだ。

 そして、初代王も、七龍のことを伝え忘れていたようである。


 奈緒が天に向かって手のひらを掲げた。


 ――同時に七龍の姿が変わる。


『やはり、死ぬ時はこの姿でなければ』


 聖龍が呟き、他の龍もそれに同意する。

 そして、聖龍が来希を見下ろして目線で合図した。


 後は頼んだ。


 そう言いたいのだろう、と思い、来希は力強く頷く。



『太古の盟約に従い、永久とわに生きる者たちよ。我が戸坂の名に置いて命ず――、果てなき終わりを迎えよ。【血流縛鎖ブラドライデン】』


 直後、七龍の頭上に巨大な真紅の魔術式が出現する。

 同時に、フェアテイルの地にて、龍神の眷属神である聖龍の頭上にもそれが現れた。

 そして、極光が降り注ぐ。


 後には、七龍の姿はなかった。





 この日は、歴史に名の残る日となった。

 反撃の砦(アグネスアングリフ)内部にスコールが発生し、同時にイレヴンが現れ、

 イレヴンによって吸血種にされた者たちが、上空から降り注ぐ光によって正気を取り戻し、

 1000年に渡る長い時を、外敵から人類を守っていた、初代王の遺した光の膜が消え、

 これまで反撃の砦を支えていた王族が、過去、真の王族を絶えさせた罪深き一族であったことが判明し、

 真の王族の血を引く者が異世界より現れ、絶大な力を民に見せつけ、

 浮遊城クリェムツェルトの更に上空に、体を絡み合わせる巨大な龍が確認された直後、光を降り注ぎ消滅し、

 突如、虚空より現れた7体の超越種が出現し、反撃の砦の中心に向かって一斉に跪き、

 彼らの発した言葉に応えた真の王族が超越種を圧倒的な力によって屠り、

 だが、それだけのことがあったにも関わらず、死者は奇跡的に数百にとどまり、重軽傷者は何かの力によって癒されていた。


 後世において、この日は――始まりの日として語り継がれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感想、評価、レビュー等!いつでもお待ちしてますので気軽にお願いします!また、閑話リクエストを随時受け付けてますので、何度でもご自由にどうぞ! 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ