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第11話 僕、わけがわからないみたい

 それは何かの感情、まるで哀しみに包まれた言葉だ。イレヴンは感情を持っているのか、王の護衛でもしていた人の成れの果てがこれだったのかはわからない。

 それでも、一つだけ確信できた。それは、王の血が途絶えたということ。

 つまり、今の王族はかつての王族とは別物だということだ。

 どうやって入れ替わったのかはわからないけれど、今すぐに断罪することは、カイゼルさんの言った通り出来ないけれど、いつか必ず、真実を解き明かしてみせる。

 ふと下を見ると、吸血種に噛まれた者が次々と吸血種になっていく様子が見えた。このままだとネズミ算式に被害が増えていく。それは僕の望むところではないのだ。

 今なら、あれを1人でだって出来る気がする。

 今の魔気は膨大で、龍気は比較的少ないけれど、知ったこっちゃない。

 今度は頭上に手を伸ばし、その言葉を紡いだ。


『遍く無数の星々よ。今ここに、龍の血を持って汝らの力を引き出さん。我らの魔力を糧に流れ星を。無数に輝く星々がなくなるその時まで』


 瞬間、吸血種の力が引き抜かれた。魔気と龍気の釣り合いを取るかのように3つの力が合わさっていく。

 僕の頭上に深淵を思わせる真っ黒の魔気と、闇の中に差し込む光のように黄金に輝く龍気と、2つの力を融和させるように溶け込んでいく真っ赤な吸血種の力が渦巻いた。

 そして、力が弾ける。

 無数の球体が生み出され、上空へ飛び上がる。そこで、更に吸血種の力が引き抜かれた。

 真っ赤な色をしたその力は魔術式を描く。

 式が完成したと同時に、式を通過して無数の球体が降り注いだ。

 それは本当に流れ星のようで。

 紫の空から3色の混ざり合った流れ星が次々大地に落ちた。

 吸血種に衝突した瞬間、淡い光に包まれたかと思えば瞬時に弾ける。そこから出てきたのは吸血種の力を感じないようになった人々。

 怪我をした人に衝突した際には癒しを与えていく。

 まるで神の奇跡だ。

 吸血種を正気に戻せる方法がこんなところにあったなんて、思いもしなかった。

 魔術式も見たことがないもので、何よりこんなものをイメージしてはいない。


「……紫の空…………?」


 空を見上げ、もう一度確認する。


「光の……膜が……消え………」


 呆然と呟いたその言葉に、僕が空を見上げたのを見てか、民たちも一斉に空を見上げた。

 それぞれ叫声を上げ、ありえない、と言っている。けれど、これは現実だ。

 光の膜があったところから急速に紫色の大気が押し寄せてきて、人工太陽と人工月はいつの間にか消えてしまい、僕たちの時間では夜だったのに、本来は朝なのか、東から青色の太陽が昇っている。

 急速に侵食してきた紫の大気は都市を丸ごと包み込み、どうすればいいのか分からずに僕は棒立ちすることしかできなかった。

 だけど、人体には影響がないようで特に変わった様子はない。


「どうすれば、どうすればいいっ!?」


 奥歯を噛み締め、頭を回す。けれど、いい考えは浮かばない。この大気の侵食を食い止めるためにはどうすればいいのかさっぱりわからないのだ。

 光の膜を作ればいい、とは思っても、この都市丸ごとを包み込むとなれば力の消費が激しく、とてもずっと維持することは不可能だ。

 そんな時、どこからともなく声が聞こえた。


『龍王リステリア・戸坂の名の下、ダグラスムントに命ず。闇の力を抑えよ』


 それは、自分の声だった。

 口を開いた覚えもなければ、ダグラスムントなんて名前も知らない。

 それに、


「戸坂……?」


 まるで日本人のような名前だ。いや、日本人の名前としか思えない。

 思えば、スツェルさんの名前にヒメラギというものがあった。日本と酷似した名前。

 偶然かもしれない。

 だけど、こうも考えられる。

 初代王は日本人だった、という可能性だ。

 いや、初代王だけではなく、初代龍王も。


「そうじゃない……おかしい、何かがおかしい」


 初代王が僕に干渉した?

 違う。

 この世界に龍王はいないのだ。

 なら何故、龍王リステリア、と出てきたのか。


「そう言えば……あそこは龍王の……つまり僕は初代龍王の血を引いている?」


 初代龍王が助けてくれたのだろうか。紫の大気が徐々におさまっていく。元あった場所へ戻るかのように。

 だけど、そうだとしたら、初代王が僕の夢に出てきた理由は?

 例えば、初代王と初代龍王は夫婦だった?

 それはない、か。

 夫婦の契りを交わしているはずだから、寿命は同じ。なら夫婦という可能性は限りなく低い。

 残る可能性は、初代龍王の子。

 これが1番可能性が高く、しっくりくる。


「ということは、僕は初代龍王の血筋で、初代王の血は元は初代龍王だから、かなり血は薄まっていても親戚に当たる?」


 そんな馬鹿な。

 これだけの年月を、5万年もの年月を経ても血筋が引き継がれていくなんて。


 あり得ない。


 そう思いはしても、夢の中に出てきたり僕に力を与えた初代王と、僕を助けてくれた初代龍王が偽物だと思う方があり得ない。

 だけど、疑問は多い。

 初代王の名前はオデュッセウス・ヴァンパイアで、初代龍王の名前は知らないけれど、少なくとも戸坂、と付くはず。


「頭がパンクしそうだ……」


 下にいる人たちは晴れていく空を見て、空にいる僕を見て喝采を送ってきた。けれど、頭を抱えて乾いた笑みを浮かべることしか、僕は出来なかった。

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