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第8話 僕、報告を聞くみたい

「さぁ、もうこのまま戻りましょう」


 お姫様抱っこを来希以外にされるのは初めてだなぁと思いながらも、降ろしてもらい、僕は軽く頷く。今、廊下から外を見ると人口太陽が沈みかけてきていた。そろそろ戻って夕食の時間になる。


「カイゼル、また今度来るよ」


「はっ!お待ちしております!」


 カイゼルさんに別れを告げると、周囲を近衛騎士が固めて歩き始めた。僕は背が低く、近衛騎士たちは背が高い。そのため歩幅には大きな差があるけれど、そこは4人がしっかり合わせてくれている。

 そうして僕の部屋に戻る道中、慌てた様子の近衛騎士が僕を見つけるなり安堵の表情になった。


「ノア様!至急国王様の部屋へお越しください。南部方面からの報告があります」


 それだけ告げると足早に戻っていき、僕は周囲を固めている近衛騎士たちと何事なのか、と顔を見合わせる。あまりゆっくりしていると僕だけ報告が聞けない、なんてことになりそうなので走ることにした。

 身体強化をかけられず、そのままの身体能力なのでアイドルで培った体力があってよかったと心底思う。

 お父様の部屋の前で呼吸を整え、開け、と言って扉を開けようとしたけれど、力を放出できずに開けられなかった。慌てて近衛騎士の1人が代わりに唱えると、扉がゆっくり開いて行く。中には王族と護衛たち。その前に跪いている伝達係。


「遅れました」


「よい。では、報告を聞こうか」


「はっ!」


 メリエルさんの隣にある椅子に腰をおろし、伝達係を見る。その顔には汗が浮かんでいた。


「報告します。南部方面にて、歴史上類を見ない規模の砂嵐が発生し、その進路がここ、反撃の砦のようです」


 それを聞いて、お父様は嘆息する。


「はぁ、その程度か。その程度ならば、報告はいらないのではないか?」


「⋯-この都市を守っている光の膜は吸血種から守ってくださいますが、自然災害からも守ってくれるのですか?雨は普通に降りますので、私どもはそれが不安なのです」


 この世界に来てから雨を見ていないけれど、どうやら降るらしい。人工的な太陽と月だし、光の膜もあるから自然災害は起こらないものだと考えていた。

 それは間違いだったのか、と考えを改める。


「大丈夫だろう。まさか、そのようなことはないはずだ。そんなことより夕食の時間だ。その砂嵐とやらが消えてから、また報告するがよい」


 お父様は報告を聞き、呆れたようにため息を吐いた後そう言った。あの光の膜が自然災害も防ぐ、と確信でもあるかのような言い方で、本当にそうなのかと思わせる。

 だけど、それが本当のことだとは限らない。光の膜がこの都市を丸ごと包んでいるのと、何であろうと防ぐとは限らないのだ。むしろ、よくその疑問を思いついたと賞賛したい。

 報告しにきた伝達係は力なく「⋯⋯承知しました」と言い、部屋から出て行った。

 お父様たちはこれで解散だと言わんばかりに退室を促し、護衛であるピルロさんのみが室内に残り、他は全員退室することになった。


「無駄足だったな」


 メリエルさんも、お父様と同じ考えらしい。どうして謎ばかりなのにそれほど信用できるのか、その理由を知りたい。もしかしたら、僕が知らない何かがあるのかもしれない。なら、それを教えてくれたっていいんじゃないだろうか。


「殿下、妃殿下。このまま食事に致しましょう」


 メイド長が僕たちを呼び止め、食事にしようと提案する。

 だけど、この後食事にありつけることは出来なかった。


「ノア様!ここにおられましたか!」


 食堂に向かっているところへ前方からカイゼルさんが走ってくる。相当探していたようで、額には汗がびっしりと溢れていた。


「どうかしたの?」


「はい。実は南部方面から巨大な砂嵐が来ています。至急、避難指示を出してください」


「ちょっと待って。どうしてそれをカイゼルが知ってるのか、教えてもらえる?」


「はい?まぁ、そうですね。クリスとの談義で説明があったと思いますが、遥か上空にある撮影機からの映像で得た情報です」


 そう言えば、そんなものもあった。あれは拡大されていたのか、と今更ながら思う。

 まぁ、少し考えてみれば、この都市を映すためだけの撮影機なわけがない。もっと他にも使い道はあるはずなのだ。

 1つ気になると言えば、どうして僕に許可を求めているのか、というところだ。それに、来た方から考えてお父様のところが先というわけでもなさそうだ。

 ここで、僕は気になっていることを聞いてみることにした。この人なら答えを持っていそうだ。この言い方から考えて、ほぼ間違いなくそうなのだと思うけれど。


「あの光の膜で砂嵐を防げるんじゃないの?」


「とんでもありません!あれは吸血種の特性に反応しているものです!」


「なら、外が見えないのは?」


「吸血種の特性は、体内にある全ての血を力に変化させ、暴走している状態のことです。暴走状態にある吸血種の血液の反応は人とは違い、そのパターンを解析して内部に入り込める者を制限しているのです。そのシステムが影響を及ぼしていると推測されます」


「じゃあ、吸血人間は⋯⋯暴走していないから入れるのかな。それならイレヴンは⋯⋯?」


「強い者ほど、安定した状態に近いのです。ギリギリ侵入出来るのがイレヴンとなりますが、暴走状態が長い期間続いたことによって少しずつパターンが乱れなくなります。ただ、既に吸血種になった者は元には戻りませんので、敵であることに変わりはありません。討伐すべき敵です」


「⋯⋯そう。とにかく、避難しないとダメってことだね」


「はい」


 きっぱりと言い切るカイゼルさんに許可を出す前に、メリエルさんを見た。普通、僕ではなくメリエルさんに許可をもらうと思うし、その前にお父様のところへいくはずなのに。


「――わかった。避難を許可します」


「ありがとうございます!」


 許可を出すと、カイゼルさんが小走りで研究所の方に走っていった。


「何故ノアに許可を求めるのか⋯⋯。しかも今のは初めて聞いたぞ?普段何をしているのかわからない研究所があのようなことまで調べていたとはな。一度行かなければならんかもしれん」


 そう言ったメリエルさんは胡散げに僕を見て、スタスタと食堂に行く。

 僕、何もしてないよね?


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